反省しない異母妹
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「痛い、痛いわ‼」
ユリア・クラッセンは大声でわめいていた。
上半身裸になったユリアの背中には、赤いみみず腫れの跡がある。
ベッドにうつぶせで横になっていたユリアは、「痛い‼」と叫んで体を起こすと、ベッドサイドの棚の上に置いてあった花瓶を掴んで、ユリアの背中に薬を塗っていたメイドに投げつけた。
「きゃあ!」
花瓶が直撃したメイドが悲鳴を上げる。
「あんたはもうクビよ‼ そこを片付けたらさっさと消えて‼ メイド頭を呼んできなさい‼」
活けられていた花と水が散乱した床を指さしてユリアは怒鳴る。
濡れた肩を抑えた年若いメイドは、震える声で「申し訳ございません……」と呟くと、逃げるように部屋を出て行った。
「あ、待ちなさい! 片付けて行けって言ってるでしょ‼ ああもうっ、本当に使えないメイドね‼」
ユリアは舌打ちして、再びベッドにうつぶせで横になった。
背中の鞭の跡がずきずきと痛くて仕方がない。
ユリアは苛立たし気にベッドに拳を叩きつけた。
鞭打ちの公開刑罰の上にジークレヒトからも婚約破棄されて、ユリアはすっかり社交界で笑いものだ。
ユリアには優しかった父ゲオルグも、聖女選定の後からはユリアに見向きもしなくなり、毎日酒ばかり飲んでいる。
(あの女……! 全部あの女が、エレオノーラが悪いのよ‼)
ジークレヒトは次期国王である自分は罪人とは結婚できないと言った。
エレオノーラのせいで、ユリアは「聖女」から一転「罪人」扱いである。
「わたしは聖女よ! わたしが聖女なのよ! あんな化け物が聖女なわけないじゃない! 何かの間違い……いえ、陰謀よ! あの女がきっと何かしたんだわ! そうに違いないんだから‼」
ユリアは何度もベッドに拳を叩きつける。
聖女はユリアだ。女神像がユリアに反応しなかったのは、きっと、エレオノーラがディートリヒあたりに頼んで神官たちを買収し、小細工をしたからに違いない。
「あの性悪女‼」
エレオノーラは化け物だ。
このまま化け物を聖女になんてしておけない。
何故ならユリアこそが正しい聖女だからだ。
けれども、エレオノーラが聖女認定されてしまったせいで、聖女選定は終わってしまった。どういうわけか、聖女は同じ時代に二人以上存在しないと言われている。つまり、エレオノーラが聖女認定されてしまったせいで、女神像はもう光らない。
(とんでもないことだわ‼)
この間違いは正さなければならないだろう。
(化け物は、正しい聖女であるわたしが何としても成敗してやるんだから‼)
エレオノーラの陰謀で彼女が聖女認定されてしまった以上、正しく聖女を選びなおすには、エレオノーラを消すしかない。
エレオノーラが死ねば、女神像は再び光り、今度こそユリアが聖女に選ばれるだろう。
婚約破棄などと血迷ったことをしたジークレヒトも、エレオノーラが死んでユリアが聖女に選ばれれば目を覚ますに違いなかった。きっと今は、エレオノーラに操られているのだ。
(あいつさえいなければ、すべてが「正しく」元通りになるのよ)
ユリアは駆けつけてきたメイド頭に「さっさと手当てをしなさい‼」と怒鳴りつけて、それからうっそりと笑った。
(見てなさいよ化け物。本物の聖女であるわたしが、あんたの化けの皮を剥いでやるわ‼ そして、化け物らしく火あぶりにして処刑してやるから覚悟しなさい‼)