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淑女教育を受けることになりました 3

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 夕方になって、ディートリヒがげんなりした様子で戻って来た。

 どうやらヨゼフィーネは、帰り際に城に寄ってディートリヒに文句を言ったようだ。

 母親から散々説教をくらったディートリヒは、離宮に戻るなり、エレオノーラに「ごめん」と謝って来た。


「母上がおしかけて来たんだって? 二週間後のお披露目パーティーも……。君に負担はかけたくなかったんだけど……」


 ヨゼフィーネが口を挟んできたので、お披露目パーティーを欠席することはできなくなったとディートリヒは肩を落とす。

 気遣ってくれたのは嬉しいけれど、わたしがお披露目パーティーを欠席することでディートリヒが悪く言われるのは避けたかったので、むしろヨゼフィーネが教えてくれて助かったと思う。

 もちろん気遣ってくれたディートリヒにそんなことは言えないので、「大丈夫ですよ」と微笑んで、彼とともにダイニングへ向かった。夕食まではまだ少し時間があるが、疲れているようなので、お茶でも飲んでもらおうと思ったのだ。


「それで、母上から、君に淑女教育の教師をつけると聞いたんだけど」


 ディートリヒが心配そうな顔で言った。

 オイゲンが紅茶を用意してお菓子とともに目の前に置いてくれる。その際、ディートリヒがじろりとオイゲンを睨んだので、ヨゼフィーネの言いなりになった彼を責めているのだろうが、オイゲンは二人に挟まれてとっても可哀想なのであまり責めないであげてほしい。わたしがオイゲンの立場でもあのヨゼフィーネの迫力には逆らえなかった。


「わたしはこの通り、淑女教育を受けていませんからね」

「エレオノーラの所作はとても綺麗だよ。気にする必要はない」


 そうは言うが、そういう問題ではないのだ。

 わたしは前世の記憶と言う財産で何とか無様にならない程度に取り繕えているけれど、今の時代の、それも人間の社会での教養があるわけではないのである。せいぜい本で読んで知った程度のものなので、それだけでパーティーを乗り切るのは不安でしょうがないのだ。


 ……わたしのお披露目ってことは、わたしが注目されるのは避けられないものね。


 うっかりぼろを出さないためにも、相応の準備は必要なのである。


「そういえば、マダム・コレットが来たって聞いたけど、大丈夫だった? あのご婦人は、確かに人気のデザイナーではあるんだけど……、なんというか、勢いが苦手で……」

「ああー……」


 ディートリヒの言いたいことはなんとなくわかった。

 ヨゼフィーネの指示で急遽呼ばれたマダム・コレットは、わたしの顔を見るなり「まあああ!」と大声で叫んで、だーっと走り寄ってきた。そしてわたしの周りを「まあまあ」「あらあら」「うふふふ」と言いながら五周くらいしたあとで、窓際に立っていろと言うなりカバンから取り出したスケッチブックに、これまたすごい勢いでデザイン画を書きはじめたのである。

 その数。十七枚。

 わたしはその間、マダム・コレットにいろいろなポーズをさせられて、すっかりへとへとになった。


 けれどもマダム・コレットの勢いは止まらず、デザインが終われば持って来ていた大量の生地見本を体に当てられ、レースをぐるぐる巻きにされて、「お花は何が好きかしら?」「色は何が好きかしら?」「あらあら腰が細いのね」「はいサイズを測るから服を脱いで」とこれまた立て板に水状態でまくし立てられた。解放されるまでの三時間、わたしは口を挟む間もなくマダム・コレットの言いなり人形と化していたのだ。

 ちなみにその間、ヨゼフィーネはにこにこ笑いながら優雅にティーカップを傾けていた。目が合っても助けてくれなかった。マダム・コレットはあれが正常運転のようで、ヨゼフィーネには見慣れた光景だったのだろう。


「三日後に仮縫いのドレスを持って来られるそうですよ」

「三日⁉ 三日で仮縫いまで仕上げるつもりか⁉」


 ディートリヒのこの驚きようから察するに、三日と言う日数はあまりにも短いのだろう。


 ……うん。これは、五着作るって言わない方がよさそうね。


 当初お披露目パーティーのドレス一着の予定だったのに、マダム・コレットがあれも作りたいだのこれも作りたいだのデザイン画を見せてヨゼフィーネに交渉し、最終的に五着も作ることになったのだ。黒髪に黒い瞳という珍しい外見をしているわたしは、マダム・コレットの創作意欲に火をつけてしまったらしい。

 わたしはディートリヒに悪いからと言ってお断りしようとしたのだが、ヨゼフィーネがにこりと微笑んで「お金はわたくしが払うからディートリヒは関係ないのよ」と言われてしまい、反論できなかった。


 わたしがその時のことを思い出して遠い目をしていると、ディートリヒは何かを察したらしい。

 ものすごく申し訳なさそうな顔になって、ディートリヒはもう一度「ごめん……」と繰り返したのだった。







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