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元魔王の娘が聖女に転生っておかしくないですか?~前世でわたしを殺した勇者の末裔に言い寄られても困ります!~  作者: 狭山ひびき


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西へ向かいます

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「え? しばらく外出したい?」


 翌朝、わたしはさっそく、ディートリヒにしばらく離宮を離れたいと伝えた。

 ディートリヒはそれを聞くとガチャンとスープスプーンを取り落としたが、そんなに驚くことだろうか。

 わたしには違和感が残るものの、堕胎薬の犯人はユリアだったということで落ち着いたため、アレクサンダーも以前ほど警戒していない。またフランツィスカも犯人が捕まり、処刑されたことで(実際には連れ去られたのだが、当然、そんなことは知るはずもない)、安心しているようだ。


 今であれば、わたしがしばらくフランツィスカの側に行けないと言っても許可が下りるだろう。

 わたしはディートリヒに保護されたが、離宮から出てはいけないとは言われていない。なので、しばらく留守にするくらいいいだろうと思ったのだが、ディートリヒは難しい顔をした。


「まさかクラッセン伯爵家に戻るつもりじゃないよね? ユリアの件でクラッセン伯爵夫妻、とりわけ夫人の方は君に恨みを抱いているはずだよ。戻れば何をされるか……」

「違います。ちょっと西の方に行ってみたくて」

「西?」

「ええっと、旅行……みたいなものです」

「西に、旅行?」


 ディートリヒがますます解せない顔になった。

 けれども昨夜見たことを伝えるわけにもいかないので、ここは旅行で押し通すしかないのだ。


「何か見たいものでもあるの?」

「えーっと……、まあそうですね。ずっと外を自由に歩けなかったので、出かけたいなって」

「なるほど、確かにそうだよね……」


 意外にも、ディートリヒは大きく頷いた。

 ずっとクラッセン伯爵家のタウンハウスの庭にある小屋に閉じ込められるようにして生活していたわたしの境遇を知っているからなのか、わたしが外を見たいと言うと、当然の欲求であるように受け取ってくれたらしい。


「うーん……。でも、やっぱり一人は無理だよ。君は聖女だし、それ以前に女性だからね。一人旅なんて危なくて許可できない」


 わたしは魔術が使えるし、最悪姿を消して逃げることができるので何も危険はないと思うのだが、そうとは知らないディートリヒは首を横に振る。

 かくなる上は姿を消して逃げ出すしか……と悪いことを考えていると、彼が探るような視線を向けてきた。


「ちなみにその旅行は、一人で行きたいの? 私や護衛が一緒だったら、嫌?」

「嫌ってわけじゃ……って、え?」


 今、「私」って言った?

 護衛はまだわかるが、「私」?


 ……え? ディートリヒ様、ついてくるつもり⁉


 王太子候補であるディートリヒはとても忙しいはずだ。

 気軽に出かけられる身分ではないだろうと思っていると、彼は苦笑して、人差し指を口に当てながら続けた。


「まだ確実じゃないけど、私やジークレヒトは王太子候補ではなくなるはずだからね。多少無理を言ったところで、傷がつくようなものは何もないよ」

「あ……」


 そうだった。今、王妃のお腹の中には子がいる。

 無事に生まれてくるかどうかまではまだわからないけれど、その子が生まれれば、王女であろうと王子であろうと、その子が正当な王位継承者になるはずだ。


 ……でも、ディートリヒ様はそれでいいの?


 ディートリヒは王太子候補として膨大な量の教育を受け、忙しく仕事をし、ジークレヒトと競い合っている身である。

 新しく生まれてくる子が正当な王位継承者になると言うことは、ディートリヒのこれまでの努力や苦労がすべて水の泡になるということだ。

 仕方のないこととはいえ思うところはないのだろうか。

 わたしがじっと見つめていると、ディートリヒが肩をすくめた。


「王妃様がずっと悩まれていたのは、母上から聞いて知っていたからね。私は喜ばしいことだと思うし、今までだって、その可能性を考えてこなかったわけじゃない。だから、もしそうなったときには、もし私が正式に王太子になっていたとしても、その地位を返上するつもりでいたよ。だからまあ、想定の範囲内だ」


 ディートリヒの表情からは、純粋に今の状況を喜ばしいと思っているのが見て取れた。


 ……ディートリヒ様って、本当に優しいわよね。


 普通ならばこうはいかないだろう。

 これまでの努力に見合った何かが用意されなければ納得できないはずだ。

 それなのに、ディートリヒは構わないという。


「それで、私が一緒でもいいのかな? それならば私から陛下を説得してみるよ」

「いいんですか……?」

「うん。それに……陛下としても、私が離れたほうが安心するかもしれないし。ほら、一応ユリアが犯人ってことになっているけど、完全には警戒を解けないだろう?」

「ディートリヒ様が王妃様に危害を加えるなんて、本心では陛下も思っていないと思いますよ」

「そうであっても、いない方が安心するのは間違いないと思うよ。今はできるだけ危険因子を排除しておきたいだろうからね。だからちょっと長期間の旅行に行くと言えば、許してくれると思うんだ。君が一緒だと言うと多少嫌な顔はされるだろうけど、新しく信頼できる侍医も見つけたみたいだし、押し通せると思う」


 ここまで言われれば、わたしも嫌とは言えない。

 ディートリヒを巻き込むようで心苦しいが、逆に言えば彼が一緒でなければ許可をしてくれないだろう。こっそり抜け出すくらいなら一緒に堂々と出かけたほうがいい。

 わたしがお願いしますと言うと、ディートリヒは機嫌がよさそうな顔で頷いた。


 ――そして有能な彼は、その日のうちに、国王の許可をもぎ取って来たのだった。






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