第68話 ティアの婚約破棄
前回のあらすじ
学園を去った
学園を退学してから一ヶ月が過ぎた。
レメゲトン家の屋敷にお邪魔してる期間も同等で、ティアがずっとべったりとくっついていた。
ティアの精神状態はちょっとだけ回復し、初めは屋敷の男性使用人とまともに会話出来ていなかったけど、今は僕が近くにいれば少しは会話出来るくらいまでにはなっていた。
それでも怖い事には変わり無いらしいけど……。
そんなティアだけど、今はリビングのソファーで読書してる僕の膝を枕にして昼寝していた。
するとリビングに、ティアの実の弟であるディルが入ってくる。
ディルは僕の事を兄のように慕い、僕もディルの事を弟のように扱っているから関係は良好と言える。
「うん? 姉さんはまた兄さんに甘えてるの?」
「まあね」
「そろそろ一ヶ月経つでしょ? まだ治らないの?」
「心の怪我みたいなモノだからね。完全に治らない内は、ティアのしたいようにさせるさ」
「……前々から思ってたけど、兄さんって姉さんにはとびきり甘いよね」
「そうかなあ?」
「そうだよ」
ディルがそう言うのならそうなのだろう。
僕自身の感想としては、そんなに甘やかしてはいないんだけど……。
何て思っていると、ソロモンさんもリビングにやって来た。
「ああ……ティアはここに居たのか」
「……? どうかしたんですか?」
「うん。ちょっと話があってね……ティア、起きて」
ソロモンさんがティアの肩を揺すると、ティアは目を覚ましてゆっくりと起き上がる。
「ふぁ……なぁに、お母さん……」
「ちょっと話があるんだけど、良いかな?」
「うん、何?」
「ブラギ君にも今回の件は伝えてて、今日ウチにやって来るんだよ」
ブラギっていうのは確か……ティアの婚約者の名前だったハズだ。
と言うか……。
「急じゃない?」
ティアも僕と同じ考えだったらしく、ソロモンさんにそう聞き返すと、ソロモンさんは肩を竦める。
「まあ、色々とあって伝えそびれてたからね。と言うか、もう来てるんだよね。応接室で待っててもらってる」
「だから、急じゃない?」
「それで……どうするの? 会いづらいって言うなら、無理して会う必要は無いと思ってるけどね、僕は」
「……ううん。わたしの方からもきちんと話さなきゃって思ってるし、その……まだ怖いけど、会うよ」
「そっか……ジュリウス君もついてきてくれないかな?」
半ば予想はしてたけど、ティアの状態を考慮してかそう尋ねてくる。
「お邪魔でなければ」
「それじゃあ行こうか」
そう言うソロモンさんに連れられ、応接室へと向かう。
ティアは緊張しているのか、僕の服の裾をぎゅっと握っている。
そして応接室の中に入ると、僕達と同い年くらいの男子がソファーに腰掛けていた。彼が恐らくブラギなのだろう。
ブラギは僕達の姿を見ると、ソファーから立ち上がる。
「お待たせして申し訳ない。娘を連れて来ました」
「いえ。……ところで、そちらは?」
ブラギの疑問ももっともだ。
自分の婚約者が他の男と一緒にいたら愉快じゃないだろう。
「彼はジュリウス・ディオスクロイ。娘の幼馴染です」
「初めまして、ジュリウスです」
「ブラギだ。……ティア殿」
「……っ、はい」
ティアは緊張しつつも、返事を返す。
婚約者と言えどやっぱり身内以外の男は怖いようで、さっきよりも強く僕の服の裾を掴む。
ブラギはしばらくティアを見つめた後、溜め息を吐く。
「……私ではティア殿の支えにはなれそうに無いな。正直に答えて欲しい、ティア殿。婚約者の私を前にしても、私が怖いか?」
「………………はい」
「そうか……」
ティアの絞り出すような答えを聞いた後、ブラギはソロモンさんの方に向き直る。
「ソロモン殿。ティア殿との婚約は破棄させてもらってもよろしいか?」
「そちらがそれで良いのでしたら」
「感謝する。まあ、婚約者であっても心の支えになれないと言うのは、少し悲しくもあり悔しいがな。……ジュリウス、と言ったか?」
「……? 何ですか?」
突然話を振られた理由が分からず、僕は聞き返す。
「彼女を……ティア殿を頼む。私の代わりに彼女の支えになって欲しい」
「言われるまでも無いですよ。ティアの面倒は小さい頃から見てましたし」
「むっ……わたしの方がジュリウスの面倒見てたんだけど?」
僕の言葉が不服なのか、ティアはそう抗議の声を上げる。
「本気で言ってる?」
「そっちこそ本気なの?」
「ふっ……ははは。仲睦まじいな、貴殿らは。私が言う事では無いと思うが、お似合いだと思うぞ?」
ぞっとしない事を言い残し、ブラギはレメゲトン邸を去って行った―――。
実際相性は良いんですけどね、ティアとジュリウス。
本人達が頑なに認めないだけで。
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