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第8話 メイドから見た夫婦

前回のあらすじ

騎士団を視察した

 

 皆様どうも、メデューサです。

 誰? と思われるかもしれませんが、私は約一ヶ月半ほど前からディオスクロイ家で働くことになったメイドです。


 私達の仕事は朝早くから始まり、まずは執事長であるケイローンさんから共有事項の伝達があります。

 それが終わったら、ある時間まではアスクレピオスさんの手伝いとして朝食の準備を進めます。


 そしてある時間―領主夫妻を起こす時間になったら厨房を抜け、お二人の寝室へと向かいます。

 この役目は日替わりで、今日は私が当番の日でした。


 寝室の前へとたどり着き、ドアを軽くノックします。

 返事が返ってこないことは承知の上で、「失礼します」と小声で言ってから中に入ります。


 ベッドの中にはお二人の姿があり、心地良さそうに寝息を立てています。

 奥様に関しては、幸せそうな寝顔で旦那様に抱き着いていました。


 ……それにしても、改めて見てもお二人の顔付きは良く似ていらっしゃいます。まるで男女の双子のようですね。

 まあ、お二人はいとこ同士とのことなので、いくらか顔付きが似ててもおかしくはないのですが……。


 そんな二人を起こすべく、ベッドに近付いてお二人の身体を軽く揺すります。


「旦那様、奥様。朝でございます。お目覚めください」

「………………う、ううん……」

「………………うん? うん……」


 お二人は軽く身動ぎした後、とてもゆっくりとした動作で起き上がります。

 お二人共朝が弱いとのことなので、まだ完全には目覚めきっていないのでしょう。


 ……良かった。今日はきちんと寝間着を着ているようです。

 ステンノ姉様が当番だった日、お二人は何も着ていなかったらしく姉様は顔を真っ赤にして戻ってきていました。純情な人なのです、ステンノ姉様は。

 エウリュアレ姉様は……うん。耳年増なのでそういうのに耐性はあったようです。


 私も一度だけ遭遇したことがありますが、まあ……何故裸で寝ていたのかは深く考えない方が良いでしょう。お二人共夫婦ですし、そういうことをしていても不思議ではないのですから。


 ……っと、余計なことは考えずに仕事をしなくては。

 私は両手を身体の前で揃え、旦那様達に対して深くお辞儀をする。


「おはようございます、旦那様、奥様」

「……うん。おはよう、メデューサ」

「おはよう……」


 旦那様はぐ〜っと伸びをし、奥様はまだ眠いのか目を擦っています。


「お二人共、着替え終わりましたら食堂へ。朝食の準備がもうすぐ済みます」

「分かった。ちなみに今日の朝食は?」

「クロワッサンにコンソメスープ、あとサラダにハムエッグです」

「分かった。着替えたら向かう。……ほら、ポルクス着替えよう?」

「……カストールが着替えさせて」


 奥様はまだ寝惚けていらっしゃるのか、旦那様に甘えるように手を広げられます。自分で着替える気は無いようです。

 旦那様がやれやれといった風に首を左右に振りながら奥様の寝間着の裾に手を掛けたので、私は一礼してから寝室を後にしました―――。




 ◇◇◇◇◇




 それから十五分くらいして、旦那様と奥様が食堂に現れました。

 普通は屋敷の主人である旦那様が上座に、奥様が上座から見て右手側の席に座られるのですが、当家では旦那様と奥様は並んで座られます。

 なので上座の席はいつも空席です。


 二人分の朝食を運び、お二人は食事を始めます。

 ちなみに使用人の食事の時間は、お二人が食事をなされる前かなされた後に取られています。

 その時間も日によってバラバラです。今日の私はこの後が朝食の時間になります。


 食事のメニューは、旦那様達が召し上がられた物とほとんど一緒です。

 料理長のアスクレピオスさん曰く、「旦那様達と使用人とでメニューを変えるのは手間」だからそうです。

 これは旦那様も了承済みのことなので、今では気兼ねなく食べることが出来ています。


 閑話休題。

 いつもは壁際でお二人の食事の様子を静かに見守っているケイローンさんですが、今日は珍しく旦那様の傍までやって来ていました。


「旦那様。至急お伝えしておきたいことが……」

「続けてください」

「はい。つい先程、南方の森にて凶暴化した魔物の群れを目撃したとの情報が入ってきました。現在は騎士団と密に連絡を取り合い、群れの様子を観察している状況です。当家からも、シグルドとブリュンヒルデが群れの観察をする部隊に出向いています」

「……分かりました。迅速な対応ありがとうございます。朝食を終え次第、僕も騎士団の方に顔を出します。いざとなったら、僕自身も戦場に出ますよ」

「いざというか、出る気満々でしょ?」


 フォークを動かしながら、奥様は普段通りの口調で仰られます。

 夫が戦場に出るというのに、不安などは無いのでしょうか?

 そう疑問に思っていたのは私だけではないようで、ケイローンさんが奥様に聞き返します。


「……奥方様。不安になったりなどなさらないのですか?」

「怪我しないかとかちょっとだけ心配ですけど、カストール相手に不安なんて抱きませんよ。だってわたしの頼れるお……夫ですから……」


 ご結婚されてそれなりの時間が経つのに、奥様はまだ旦那様を夫と呼ぶことが恥ずかしいようです。

 その証拠に、奥様の頬はうっすらと赤くなられております。


「……それに、カストールの魔法ならどんな相手でも一撃ですから。ドラゴンだって敵じゃないですよ」


 続けてそう言う奥様の表情は、何処か誇らしげでした―――。






次回、カストールの魔法が明かされます。




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