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第76話 依存(あい)する心

前回のあらすじ

使節団がやって来た

 

 歓迎パーティーは大ホールで行われ、使節団の方々が家臣達や皇族の方々と談笑をしている。

 立食パーティー形式になっているから、話しやすい・交流しやすいようにとの女王陛下の計らいだろう。

 その女王陛下はと言うと、宰相と共にアルヘナさん達数人と談話している。


「やあ」

「あ……アルノルトさん」


 壁際でちまちまと取ってきた物を食べていると、グラスを片手にアルノルトさんが声を掛けてきた。

 ちなみに僕の隣では、ティアがもぐもぐと料理を食べている。


「楽しんでますか?」

「ああ。そちらは?」

「こっちはもてなす側ですからね。主催側が楽しまないともてなされる側の使節団の方々も楽しめないでしょ?」

「なるほど……なるほど?」


 僕の言葉に、アルノルトさんは首を傾げる。

 この考えはウチと言うより、ティアの家の考えだからしっくり来なくても無理はない。

 と言うか、いつの間にそんなに毒されて(?)たんだ、僕……。


「アルノルトさんは……」

「呼び捨てで構わないよ。私とキミは……何だ? 親戚同士なんだから、畏まる必要は無いだろう? 何なら気軽にアルと呼んでくれて構わない」

「そうです……そっか。なら……アル兄さんで。たぶんそっちが年上でしょ?」

「おそらくな」


 頷き、アル兄さんはグラスを傾ける。


「アル兄さんは何か食べないの?」

「色々とあって迷っててな。何かオススメはあるか?」

「う〜ん……僕のオススメはグラタンかな? 他の料理より辛くはないと思うし」


 ニブルヘイム皇国は国土のほとんどが寒冷地という土地柄からなのか、身体を芯から温めるようなスパイスの効いた料理が多い。

 アーニャなんて学生時代、学食の激辛料理を「辛味が少し物足りないですわ」とか言ってペロリと完食した事を今でも覚えている。


 もしアル兄さんが僕と同じ食の好みなら、度の過ぎた辛い料理は苦手なハズだ。

 だから辛くはないグラタンをオススメした。


「グラタンか。なるほど……何処にあるんだ?」

「案内するよ。僕も丁度おかわりしたかった所だし。ティアは?」

「……うん。わたしも行く」


 そう言って、アル兄さんを料理が並んでいるテーブルの所まで案内する。

 テーブルの上には、色とりどりの料理が所狭しと並んでいた。

 ティアと二人並んで料理を選んでいると、不意にアル兄さんが話し掛けてきた。


「……本当に、二人はお似合いだな」

「えっ?」

「そうですか?」

「ああ。仲も良さそうだし、微笑ましく思うぞ」

「それは幼馴染……だったからじゃないかな?」


 結婚を偽装してる手前、それを疑われるような言動は避けなきゃいけない。

 何処で誰が聞いてるか分からないからね。


「なるほど、幼馴染か……それだけ大切な存在だと言う事か」

「えっと……うん」

「わたしはちょっと違う、かな……?」


 アル兄さんの言葉に僕は肯定したけど、ティアは少し否定した。

 まさか否定されるとは思わずにティアの方を向くと、ティアはやや陰のある笑みを浮かべる。


「わたしもジュリウスの事は大切な幼馴染で、とても頼りにしてましたけど……今は依存しちゃってますね。自分でも駄目だって思うんですけど……」

「相手に依存する事の何処が悪いんだ?」

「えっ?」


 まさか肯定されるとは思っていなかったのか、ティアは目を見開く。

 僕もアル兄さんの方を向くと、明日の天気の話でもするような穏やかな口調で続ける。


「相手にただただ依存する事は確かに悪いのかもしれない。だが……恋愛なんてそんなモノだろう? 自分が相手の事を好きだから、傍に居て欲しいから意中の相手を必要としてしまう。そしてその依存心が双方向に通じ合った状態を両想いと表現し、永遠に依存し合う事を結婚と言う形で表現するだけなんじゃないのか? だから人はその感情を『愛』と言う言葉で表現するし、本当に心の底から大切な相手なら誰にも渡したくないなんて言う独占欲も働くんだと私は思う。だからこそ、大切な存在が傷つけられれば怒るし、嬉しそうな表情を見れたら自分も嬉しくなるんじゃないのか?」

「愛、か……」


 アル兄さんの恋愛観は独特だけど、僕のティアに対するこの感情が何なのか分かったような気がする。


 ティアがこっちに来てから何回か告白された事は本人の口から聞かされていたけど、その度に言い表せないモヤモヤとした感情があったのは確かだった。

 それと、ティアから頼りに……依存されている事を嬉しく思う自分がいた事も事実だ。


 だとしたら、僕は……。




 ◇◇◇◇◇




 歓迎パーティーもお開きとなり、僕達も家へと帰って来た。

 リビングの明かりは点いておらず、部屋の片隅にあるランプの下へとティアが向かおうとする。

 そのティアの手を、僕は掴む。


「……? ジュリウス?」


 不思議そうに首を傾げるティアとは対照的に、僕の心臓はバクバクと早鐘を打っていた。

 部屋が暗くて助かった。たぶん僕の今の顔は、とても赤いに違いない。


「ティア。真面目な話があるんだけど……良いかな?」

「……うん。ちょっと待って」


 ティアは僕の手を振りほどき、手櫛で髪を整える。

 僕も浅く深呼吸……って、どういう表現だ?

 まあ、呼吸を整えて気持ちを落ち着かせる。


 髪型を整え終えたティアは、姿勢を正して僕の顔を真っ直ぐに見つめてくる。


「……良いよ、ジュリウス」

「ティア。さっきのアル兄さんの話で気付いたんだけど……僕、ティアの事が好きみたいだ。幼馴染としてじゃなくて、一人の女性として。好きだし、誰にも渡したくないし……ずっと僕の傍に居て欲しい。だから………………だから、ティア。偽装なんかじゃない。本当の結婚をして欲しい、僕と」

「ジュリウス……」


 ティアは僕の名前を口にすると、僕との距離を詰める。と言っても、一歩半くらいしかないけど……。

 そしてティアは、ぎゅっと僕に抱き着いてくる。


「わたしも……わたしも、ジュリウスの事が好き。幼馴染としてじゃなくて、一人の男性として。確かにジュリウスに対しては罪悪感を抱いてたけど、アルノルトさんの言葉でようやく自分の気持ちに気付けたよ。この依存心が恋愛感情なら、確かにわたしはジュリウスに恋してる。愛してる。この気持ちに気付かせてくれたアルノルトさんには感謝しかないよ」

「ならアル兄さんは僕達の恋のキューピッドだね」

「そうだね。……だからね、ジュリウス? わたしの事、世界で一番幸せなお嫁さんにしてね?」

「分かった、誓うよ」


 そう誓い、ティアと少しだけ抱擁を解く。

 こんなにティアの事を愛しく思えるのなら、もっと早くに自分の気持ちに気付きたかった。


 そう思いながらティアと真正面から見つめ合い、そして――互いの唇を重ねた―――。






駆け足と言うか、数段飛ばしでジュリウスとティアの関係性が発展しました。


次回から新章の予定です。

おそらく、ジュリウス主人公では最後の章になるハズです。

いつも通り(?)次話は二週間後に更新予定です。




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