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元魔王の娘が聖女に転生っておかしくないですか?~前世でわたしを殺した勇者の末裔に言い寄られても困ります!~  作者: 狭山ひびき


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エレオノーラの告白 1

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 どんな魔法を使ったのかは知らないが、その日のうちに国王から外出許可をもぎ取って来たディートリヒは、その後の行動も早かった。


 あっという間に旅支度を整え、わたしが西へ向け出立できるようになったのは四日後のこと。

 シュタウピッツ公爵領が目的地だと告げても、ディートリヒはさほど驚いた様子もなかった。


 西へ向かうのには納得しても、シュタウピッツ公爵領へ向かうと言えば何かしらの反発はあるだろうと思ったのだが、彼が何も言わないことがわたしにはどうにも不思議で仕方がない。

 対面に座るディートリヒの表情はいつも通りに見える。


 変わったところはない、はずだ。


 けれどもやっぱり何かが引っかかって……、けれどもいくら考えたって些細な違和感の正体には気がつけなくて、結局わたしは考えることをやめた。――そんな中、それは起こった。



     ☆



 王都を出発して三週間。


 わたしとディートリヒの乗った馬車の周りには数人の護衛がいる。

 わたしはともかくディートリヒの立場なら護衛はもっと大勢いるべきなのだろうが、向かう先がシュタウピッツ公爵領だと聞いたディートリヒが数を減らしたのだ。


 というのも、大勢の騎士を連れて、王太子の地位を争っているライバルの領地へ向かうのはよろしくないらしい。

 こちらにその気はなくともあちらを警戒させるし、下手な言いがかりをつけられる可能性もあった。

 わたしたちの目的地は国王以外は与り知らぬところだが、それでも万が一と言うこともある。

 そのため護衛は必要最低限となったのだ。


 だが、護衛の数が最低限とはいえ、比較的治安のいいルートを通って移動してきたため、今のところ何の問題も発生していない。

 途中、やむを得ず野盗が出ると言われた街道を通ったときは多少緊張したけれど、幸いにして明るいうちに通過したからか、襲われることはなかった。


 そろそろシュタウピッツ公爵領の端に入るが、この先も安全ルートを通るので大丈夫だろう――そう思った矢先、それは起こった。


 山沿いの道を馬車が進んでいたときのことだ。

 ピリッと、うなじのあたりの毛が逆立つような、不思議な感覚がわたしを襲った。


 ……なに?


 戸惑い、顔を上げたそのとき、馬車が停まる。


「何があった?」


 馬車の中からディートリヒが声をかけると、「賊です」と緊張した声が返って来た。


 ……賊?


 わたしは馬車の窓から外を伺おうとしたが、ディートリヒに半ば抱き込むようにして止められた。


「扉に近づくのは危険だ」

「でも――」


 賊?

 果たして本当にそうだろうか?


 ……いいえ、違う。違うわ。これは……。


 ありえない、と心の中の自分が告げた。

 けれども、わたしが間違えるはずがない。

 違う。これは違う。賊じゃない。違う――


「数は少ない! 斬り臥せろ!」


 外から騎士の怒号がする。

 わたしはひゅっと息を呑んだ。


 ぐるぐると、わたしの中の「サンドリア」の記憶が渦を巻く。


 違う違う違う。


 ――やめて!


 わたしは悲鳴を上げたのか、どうなのか。

 気がつけば、わたしの中の魔力が膨れ上がっていた。


「エレオノーラ⁉」


 わたしを腕に閉じ込めているディートリヒを突き飛ばし、馬車の外に躍り出る。

 そして。


「気絶しなさい‼」


 わたしが叫んだ直後、馬車を守ろうとしていた騎士たちが次々に倒れた。

 わたしは、こちらにゆっくりと近づいてくる「賊」を確かめる。


 ボロボロの服。

 ガリガリの腕や足。

 こけた頬。

 そして手には、どこかで拾ってきたのだろうか、鍬などの農工具が握られている。


 ……ああっ。


 わたしの目から、涙があふれた。

 賊がふらつきながらわたしのそばまで走ってきて、そしてその場に崩れ落ちるように膝をつく。


 千年が経った。

 彼らは違う。昔の彼らではない。わかっている。わかっているけれど。


「生き残っていたの……!」


 かつての同胞と同じ気配を持った彼らに、わたしは泣き崩れる。

 しかし、その感動も長くは続かなかった。


「……エレオノーラ?」


 背後から聞こえてきた声に、わたしはぎくりと肩を揺らす。

 驚愕に目を見開いて、油を指し忘れたブリキ人形のようにぎこちなく背後を振り返れば、馬車の中からわたしと、それから彼らを、瞠目して見つめるディートリヒの姿があって――


「どうして……」


 自然と、茫然としたつぶやきが落ちる。

 だって、ありえない。

 おかしい。


 なぜならわたしは、「人間」だけを気絶させる魔術を、先ほど使ったからだ。








お読みいただきありがとうございます!

本日、Dノベルf様より、

『未来で冷遇妃になるはずなのに、なんだか様子がおかしいのですが…』2巻が発売されました!

こちら、完全書下ろしとなります!

ご興味があればお手に取っていただけますと幸いです。

また、本作のコミカライズ1巻も12/19発売予定です!

どうぞよろしくお願いいたします。



挿絵(By みてみん)

12/5発売 未来で冷遇妃になるはずなのに、なんだか様子がおかしいのですが…(ノベル)2巻

レーベル:Dノベルf(集英社)様

ISBN:978-4-08-632017-7

イラスト:珠梨 やすゆき先生


挿絵(By みてみん)

12/19発売 未来で冷遇妃になるはずなのに、なんだか様子がおかしいのですが…(コミックス) 1巻

レーベル:ヤングジャンプコミックス(集英社)様

ISBN:978-4-08-893033-6

漫画:貴里 みち 先生


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