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元魔王の娘が聖女に転生っておかしくないですか?~前世でわたしを殺した勇者の末裔に言い寄られても困ります!~  作者: 狭山ひびき


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グレータ・シュタウピッツのお茶会 2

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 シュタウピッツ公爵家は、ドゥルンケル国で一番権力を持っている公爵家だ。

 歴史も長く、ドゥルンケル国の西に広大な領地を持っている。


 グレータ・シュタウピッツのお茶会は王都のタウンハウスで開催されたが、タウンハウスも恐ろしく広大で、クラッセン伯爵家がまるで鳥小屋に思えるほどの差があった。


 お茶会はシュタウピッツ公爵家の大きな温室で開かれるようだ。

 一昨日降った雪がまだ庭には白く積もっていて、温室の窓からはその様子がうかがえる。

 ボイラーで温められている温室は、まるで春のように温かく、四季折々の花が咲き乱れているので、うっかり季節を忘れてしまいそうだ。

 温室に用意されている茶もお菓子も、すべてが最高級。

 なるほど、歴史と権力、そして莫大な財産を保有しているシュタウピッツ公爵家は、王女が嫁ぐのにこれ以上ない家だろう。


 ディートリヒとお茶会に参加したわたしは、アレクサンダーに頼まれて、本日は許される限り国王夫妻にくっついていることとなった。

 ディートリヒの両親であるケルヒェン公爵夫妻も招待されていて、他に招待されているのは大臣夫妻だったりそのご令嬢だったりと、錚々たる顔ぶれだ。


 ……国の権力者だけを招待したみたいな顔ぶれね。


 その中にたいしたことない伯爵令嬢であるわたしがいるのは違和感しかない。

 もっとも、わたし以外の人にはわたしは「聖女」の肩書を持つ上位の権力者なのだろうけど。


 ……魔族にも身分とか権力とか、いろいろあったけど、人間ほど複雑で面倒ではなかったわね。


 魔族が真に尊ぶものは保有している魔力量だったので、ある意味考え方がシンプルだった。

 たとえ何かのきっかけで権力闘争が起こったとしても、最終的には魔力量で決着をつけるので、大勢の血が流れることもなかったし、魔族同士で戦争なんて起こったことがない。

 その点魔力のない人間は争う際に武力を用いるが、どういうわけか個々で争わず集団で争おうとするので大きな内乱や戦争に発展するのだ。力比べをやりたいなら個人個人ですればいいのに、まったく持って意味不明である。


「エレオノーラ、よく来てくれましたね」

「お招きいただきありがとうございます、シュタウピッツ公爵夫人」

「あら、グレータと呼んでくださってかまいませんよ」


 今日のグレータは非常に機嫌がよさそうだった。

 パーティーのときも不機嫌と言うわけではなかったが、どことなくピリピリしているように見えた。けれども今日はにこにこしている。

 アレクサンダーからフランツィスカについていてほしいと言われているので、わたしとディートリヒは国王夫妻と同じテーブルに着いた。


 テーブルは五人掛けで、そしてお茶会の最中で移動しやすいように一席はあけておくルールだそうなので、この席はわたしたちだけのはずなのに、なぜか当然のようにあいている一席にグレータが座ってしまった。

 グレータの夫はケルヒェン公爵夫妻と同じ席についているので、本来彼女が座る席はあちらだろうに、どういうつもりだろう。


 ……お茶会がはじまってから移動するって聞いたけど、まだはじまってないわよね?


 まだ招待客が全員揃っていないので、はじまりの挨拶すらされていない。

 その前にさっさと席を移動してくるなんて、いくら主催者とはいえ自由すぎやしないだろうか。

 しかも国王夫妻を差し置いて、わたしに一番に挨拶するとか……、この国で一番の権力者が誰か理解していないわけでもあるまいに。


「フランツィスカ、体調はどう?」


 ……うん、この人、自分が女王か何かだと勘違いしているんだわ、きっとそう。


 いくら王の姉であっても、王妃であるフランツィスカの方が身分は上なのに、まるで自分の方が上だと言いたそうな言い方だった。

 これがプライベートならば構わないだろうが、お茶会とはすなわち社交の席であり、公の場だ。


 ……なるほど、こうしてジークレヒトが出来上がったわけね。


 子は親の鏡と言うが、まさしくそうだと思う。

 あの傲慢な性格は、間違いなく母親からの遺伝だ。


「おかげさまで、今は落ち着いておりますわ、お義姉様」


 フランツィスカがおっとりと微笑む。


「そう? 無理はしないようにね。あなたは体が弱いみたいだから」

「ええ、心得ております」


 ……うん? 体が弱いって、王妃様は別に虚弱体質ではないわよね?


 フランツィスカが堕胎薬を飲まされた際に、それを解毒し癒すために彼女の体に魔力を流したが、フランツィスカはいたって健康体の女性だった。


 ……もしかしてこれ、遠回しな嫌味なのかしら? ああ、嫌味なのね。


 アレクサンダーがわずかに眉をひそめたので間違いないだろう。

 これはグレータの嫌味で、そうすると「体が弱い」イコール「子供ができない」ことを指して、遠回しに子を産むという王妃の務めが果たせていないとフランツィスカを責めているのだとうかがえる。

 笑顔で毒を吐くグレータもグレータだが、それを笑顔で流せるフランツィスカもなかなかすごい。


 ……うん、人間の貴族の社交って大変だわ。わたし、遠慮したい。


 早くも居心地が悪くなったところで、時間になったようだ。

 グレータと彼女の夫であるフンベルト・シュタウピッツ公爵がお茶会のはじまりを告げる。

 見れば、少し離れた席にはジークレヒトの姿もあった。


 ……お茶会がはじまるまではおとなしくしているみたいだけど、はじまったら絶対こっちにくるわよね。


 今日は幻惑草を身に着けているのだろうか。

 身に着けているのが確認できればすぐに温室の空気を浄化しなければ。


「エレオノーラ、大丈夫?」


 ジークレヒトを警戒するあまり表情が険しくなったのかもしれない。ディートリヒがそっと耳打ちしてきた。


「大丈夫です。その……皆様すごい方たちばかりなので、気後れして」

「ふふ、そのすごい方たちに君も入っているんだよエレオノーラ」


 気にせずに堂々としていればいいよとディートリヒが笑う。


「何かあっても私が守るから、大丈夫だよ」


 ディートリヒに守ると言われるのは今日がはじめてではないが、彼にそう言われると、不思議と安心するのは何故だろう。


 グレータたちの挨拶が終わると、さっそく出席者たちが移動をはじめる。

 わたしの席には国王夫妻がいるので当然だが、大勢の挨拶客が訪れた。

 グレータも夫とともに挨拶に来る人を対応するため、いったん席を離れている。

 グレータが離れたからか、アレクサンダーもフランツィスカもどこかホッとした様子だった。もともとグレータの当たりが強そうな印象ではあるが、それに加えて堕胎薬の一件があるので警戒しているのだろう。


 こっそりアレクサンダーに教えてもらったことには、侍医は尋問したけれど主犯が誰であるのかまではつかめなかったという。

 と言うのも、実行犯である侍医に指示を出した人間はいたが、指示の仲介役が多すぎたこと、そしてその仲介役の人間の数名が行方知れずだったり死亡していたりしていたことで、大元までたどり着くのが困難であるらしいのだ。

 侍医が捕らえられたという情報をどこかから仕入れて、すぐさま自分までたどり着けないように処理をしたのだろうとアレクサンダーは言ったが、それにしても手際が良すぎる気がした。


 侍医が捕らえられたことを知るのはほんの一部の人間だ。アレクサンダーが厳重に隠匿したのでそれを知るのは困難を極める。つまりは相手にはそれだけの情報網が、城の中にあるということだ。

 侍医を尋問すれば主犯までたどり着けると思っていたアレクサンダーは、相手が一筋縄ではいかないとわかるといっそう警戒を強めている。


 今日だって、さりげなく目の前に出されているお茶やお菓子をフランツィスカが口にする前に口にして自ら毒見をしているくらいだ。何が何でもフランツィスカを守るのだという気概がうかがい知れる。


「エレオノーラ」


 考え込んでいるところにディートリヒに名前を呼ばれて顔を上げると、ジークレヒトがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


 ……やっぱり来たわね。


 来るだろうとは思っていたから驚きはしないが、わかっていても嫌いな相手が近づいてくるというのは気分のいいものではない。

 けれども相手は王太子候補だ。ディートリヒが一緒にいるとはいえ、座ったまま迎えるのはあまりにも横柄だろう。

 わたしは仕方なく立ち上がり、ディートリヒとともにジークレヒトに挨拶をした。


「我が家の茶会にようこそ。楽しんでいってくれ」


 にこりとジークレヒトが微笑む。

 わたしは彼の胸元のバラに視線を向け、くんと鼻を動かした。


 ……あれ?


 くんくん、と再び匂いを確かめる。


 ……変ね。いつも身に着けるか持ち歩くかしているくせに、今日は幻惑草をつけていないみたいだわ。


 在庫がなくなったわけではあるまい。先日あんなに大量に仕入れていたのだから。

 しかも不思議なのはそれだけではなかった。

 いつもしつこいジークレヒトが、どういうわけか、今日は挨拶を終えるとさっさと離れていったのだ。


 ……何か変なものでも食べたのかしら?


 怪訝に思うも、もちろん問いただすことなんてできないし、したくもない。


 わたしは首をひねりつつ、変に絡まれなかったのだからよしとしようと、ディートリヒとともに次の挨拶客の相手に移った。






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