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第37話 不審者

前回のあらすじ

手合わせした

 

 日付も変わり、草木も寝静まった真夜中。

 闇夜に紛れるように、カストール達の屋敷に近付く一つの人影があった。


 その人影は深緑色のマントを羽織り身体のラインを隠し、フードを目深に被って素顔が分からないようにもしていた。

 唯一分かる事は、小柄な体型と言った所くらいか。


 人影は屋敷の裏手に出ると、月明かりに照らされている屋敷を見上げる。


「……ここが、貴族の屋敷……なら、早く中に入って――」

「――入って、どうするつもり?」


 突然己以外の声と、首元に迫った刃物の気配に驚愕し、人影はネコのように大きく後ろへと飛び退く。

 見ると、何故今まで気付かなかったのか、屋敷の陰から刀を構えた女性――ムサシが姿を現した。


 ムサシは用心棒として、屋敷の夜間の警備を自主的に行っていた。

 もっとも、彼女はショートスリーパーなので、他の皆が寝静まる夜は暇だったからという理由もあるが……。


 そんなムサシは警戒心を露にしつつ、人影に向かって誰何する。


「こんな夜更けに屋敷の中に入ろうだなんて……盗賊か何か?」

「……」


 人影は答える事無く、両手に逆手で短剣を構える。

 ムサシももう片方の手に刀を構え、人影の出方を窺う。

 薄雲が月明かりをいくらか遮ったその時、人影の方が動いた。

 と言っても、屋敷の裏手に広がる森の方への逃走ではあったが……。


「……っ! 待てっ!」

「待てと言われて待つ人なんていない……」


 至極真っ当な事を返しながら、人影は森の中へと姿を消していく。

 それを追い掛けるように、ムサシも森の中へと入って行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 森の中へと入ったムサシは周囲への警戒を最大にしつつ、キョロキョロと辺りを見回す。

 鬱蒼とした木の葉が月の光を遮り、ほぼ暗闇と言っても差し支えがないほどに暗かった。


「何処に行ったの! 出て来なさいっ!」


 ムサシの叫びはだがしかし、木々の合間を木霊するだけだった。

 その変わり、ヒュッという風切り音が小さく鳴り響く。

 刀身が黒く塗り潰された短剣を、ムサシは難なく刀で弾き返す。


「そこか!」


 短剣の出所にさっきの人影があると見当を付けたムサシは、その方向に向かって一直線に駆け抜けて行く。

 その間にも短剣は飛んでくるが、ムサシは左右の刀を振り回して全て弾き返していた。


 そして目視出来る範囲までやって来ると、ムサシは接近する速度をより一層上げる。

 人影も逃げ切れないと判断したのか、両手に短剣を構えて迎撃態勢を整える。

 それを見て、ムサシは左手の刀を鞘に納めつつ魔法を発動させる。


「《参の太刀・朧月》!」


 ムサシの全身が霧に包まれ、その姿を消す。

 突然の出来事に人影が驚いたのも束の間、後ろからの襲撃で地面へと組み伏せられていた。

 もちろん組み伏せた人物は、人影の背後へと回り込んだムサシ本人だった。


 右手の刀を人影の首筋近くへと突き刺し、今度は落ち着いた状況で誰何する。


「さて……あなたは何処の誰なのかしら?」

「……」

「答えないの? なら、そのご尊顔でも拝みましょうかね」


 ムサシはそう言って、人影のフードに手を掛ける。

 人影は特に抵抗らしい抵抗も見せずに、為すがままにされていた。

 そして人影の素顔が、月明かりの下に晒された―――。




 ◇◇◇◇◇




「……で、捕らえたと」

「はい」


 起きて早々朝一番に、ムサシさんから話があると言われ、わたしとカストールは彼女の部屋へと招かれた。

 そこには、両手足を縄で縛られた線の細い人物―というより、顔立ちから恐らく女性、それもたぶん少女―が床に転がされていた。

 ベージュの髪は肩口に掛かるくらいの長さで、蒼い瞳は眠たげに中途半端に開いていた。


 ここに来るまでの間に、夜中に不審者が現れたから、無力化して捕らえたとの話をムサシさんから受けていた。

 恐らく目の前の少女が、その不審者なのだろう。


「いったいどんな目的で、この屋敷に侵入しようとしたんだい?」

「領主に、一つ忠告をと思って……」

「忠告? なら昼間に訪ねてくるなり、手紙か何かで報せたり――」

「大盗賊団がこの村を襲おうと計画してる……」


 カストールの言葉を遮り、少女はそう告げる。


「大盗賊団? 一応聞くけど、何でキミがそんな情報を握ってるのかな?」

「色々とやらかし……間違えた。やってるから、たまたまそんな情報を握っただけ……」

「……今「やらかした」って言いかけなかった?」

「気のせい……」


 ふるふると首を左右に振り、少女はシラを切る。


「それで? その忠告をしてどうしようと思ったわけ?」

「領主に恩を売るのと協力してもらおうと思って……」

「ふぅん?」

「大盗賊団如き、一人でも十分壊滅させられるので……たった二人を除いて……」

「その二人っていうのは?」

「『アラジン』という大盗賊団の頭領のアリババと、頭領の右腕のモルジアナという盗賊二人……一人だけじゃその二人を相手するのは厳しい……」

「だから協力しろと?」

「うん……腕が立つ人を一人か二人……欲を言えば、このお姉さんが良い……」


 少女はそう言うと、顎だけでムサシさんの事を指し示す。

 ムサシの腕が立つ事は、昨日のシグルド達との鍛練を遠目に眺めていただけでも分かる。

 だから少女の指名も何ら不思議な事じゃない。


「……分かった。不穏な芽の元凶が分かりきってるなら協力しない手は無いね。その大盗賊団とやらの討伐をお願いするよ。……ムサシさん。この少女に協力してくれ」

「あたしは雇われの身ですからね。そう命令されれば従いますよ」

「交渉成立……なら、この縄をほどいて欲しい……」


 ムサシさんが縄をほどくと、少女は手首の様子を確かめるようにぐるぐると回す。

 ……そう言えば、まだ名前を聞いてなかった。


「ねえ。貴女の名前は? まだ聞いてないんだけど……」

「……ロビンフッド。ロビンって呼んで」






今回、カストールとポルクスは大きくは動きません。




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