第86話 闇に潜む者達②
前回のあらすじ
晩酌した
黒い炎が人だった物体を焼き尽くし、雷が天から貫き、高速で飛来した矢が人体を貫く。
『アラジン』の下部組織が陣取る秘密基地を、たった三人の人間が壊滅させていた。
「ふぅ……こんな物かしらね?」
そう言うのは、長い黒髪を靡かせ、髪色と同色のロングコートを羽織る女性だった。
彼女の両腕を黒い炎が包み込んでいるが、彼女自身の魔法で生み出しているモノなので彼女の身体を焼く事は無かった。
彼女の名は、クリスティーナ・モンテーロ。
仲間達からはクリスの愛称で呼ばれる彼女は、『アラジン』に深い因縁のある、アルセーヌの仲間の一人だった。
「これでここは潰したか。次は……アルセーヌ達と合流するか?」
そう言うのは、金色のツンツンヘアーの青年だった。
彼の名はトールで、ミッドガル皇家の血を僅かばかりに受け継ぐ分家筋の一つの出身だった。
彼がアルセーヌ達に協力しているのは、純粋にその正義感から来るモノだった。
「そうですね。それがよろしいかと」
丁寧な態度でそう答えるのは、その手に弓を、腰に刀を差している青年だった。
彼の名はトモエで、故郷の幼馴染を『アラジン』のメンバーに殺された事で海を渡り、紆余曲折を得てアルセーヌの仲間になった。
三人は一組となって行動し、アルセーヌ達とは別のルートで『アラジン』の下部組織を次々と壊滅へと追い込んでいた。
「今アルセーヌ達って何処にいるんだったっけ?」
「確か……ニブルヘイム皇国に入ると、前の定期報告では書かれていたな」
「ならば我々も皇国に入りますか?」
「そうね……」
クリスは顎に手を当て、考え込む。
彼女達が今いるのはムスペルヘイム王国の領内で、ニブルヘイム皇国に入るには山を一つ越えなければいけなかった。
だがその問題は然程問題ではなかった。
アルセーヌのチームとクリスのチームにはそれぞれ、お互いの状況を知らせるためにフギンとムニンと言う番の巨鳥を従えていた。主はトールになっている。
今クリス達の方にはムニンがいるので、その背中に乗れば山を越える事は容易だった。
それに、フギンとムニンはどれ程遠く離れていたとしても、番の場所に真っ直ぐ向かえるという特性を有しているので、アルセーヌ達との合流もまた容易だった。
「……一度皇国に向かいましょうか。アルセーヌ達と情報の共有もしておきたいし」
「決まりですね」
「来い、ムニン」
トールの呼び掛けに、上空に待機していたムニンが翼を羽ばたかせつつ降りてくる。
その背中に三人が乗り込み、皇国の方向に向かって飛んで行った―――。
◇◇◇◇◇
翌日。
はい。見事に二日酔いになりました。
自分では気を付けていたつもりだったけど、思った以上に普段あまり飲まないお酒を飲んでしまっていたらしい。
じゃなきゃ、二日酔いになんかならない。
「大丈夫、ジュリウス?」
「……大丈夫そうに見える?」
「ううん、全然」
ソファーに座り、僕に膝枕してくれているティアは首を左右に振る。
客室には僕達しかいないから、ティアは眼鏡を外していた。……あ。額に置かれたティアの手が冷たくて気持ち良い……。
「一応、おば様からレモン水預かってるけど、飲む? 少しは楽になるらしいよ?」
「……飲もうかな」
そう答え、ズキズキと痛む頭と格闘しながらゆっくりと身体を起こす。
確かにテーブルの上には、ポットとコップが置かれていた。
その二つを手に取り、ティア自らコップに水を注いでくれた。
そのコップを受け取り、ゆっくりと飲み干す。
気休め程度だけど、ほんのちょっとだけ頭痛が和らいだ……気がする。
「どうする? もう少し飲む?」
「……お願い」
コップを返し、ティアが再びレモン水を注ぐ。
そして何を思ったのか、その水を自分で飲み始めた。
「……ティア? いったい何……むぐっ」
言い切るよりも早く、ティアが突然キスをしてきた。
そしてその口から、水が注がれる。
反射的にその水を飲み干し唇を離すと、ティアの真っ赤な顔が目に映る。
「ど、どう? 二日酔い治った?」
「……いや。今ので治るわけが……」
「じゃあもっとだね」
そう言ってまた、さっきの事を繰り返してきた。
普通に飲ませてくれよという気持ちよりも、こうしてティアからの口移しで飲ませられる方が良いという気持ちの方が大きくて止め時を見失っていた。
「ジュリウス、いる? 入るわよ」
「「……っ!?」」
何回か繰り返していると、突然ドアの向こうから母さんが声を掛けてきた。
それに動揺して僕達は勢いよく唇を離し、慌てて飲み込んでしまったからなのか水が変な所に入って咳き込む。
「ゲホゴホッ、ゴホッ……」
「……? ジュリウス、大丈夫……はっは〜ん」
部屋に入ってきた母さんは、咳き込む僕と口元を拭うティアを交互に見やり、何かを察したような笑みを浮かべる。
「新婚さんなんだからイチャつくなとは言わないけど、限度を考えてね?」
「ゴホッ……年がら年中イチャついてる母さん達には言われたくは……ゴホッ、ないね」
「まあ良いわ。なんか大丈夫そうだし。……まだ陽は高いんだから、あまり激しい事はしないようにね?」
「……余計なお世話だよ……」
「あははははは」
本当に余計な一言を残して、母さんは面白おかしそうに笑い声を上げながら客室から出て行った―――。
口移しシーンを書きたいがために、ジュリウスには二日酔いになってもらいました。
ちなみにこの時、カストールも二日酔いになってます。
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