第85話 晩酌
前回のあらすじ
ゆっくり過ごそう
「まさかなぁ……」
夕飯も入浴も済ませ、客室でのんびりしながら母さんの話を思い返す。
まさか母さん達も婚約破棄された者同士で結婚したとは思っていなかったし、母さんからの逆プロポーズだったって言うのも初耳だった。
他にも色々と聞いたけど、驚き以外の感想はなかった。
と言うか、ティアの方が随分と乗り気で耳を傾けていた。
やっぱり幾つになっても、女の子はコイバナが好きなのかもしれない。
そんなティアは今、母さん達と一緒に入浴中だった。
きっと、風呂場でも母さんから色々と聞き出しているに違いない。
すると、コンコンと軽くドアをノックする音が響く。
「ジュリウス、いる?」
「父さん? うん、いるよ」
「入るね」
そう言うと、父さんが入ってくる。
それだけでなく、オリバーとシグルドさんの姿もあった。
父さんとは夕飯の時に少し話しただけで、オリバーとシグルドさんとは軽く言葉を交わしたくらいしかしていなかった。
「どうしたの、父さん?」
「いやね。息子と晩酌でもしようと思ってね」
「ならオリバーとシグルドさんはなんでいるの?」
「オリバーはジュリウスと積もる話があると思うし、シグルドは暇そうだったから誘った」
「暇そうって……まあ確かに暇でしたけど……」
「でしょ? なら良いでしょ」
父さんはそう言い、流れるような自然な動作で部屋の隅にあるソファーに腰掛ける。
僕達もソファーに腰掛ける。
見ると、シグルドさんの手にはワインボトルが二本、オリバーの手には人数分のグラスとおつまみの載ったトレイがあった。
シグルドさんがワインボトルの片方のコルクを開けている間に、父さんが話し掛けてくる。
「あのワイン、ジュリウスが産まれた年に作られたモノなんだ」
「じゃあ、二十年くらい熟成されてるわけ?」
「そうなるね。元々、子供が大人になった時に一緒に飲もうと思って買った物だからね」
「そっか」
そう話している間に、グラスにワインが注がれる。
その一つを手に取り、四人で乾杯する。
口に含むと、熟成されたブドウの酸味と甘味、それと芳醇な香りが喉を突き抜ける。
普段あまり酒類は飲まず、飲んだとしてもパーティーとかの場の付き合いとかでだけだけど、それでもこのワインが美味い事だけは分かる。
「うん、美味いね」
父さんは頷き、おつまみとして持ってきたスライスされたチーズに手を伸ばす。
僕もチーズに手を伸ばして口に含み、グラスを傾ける。
これは……うん。控え目に言って最高の組み合わせだった。
「これは……止まらないな」
「オリバーもそう思う? だよね」
オリバーの感想に賛同しつつ、またおつまみに手を伸ばす。
「そうだ。ジュリウス、あっちの生活はどうなの? あまりゆっくり話を聞けなかったからさ」
「そうだね……」
それから、ボトルの二本目が空になるまであっちでの生活を語り尽くした―――。
◇◇◇◇◇
俺達は無事、ニブルヘイム皇国の領内に入る事が出来た。
やはりと言うか、そろそろ春になるというのにも関わらず、辺り一面は雪に覆われていて肌寒い。
「くしゅっ!」
すると、アルマが可愛らしいくしゃみをする。
恥ずかしかったのか、ほんのりと頬を赤く染める。
「な、なんスか?」
「……いや、何でもない」
「それより、早く暖かくて休める場所に行こう、お兄ちゃん。寒くて仕方ないよ」
ジャンヌは本当に寒そうで、ここに来るまでの間に寒くなるにつれてジルに近付いて少しでも温まろうとして、今ではジルの背中にぴったりとくっついている。
ジルの方も、満更ではない表情を浮かべている。
「分かった。確か……地図によると、もう少し歩いたら小さめの街があるらしい。そこまでの辛抱だ」
「……うん、分かった」
そう答えるジャンヌは、本当に寒そうに身体を震わせる。
そんな妹の姿を見て、少しでも早く暖かい場所に入れるように気持ち足早で再び歩き始めた―――。
そろそろアルセーヌの方も動かしていきますかね……。
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