第90話 家督問題
前回のあらすじ
妹達と再会した
散歩もそこそこに切り上げて屋敷へと戻る。
洗面所で手洗いとうがいを済ませ、リビングに向かう。
リビングにはもう、ジェシカとジェニカの姿があり、ティアの方へと駆け寄って来る。
「ティアお姉ちゃん! こっちこっち!」
「一緒に座ろ!」
「分かった、分かったから」
ティアは少し困った様子を見せるけど、その顔には笑みが浮かんでいたから説得力がほとんど無かった。
ティアは両側にジェシカとジェニカを侍らせ、僕は向かい側のソファーにそれぞれ座る。
テーブルの上には妹達の飲みかけのカップと、クッキーの載った皿が置かれていた。
「んふふ……」
「どう、お兄ちゃん?」
「……? 何が?」
「お嫁さんを妹に取られてどんな気持ち?」
「ねえ、どんな気持ち?」
「別に? 妻と妹達の仲が良いとしか思わないよ」
「なぁんだ……」
「つまらないの……」
「でも……」
そこで言葉を区切り、立ち上がる。
そしてティア達の方に近付き、手振りだけでティアに立ち上がるように促す。
それからティアが座っていた場所に座り、僕の膝の上にティアを座らせ彼女の身体に腕を回す。
「……妹達に独占させる気は更々無いかな」
「むっ」
「あたし達だって、お兄ちゃんにティアお姉ちゃん独り占めなんてさせないんだから」
そう言うと、右側からジェシカが、左側からジェニカがそれぞれティアに抱き着く。
「ふぁっ……三人共、わたしを昇天させる気? 幸せ過ぎるんだけど」
「そんな気は」
「全然」
「全く」
すると、リビングに母さんが入ってきた。
その手にはトレイを抱えていて、僕とティアの分らしきカップが載っていた。
母さんは僕達の方に目を向けると、微笑を浮かべる。
「あらあら、うふふ……ティアちゃんモテモテね」
「えっと……はい」
「ウチの子達、本当にティアちゃんの事が好きだね?」
「「「大好きだけど?」」」
珍しく僕達の言葉が揃うと、それを聞いたティアは髪の隙間から見える耳が赤くなっていた。
十中八九、顔も真っ赤に違いない。
「はぅ……」
「そこまで真正面から断言するなんて……ジェシカとジェニカはともかく、ジュリウスは結婚前まではそこまでじゃ無かったでしょ?」
「だってただの幼馴染としてしか見てなかったし」
「今は?」
「大好きな女の子で愛する妻だけど?」
そう言うと、何が気に入らなかったのかティアは顔を伏せる。
後ろから抱き締めている形の僕からは表情は窺えないけど、妹達は別だった。
「うわぁ……」
「ティアお姉ちゃん、顔真っ赤……」
「今はちょっと、見ないで……」
「お兄ちゃん、ティアお姉ちゃんを悶えさせてどうするつもりなの?」
「お兄ちゃん達、パパとママみたいになってるよ?」
「え〜っ? わたしとカストールはそこまでじゃないよ」
「「「……」」」
冗談でしょ? と言う視線を僕達は母さんに向けるけど、本当にそこまでじゃないと思ってそうな顔だった。
なんて話していると、父さんが入ってきた。
「ああ、丁度良かった。三人共いるね」
「どうかしたの、父さん?」
「うん。三人に少し話があったんだけど……後にした方が良いかな?」
「別に大丈夫だよ」
「でもティアちゃんが……」
「……わたしの事は気にしないで大丈夫ですよ、おじ様」
「本人がそう言うなら良いか……」
父さんは僕達の向かいのソファーに腰掛け、自然な動作で隣に母さんが座る。
「カストール、ウチの家督を継ぐつもり?」
「えっ、どうしたの急に? そりゃあ長子だからそのつもりだけど?」
「外国にいるのに?」
「ああ……やっぱり駄目かな?」
「駄目じゃないけど、たぶんこっちには戻って来れないでしょ?」
「たぶんね」
皇女……次期女王の側近みたいな事をやってるんだから、まあまず人生の大半をニブルヘイム皇国で過ごす事になるだろう。
そうなると、アースガルド帝国にある実家を継ぐのは厳しい。
「だからさ、ぶっちゃけ家督はジュリウス以外が継いでも全然問題無いんだよ。こっちに来てからまだ歴史の浅い家だしね、ウチは」
「お兄ちゃん以外って……私かジェニカって事?」
「うん」
「二人でって駄目だよね、やっぱり……」
「別に良いよ。お家騒動を起こさないっていう自信があれば、だけどね」
「起こさないよ」
「だってあたし達双子だよ? それに仲も良いもん」
何を当たり前な事を? とでも言いたげに二人は首を傾げる。
確かに、兄の僕から見ても二人の仲はとても良い。
だから、お家騒動なんて言うつまらない事を起こさないだろうという謎な信頼感もあった。
「じゃあ例えばだけど、二人で同じ男を好きになったらどうするの?」
「「二人で分け合う」」
「そ、そう……」
二人の即答が予想外だったようで、父さんは若干呆気に取られていた。
二人は昔から、片方が好きになったモノはもう片方と共有し合う事が多かった。
昔一度だけ聞いた事があったけど、「自分が好きになったモノを独り占めなんて、相手が悲しむだけだから」らしい。
現にティアと触れ合おうってなった時に二人一緒になってやっていたし、そんな優しい心遣いが出来る妹達なら心配するだけ無駄だろう。
「まあ良いんじゃないの? 当人達がこう言ってるんだから。それにもし問題を起こしたら僕が家督を継ぐよ。事情を話せばアーニャも納得してくれそうだしね」
「……分かった。ウチの次期当主はジェシカとジェニカの二人って事で良いね?」
「「「うん」」」
またも珍しく、僕達の声が揃う。
こうして、地味に気にはなっていた家督問題は無事に解決した―――。
家督問題もやっておかないとなぁ……と思ってやりました。
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