エレオノーラの告白 3
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心臓が、凍るかと思った。
驚き息を呑むわたしの背後で、彼らが農工具を手に立ち上がる気配がする。
「待って!」
わたしが止めると、彼らは不思議そうな顔をした。
そして気づく。
千年が経った今でも、彼らは人間が自分たちを傷つけると思っているのだ、と。
確かにそうかもしれない。
彼らが、わたしが、魔族だと知られれば人間たちはわたしたちを滅ぼそうとするのかもしれない。
たとえどれだけの月日が経とうと、あの時の絶望や憎しみが完全に消えることはないけれど――、彼らはたぶん、わたしのように転生したわけではないのだろう。生き延び、命を繋ぎ、そうして生まれてきたのが彼らだ。だから千年前の記憶など持ってはいない。それでも人間を警戒するのは、彼らの中に流れる血がそうさせるのか、それとも別の理由があるのかはわからない。
わたしの制止を彼らが聞いたことで、ディートリヒがさらに驚いた顔をする。
「エレオノーラ、彼らは……?」
ディートリヒの声はかすれていた。
けれどもわたしを見つめる目には、恐怖も侮蔑も、何もない。
驚いてはいるけれど、いつも通りの優しいディートリヒの瞳だった。
……ああ、もう隠せない。
自然と、わたしの中にすとんとそんな気持ちが生まれる。
正解にたどり着いているのかはわからない。
けれど、ディートリヒは何かには気がついている。そんな気がする。
わたしが誤魔化し、隠そうとすれば、優しいディートリヒは何も言わずに騙されたふりをしてくれるだろう。
そして同時に彼は、とても傷つくはずだ。
わたしは、優しいディートリヒの心を傷つけたくない。
わたしの秘密を知ったことでディートリヒがどんな反応をしても、もうこれ以上隠し通すのは不可能だ。
もしわたしの正体を知り、ディートリヒがわたしを軽蔑しても、それは仕方のないことだろう。悲しいけれど、人間と魔族とはそういうものなのだと諦めるしかない。
幸い、騎士たちは全員気絶している。
ディートリヒがわたしたちに負の感情を抱いたとしても、力を使えばわたしは彼の目の前から同胞たちを連れて逃げることが可能だ。
だから、ここが潮時。
……ここはちょうど人目もないから、大丈夫ね。
わたしは覚悟を決め、ディートリヒに話をすることにした。
千年前のサンドリアだった時の記憶から今日までの、すべてを――




