第94話 闇に潜む者達⑤
前回のあらすじ
ウエディングドレスは黒にしよう
スプリガン率いる『アラジン』が潜む廃村を見下ろす位置に立ちながら、背後を振り向く。
「みんな、準備は良いか?」
そう尋ねると、全員頷く。
「そうか……ジル、頼む」
「はい」
ジルはそう返事をすると、右手を天に掲げる。
そんな事をしなくても彼女自身の魔法は発動出来るが、気分が乗るらしい。
「《メテオ》!」
そしてジル自身の魔法、流星魔法が発動し、ジルが右手を振り下ろすと共に隕石が地上に落ちてきて廃村を上から押し潰す。
落下の衝撃でボロボロの家屋は倒壊し、地面に積もっていた雪を溶かし地面を抉る。
そして隕石の落下の衝撃波が俺達にも襲い掛かる。
この一撃で倒されてくれれば良いが……スプリガンの事だ。どうせ生きているに違いない。
そう思いつつ、崖を下っていく。
廃村のあった辺りは炎の熱気と雪の冷たさが混在した、地獄みたいな環境だった。
辛うじて息があったらしい、『アラジン』の構成員達にきちんと止めを差していく。
戦いながら、俺は違和感を感じていた。
……おかしい。本当にこの場にスプリガン達がいたのなら、もう出て来てもおかしくは……。
何て思っていると、ゾワッとするプレッシャーを感じた。
だけど、目当ての人物の者ではなかった。
「お前らか? オレ達の住処にカチコんで来た不届き者は?」
そう言って現れたのは、スプリガンの懐刀の一人であるアリババが姿を現した。
もう一人の懐刀であるモルジアナの姿は無い。
「久しぶりだな、アリババ」
「お前……アルセーヌか? ハッ、もしや、オレ達のアジトをチマチマと潰してたのもお前達か?」
「そうだが? 単刀直入に聞く。スプリガンは何処にいる?」
「……素直に答えるとでも?」
「思わないな。だから……答えたいと思わせるまで、お前を殺し続ける」
「お前に出来るのか? 一時期とは言え、お前を育てた事があるこのオレを?」
アリババの言葉は真実で、ティターニアさんに預けられるまでの僅かな期間、俺はアリババに引き取られていた。
だからアリババは、もう一人の育ての母親と言えなくもない。
「それは昔の話だろう? それに俺は、お前を母親だと思った事は一度も無い」
「奇遇だな。オレもお前を息子と思った事は一度として無い」
視線を合わせたのは一瞬。
同時に動き出して最短距離で接近し、俺は逆手に構えた双剣を振るい、アリババはカトラスを振り回す。
指示は出していないが、残存兵力の掃討はアルマ達に任せる事にした。
しかし……予想していた事だが、やはり俺の剣戟はアリババには通用しなかった。
それが分かっているらしく、アリババは不敵に、凶悪に微笑む。
「ハッ! 剣筋が手に取るように分かるぞ! なんたって、お前に剣を教えたのはこのオレだからな!」
「……っ、抜かせ!」
強引にアリババの剣を弾き返し、一旦距離を取って呼吸を整える。
「ふむ……素朴な疑問なんだがな、アルセーヌ? 何故お前はスプリガンを殺そうとする?」
「……何?」
「確かにスプリガンの行いは外道だが、下衆じゃあない。スプリガンの行いで、お前に被害を与えたか?」
「……」
「与えてないだろう? なら何故そこまで躍起になる?」
アリババの言葉は確かに正しい。
だけど……正しいだけだ。
「……確かにそうだな。だがな、アリババ。奴を……スプリガンを放置しておくと厄災しか振り撒かない。その厄災を止めるために、スプリガンを殺す」
「……なるほど?」
アリババはそう言うと、不意に構えていたカトラスを降ろす。
その行動の意味が分からず、俺は逆に警戒する。
「確かにお前の言葉も真実だろう。正義とも呼べるかもな。だが、スプリガンも己の正義に従って行動しただけに過ぎない。たとえ他人から外道と蔑まれようともな」
「……なら尋ねるが。スプリガンの正義とはいったい何なんだ?」
「生物としてごく当たり前の正義だ。自身の血を受け継ぐ子を一人でも多く残す事。それがスプリガンの正義だ」
「……その為なら、他人が不幸になっても構わないのか?」
「そんな事知ったこっちゃない。それにスプリガンほどの男の子種を貰えたんだ。相手の女も悦んでたんじゃないのか? 現にオレもモルジアナも、スプリガンから数え切れないほど貰ったしな。今もココに、スプリガンの子が宿ってる。モルジアナもだ」
アリババはそう言い、左手で自身の下腹部を慈しむように撫で回す。
まだ目立った特徴は無いが、本人の言葉を真に受けるならアリババは今妊娠してる。
そんな身体で俺と剣を交えていたんだから恐ろしい。
「ならその子供ごとお前を殺す」
「出来るかな? 甘っちょろいお前に?」
「ほざけ!」
そう叫び、再びアリババへと接近して双剣を振り回した―――。
アリババ再登場です。
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