第95話 闇に潜む者達⑥
前回のあらすじ
アルセーヌがアリババと交戦
十合、二十合……と剣を交えるが、一向にチャンスと言える隙が生まれない。
それが分かっているのか、アリババは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「ホラホラどうしたあっ! オレを殺すんじゃなかったのかあっ!」
「チッ……」
……仕方ない。
一か八かの賭けに出るか……。
覚悟を決め、アリババの上段からの一撃を左手の剣で威力を殺しつつ、左肩で受け止める。
「……っ!?」
「アルくん!?」
アルマの悲鳴が聞こえ、予想外だったのかアリババの動きが一瞬止まる。
この隙を見逃さず、俺は右手の剣を順手に構え直してアリババの身体を貫く。
胸元を貫かれ、アリババはゴボッと血を吐き出す。
「がはっ……」
「終わりだ、アリババ」
そう言い、左手の剣でもアリババの身体を貫く。
狙ったわけじゃないが、左手の剣はアリババの腹部を貫いた。
「お、前……お前は、今……お前の弟か妹を……殺したも同然、だぞ……?」
「……ああ、分かってるさ。でも、俺達みたいに不幸に、罪を背負う前に死ねるんだ。むしろ幸せな方だろう」
「ハッ……エゴだな、それは……」
「スプリガンの血を引いてるからな。……最後に答えろ。スプリガンは何処にいる?」
「……」
俺の問い掛けに、アリババは弱々しく天を指差した。
その指先を追って空を見上げるが、今にも雪が降りそうなどんよりとした曇り空しかなかった。
「……? どういう事だ?」
「スプリガンは死んださ、一月前に……モルジアナのお腹の子を守るために……」
「何だと……? アイツはそうそうくたばる玉じゃないだろう?」
「……詳しくはモルジアナに聞く、んだな……」
そう言い残すと、アリババは事切れる。
スプリガンがすでにこの世にいないなんて、信じられなかった―――。
◇◇◇◇◇
アリババの遺言に従わなくても良かったが、手掛かりがそれしかなかったのも事実だった。
だからまず、モルジアナの居所を探し出す所から始めた。
そのついでに、『アラジン』のアジトを一つ一つ丁寧に潰していった。
そして半年後。
数少ない手掛かりを頼りに、モルジアナが潜んでいる居所に辿り着いた。
モルジアナはムスペルヘイムの数少ない森林地帯の奥深くに潜んでいて、最早隠れ家と呼ぶのが相応しかった。
ポツンと森の中に一軒家が佇んでいるが、何が起きるか分からない。
だから全員総出で乗り込んでいた。
中には人の気配がほとんど無く、あったのは窓際の席に静かに座るモルジアナと、彼女の腕に抱き抱えられている赤子の気配しかなかった。
「誰かしら?」
「モルジアナ、単刀直入に聞く。スプリガンは本当に死んだのか?」
「その声……スプリガンね? 他にも色々といるみたいね」
そう言い、モルジアナは俺達の方に顔を向ける。
今ようやく気付いたが、モルジアナの両目は固く閉ざされていた。
見ると、両目を横断するように一筋の傷痕があった。
「モルジアナ、目が……」
「あはは……スプリガンが殺されちゃった時に、ちょっとね……」
「何があった?」
「……」
言いたくないのか、モルジアナは口を固く閉じている。
「なら質問を変える。スプリガンは本当に死んだのか?」
「ええ、私を庇ってね。もしかしてアリババから聞いたの?」
「ああ。そしてヤツは、俺が殺した」
そう告げるが、モルジアナの表情は穏やかなままだった。
「そう……因果応報って言えばそれまでだけど、ヤキが回ったのかしらね?」
「俺を恨まないのか?」
「それでアリババが蘇るの? 蘇るならそうするけど?」
「……俺が聞けた事じゃないが、何故そこまで達観している?」
「そりゃあ、こんな事になっちゃったらね」
モルジアナはそう言い、そっと自身の目元を触る。
その手を降ろすと、モルジアナは再び俺の方を向く。
「一つ……いえ、二つかしらね。頼みたい事があるんだけど、良いかしら?」
「内容にもよるが、聞くだけ聞こう」
「ありがとう。一つは、この子を引き取って欲しいの。名前はシルフで、女の子なの」
「……分かった」
そう答えると、ジャンヌが前に出て来てモルジアナから赤子を受け取る。
それを見てから、二つ目の願いを尋ねる。
「二つ目の願いは何だ?」
「二つ目は、私をアリババ達の下に送って欲しいの」
「……殺せって事か。奇妙な事を尋ねるが、未練はないのか?」
「シルフの成長を見守れないのが残念だけど、それ以上にアリババとスプリガンの二人の下にいたいのよ」
「……分かった。皆は先に外に出ててくれ」
アルマ達は大人しく俺の言葉に従い、外へと出ていく。
俺は剣を引き抜き、モルジアナの胸元に剣先を突き立てる。
「……いくぞ」
「いつでも」
モルジアナの返事を受け、剣を深々と突き立てる。
モルジアナは最後まで無抵抗で、その表情はとても穏やかだった。
剣を引き抜き、達成感らしい達成感を得られないまま、俺はその場を後にした―――。
スプリガンを殺し、モルジアナを傷付けた相手はいつか登場する予定です。
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