第71話 断罪
前回のあらすじ
アルヘナと再会した
オリュンポス王国の王都に聳え立つ王城、その王の間。
そこで今日戴冠式が行われているのだが……参列した貴族諸侯は大いに困惑していた。
「アレス。お前を次期国王に任命する。励めよ」
現国王であるゼウスが国王に任命したのは息子のポセイドン――ではなく、彼の息子であるアレスだった。
この裁定に異を唱えたのは、他ならぬポセイドン自身だった。
「父上! 次期国王は私ではないのですか!?」
「確かにな……常識的に考えればそうだ。建国時から、「次期国王は現国王の血を引く王子」と決まっている」
「であれば! 私が国王を継ぐのは自明の理ではないですか!?」
ポセイドンはそう叫び、周りよりも高くなっている玉座に腰掛けるゼウスに詰め寄るように見上げる。
ここでカンの良い貴族諸侯は、ある要因に気付いたようだ。アルヘナもそこに含まれている。
「確かに、ポセイドン達の世代ではポセイドンだけが唯一の王子だ。次期国王を継ぐ権利はある」
「ならば!」
「だが――朕の息子ではない」
「…………………………は?」
ゼウスの爆弾発言に、ポセイドンだけでなく要因に気付かなかった貴族諸侯も思考に空白が生まれる。
早く気付いた貴族諸侯でさえも、ゼウス本人の口からの言葉に少なからず驚いている様子を見せる。
そんな周りの様子に気付きつつも、ゼウスは衝撃的な告白を続ける。
「安心しろ、ポセイドン。朕の血を引いていなくとも、オリュンポス王家の血はしっかりと引いている」
「……ならば、私は誰の子なのですか!?」
「ポセイドン。貴様は今は亡き我が父クロノスが我が妻ヘラに孕ませた子だ」
その言葉に、王の間は一気にざわつき始める。
だがしかし、ゼウスが手を挙げると途端に水を打ったようにシン……と静まり返る。
「では……では、私と父上は親子ではなく、本当は兄弟だったと言う訳ですか……?」
「そうなるな。まあ、ヘラが我が父とまぐわいポセイドンを身籠ったのは朕と婚姻する前ではあるから、不貞を働いたと言う訳では無いがな」
「……待って下さい。では……では、アレスの本当の父親は……!?」
「朕だ」
「母親は!? 母親は誰なのです!?」
「私ですよ、ポセイドン殿下」
半狂乱になりながらそう尋ねるポセイドンに答えるように、玉座の脇から一人の女性――アンフィトリテが姿を現す。
そして――寄り添うようにゼウスの傍らに立ちポセイドンを見下ろす。
「アンフィトリテ、貴様……不貞を働いたのか!?」
「まさか。私の計画のためにゼウス陛下の胤を利用したまでですよ」
「計画……?」
「カイニス」
人名だと思われる単語を発したその時、ポセイドンだけでなく貴族諸侯も首を傾げる。
ポセイドンの反応が気に入らなかったらしく、アンフィトリテは明らかにイライラしたような表情を浮かべる。
「……まあ殿下が知らなくても無理は無いですわね。何故なら貴方の女遊びの内の一人でしたもの。……ああ、女遊びは今も、ですか。今日は何処の無知な女を引っ掛けたんですか?」
「嫌味は後にしろ、アンフィトリテ。貴様の言った計画は一体何なんだ? まさか答えられない訳ではあるまい?」
「……殿下は、これまで関係を持った女性がどのような末路を辿ったかご存知で?」
「知る訳なかろう」
「……ではお答えしましょう」
そこで言葉を区切ると、アンフィトリテは汚物でも見るような、憎悪に満ちたような、そして――不倶戴天の天敵を目の当たりにしたような鋭い視線をポセイドンに向ける。
「私の最愛の姉のカイニスは、貴方に無理矢理犯された事を気に病み、気を狂わせてしまいました。そして最期には、自ら首を吊ってその命を絶ったのです。その報いは当然受けさせなくてはなりませんよね、殿下?」
「だが貴様の姉一人だけだろう? ならば断罪される謂われは……」
「三十六人」
「は……?」
「私の姉含めて三十六人です。貴方が無理矢理犯した事が原因で自ら命を絶った女性の人数は」
「ふむ……直接的では無いにせよ、ポセイドンが原因でそれほどの命が喪われたと言う事であれば、それは殺人鬼と変わらぬな。罪人にはそれ相応の罰を与えねばな」
ゼウスが立ち上がると、その覇気に気圧されたのかポセイドンは無意識に後退りする。
アンフィトリテはそのまま、語り続ける。
「まだ終わりではありませんよ、殿下。そんな殿下への一番の復讐って、何だと思いますか?」
「……止めろ」
「最愛の妻との間に産まれた自身の子が、実は自身の血を引いていなかったという事ですよ。貴方の生きた痕跡が残る事など無いですし、私が許しません」
「止めろ! ここにはアレスもいるんだぞ! 子供の前でそんな話をする必要が……」
「私は知っていましたよ、父上」
「な、に……?」
アレスの衝撃的な告白に、ポセイドンは頭が真っ白になるのを自覚する。
「母上からはだいぶ前に出生の秘密を明かされたので。それに、女癖の悪い父上よりも、お祖父様が本当の父だと知った時は心底嬉しかったですね」
「う、嘘だ……」
衝撃の事実を次々と明かされ、ポセイドンのメンタルは既にボロボロだった。
それに更に追い打ちを掛けるように、アンフィトリテはポセイドンに話し掛ける。
「どうです、殿下? 貴方が相思相愛だと思っていた妻は貴方の事など欠片も愛しておらず、唯一の息子も自身の血が流れていないと言う始末。とても滑稽ですね? ……ああ。父だと思っていた兄弟に妻を寝取られた、も追加しておきましょうか?」
「……黙れ」
ポセイドンの呟きが聞こえていないようで、アンフィトリテは唄うように、積年の怨みが晴れたように朗らかに嗤いながら話し続ける。
「いや〜、とても長い時を有しましたよ。殿下が私に粉を掛けてきた時は千載一遇のチャンスだと思いましたから。……ああ。カストールには悪いとは微塵も思っていませんよ? ほぼ一方的に婚約破棄したとは言え、カストールが私の事を欠片も愛していない事は知ってましたから。結果論とは言え、お互いに後腐れ無く別れられた事だけは良かった点ですかね?」
「黙れえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
「《ジャッジメント》」
怒りのままにアンフィトリテに接近しようとしか瞬間、ゼウスの放った魔法による稲妻がポセイドンの身体を貫く。
命を落とすとまではいかないが、全身に痺れが回ったポセイドンはドサリと床に倒れ伏す。
……いや。これから行われる事を考えれば、ここで命を落としていた方が幾分かマシであった。
「ポセイドン。朕から一つだけお前に告げておこう。貴様のアンフィトリテの婚姻は現時刻を以て破棄する。そしてアンフィトリテを朕の妻の一人に迎え入れる。……む、二つか? まあ良い。復讐のためならば国王である朕ですらも利用するその度胸、とても気に入った」
「光栄ですわ、陛下」
アンフィトリテがゼウスに近付くと、ゼウスはアンフィトリテの腰に手を回し自身の方へと抱き寄せる。
ポセイドンは抗議の声を上げようとしたが、痺れは口や声帯にも伝播しており上手く喋れずにいた。
「そうなると……陛下。殿下は陛下の妻に手を上げようとした不届き者となるのでしょうか?」
「そうなるな。そしてそれは国家への反逆とも取れる重罪だ。何処の世界に国王の妻に手を出そうとする馬鹿がおる?」
「目の前におりますわ、陛下」
そう返すアンフィトリテの視線の先には、未だに床に這いつくばっているポセイドンの姿があった。
その言葉に、ゼウスは鼻で笑う。
「ハッ。面白い事を言うな、アンフィトリテ」
「ですが事実でしょう?」
「フッ……ではポセイドンに沙汰を告げる。貴様には――死んでもらう。だがただ死ぬのでは面白くない。……アンフィトリテ。後は任せる」
「お任せを、陛下」
アンフィトリテはゼウスから離れると、ポセイドンを見下ろす。
そして右手を彼の方へと向け――魔法を発動させる。
「《コンヴァージョン》」
アンフィトリテの手から放たれた光がポセイドンの身体を包み込む。
その光が晴れた後、そこにいたのは――十代後半とおぼしき少女の姿になったポセイドンだった。
「なっ……何だこの姿は!?」
声も変わっており、万人を魅了するほどの綺麗な女声が響く。
実際、その声に魅了され恍惚とした表情を浮かべる者も何人かいた。
「私の魔法、変換魔法で女性に変換させて頂きました。ちなみに変換魔法で変換したモノは、もう二度と元には戻せません。それと、アレスの髪色はこの魔法であえて殿下の髪色に胎児の段階から変換させて頂きました」
「二度と……では、私は女として生きろと!?」
「せいぜい同じ苦しみを味わって下さいね? そのために、殿下の声を他者を、特に男性を魅了して自身を犯すように誘導するような仕組みにしたのですから」
「ふむ……ならば新たな名が必要だな。ポセイドン、貴様は今からセイレーンを名乗れ。今の貴様にはお似合いだ。しかし……ふむ。『味見』したいと思うくらいには見目麗しいな」
「う、あ……ああああああああああああああああああっ!!」
ポセイドン……いや、セイレーンは悲鳴を上げながら、逃げるように王の間を走り去っていく。
そして今後、セイレーンの姿をオリュンポス王国内で見掛ける事は無かった―――。
因果応報TSとか誰得……。
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