第64話 ティアの容態
前回のあらすじ
ティアが無理矢理犯されそうになっていた所をジュリウスが助けた
ティアを慰めていると、誰かが近付いてくるような足音が背後から聞こえてきた。
振り向くと、そこにはおめかししたアルマと着飾ったアルの姿があった。
たぶん、これからデートに行く所だったのだろう。
「どうしたんスか、ジュリウスくん? そんな所で? 声が聞こえたから来てみたんスけど……」
「ああ、アルマ。これは……」
「……うん? 何でティアも……と言うより、その格好……」
「うっ……オエエエエエ」
ティアがアルの姿を目にした次の瞬間、顔を真っ青にして胃の中の物を吐き出す。
吐瀉物が僕のズボンに少し掛かるけど、今は気にしたら負け(?)だ。
ティアの普段とは異なる様子に、アルマ達も只事では無いと判断したらしい。
「ジュリウスくん!? ティアちゃん、どうしたんスか!?」
「……アル。先生を……いや。ウチのクラスの担任のマリー先生を呼んできて欲しい。アルマは僕と一緒に、ティアを保健室に運ぼう」
「分かった」
「了解ッス」
二人は頷き、アルは早足で僕達の前から去っていく。
僕がティアの身体を横抱きに抱え上げると、ティアはしがみつくように僕の胸元を掴んでくる。
「……本当に、何があったんスか?」
「……後でね」
状況証拠しか無いけど、ティアを前にして話す内容じゃなかった。
だからこの場では一旦はぐらかして、僕達は保健室へと向かった―――。
◇◇◇◇◇
保健室の先生にティアの事を一旦任せた後、廊下で事の経緯をアルマに簡潔に説明する。
するとアルマはドン! と、廊下の壁を凹ませる勢いで殴り付けた。
普段のぽわぽわした雰囲気とは違う剣呑な雰囲気は、それなりに付き合いの長い僕でも今まで見た事が無かった。
「何なんスか、ソレ! ふざけてるんスか!?」
「ふざけてるよ。ふざけてるから、僕も助けに入ったんだ」
「ジュリウスくんの助けがあと少しでも遅かったら、ティアちゃんは……心を壊されてたかも知れないんスよ……?」
「……それはどうかな?」
「ジュリウスくん……?」
さっきのティアのアルに対しての反応。
アレは僕の想像が間違っていなければ、恐らくは……。
って考えていると、保健室の先生が廊下に顔を覗かせる。
「二人共、入ってきて良いわよ」
「ティアちゃん!」
先生にそう言われ、アルマは一目散にティアの下へと駆け寄る。
それとは対照的に、僕は廊下に居残る。先生に聞いておかなきゃいけない事もあるし……。
「先生、ティアの容態は?」
「身体的には何も。衣服の乱れはあったけど、本人からポツポツと語られた内容的に、その……」
「大丈夫です、先生。正直に話して下さい」
「……分かったわ。無理矢理犯されそうだった所に、貴方が現れたみたいね。不幸中の幸いなのは、彼女の純潔が守られた事くらいかしらね?」
それは確かに不幸中の幸いだろうけど、僕が聞きたいのはそこじゃない。
「先生。本当に正直に話して下さい。僕が聞きたいのは身体的な事じゃ無いです。……いや、聞きたかったですけど……」
「……何が言いたいの?」
先生は怪訝に思っていると言うより、僕にその事を聞く覚悟があるのかどうかのような声音でそう尋ねてくる。
だから僕も、覚悟を決めて先生に尋ねる。
「……ティアの精神状態はどうなってるんですか?」
「簡潔に言うと、彼女は目に映る男性全てが怖く見えるみたいね。まあ、あんな経験をした後じゃあ無理もない事だけど。……ただ、唯一の例外は貴方ね。一応聞くけど、彼女との関係性は?」
「幼馴染です」
「そう……これは言って良いのか分からないけど、彼女、貴方に依存してる可能性が高いわ」
「えっ? 何で……」
「そうでもしないと、心が壊れてしまうからでしょうね」
先生がそう言うと、今度は保健室の中からティアが顔を覗かせる。
「ジュリウスくん。ティアちゃんが呼んできて欲しいって……」
その言葉を聞いて先生の方を見ると、先生は黙って頷く。
ティアの下に行けという意味だろう。
それに従い、僕も保健室の中に足を踏み入れる。
ベッドの上にいるティアの服装は、運動着に変わっていた。
おそらく、保健室にある予備の運動着を貸してもらったのだろう。
ティアの傍まで近付くと、ティアがぎゅっと抱き着いてくる。
今までのティアからしたら考えられない行動だし、先生の言っていた事の信憑性も同時に高まる。
「ジュリウス……」
「ティア……」
こんなに弱々しいティアを見る事自体僕も初めてで、どうしたら良いのか分からなかった。
するとドアの開く音が聞こえ、マリー先生が僕達の前に現れる。
「……何があったのか、説明出来ますか?」
普段のふわふわとした言葉遣いとは異なり、はっきりとした口調でそう尋ねてくる。
説明自体は出来る。出来るけど……ティアの前で話すのは気が引けた。
「説明は出来ますけど……場所を変えても良いですか? ティアの前ではあまり話したくない内容……」
「え……イヤッ、ジュリウス! わたしの傍から離れないで!」
離れようとした所、ティアが半狂乱状態に陥る。
マリー先生も、ティアの行動に呆気に取られている。
だから仕方無く、マリー先生に言う。
「マリー先生。アルマと保健室の先生も事情はある程度把握してるので、二人から聞いて下さい」
「……分かりました。アルマさん、ついてきて下さい」
「はいッス」
アルマは頷き、マリー先生と一緒に保健室から出て行く。
ティアの方を見ると、落ち着きを取り戻したらしいけど、僕を抱き締める力が若干強くなっている。
「ジュリウス……わたしの傍から離れないで……」
「………………分かったよ」
そう答え、ティアの気持ちが落ち着くように彼女の頭を優しく撫でた―――。
空気が……作中の空気が……すごく、重い!
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