第3話 辺境の地へ
前回のあらすじ
両家に結婚の挨拶をした
両家への挨拶を終えてから二ヶ月半後。
結婚式も無事終えて、カストールが治める予定の辺境の街・ジェミニへとやって来ていた。
この街は王都から見て東の方角にあり、移動には馬車を使って二週間くらい掛かる。
ちなみにこの街を治めるに当たり、カストールの姓はディオスクロイへと変わっていた。
だからわたしも、これからはポルクス・ディオスクロイと名乗ることとなる。
それと、この街に来たのはわたしとカストールの二人だけじゃない。
わたしの家から五人、カストールの家から四人従騎士が付き従っていた。
従騎士というのは、簡単に言えば貴族家が抱えている私兵みたいなモノだった。
普段は使用人と同じような仕事をこなし、有事の際は騎士としての務めを果たす。
わたし側の従騎士は、シグルド、ブリュンヒルデ、スルーズ、ヒルド、オルトリンデの五人だった。
そしてカストール側は、アーサー、ケイ、トリスタン、イゾルデの四人だった。
それと道中、カストールからジェミニの街についての事情の説明を受けていた。
何でも、前にこの街を治めていた人物は不当に徴税した結果、投獄されたらしい。
そして領主不在のこの街を、ポセイドン殿下の采配でカストールが治めることとなった。
ちなみに、領主がカストールに決まるまでの間、領主代行の人がジェミニの街を治めていたらしい。
わたし達がこれから暮らすことになる屋敷は、街のほぼ中心部に位置していた。
その正門前に馬車を停め、カストールの手を借りて降りる。
それから敷地内へと入っていくけど、長いこと人が暮らしていなかったからなのか、庭には雑草が生い茂り、屋敷の中にも埃が溜まっていた。
一度屋敷の中から外へと出て、カストールが腕を組んで考え込む。
「まずは屋敷の掃除からかな? 一日で終わるとは思えないし……今日のところは使用人室と僕達夫婦が使う部屋、それと応接室と浴室に……後は食堂かな?」
「庭もじゃない? せめて正門から玄関までの間は綺麗にしとかないと」
「そうだね……それじゃあ、ポルクス。お願いしてもいい?」
「うん。《クリエイト》」
カストールの言葉に頷き、魔法を発動させる。
魔法は貴族も平民も関係無く、十才になれば誰でも天から授かる特殊能力だった。
魔法は一人一種類しか使えない反面、その種類は千差万別だった。
わたしが使える魔法は創造魔法というモノで、あらゆるモノを生み出すことが出来る。
この魔法の使い手は希少らしく、王国内でもわたしを含めて三人しかいない。
そんな魔法で、箒に塵取り、バケツにモップ、鎌など掃除に必要そうなモノを生み出す。
「それじゃあ手分けして掃除しようか。女性陣は屋敷内を、男性陣は草むしりだね。中の掃除で力仕事が必要になったら男性陣を呼んで。一応目標は陽が暮れるまでだね。じゃあ始めようか」
「「「はい」」」
「僕とポルクスは領主代行の所に行こうか。護衛は……トリスタンとイゾルデでいいかな。二人共護衛を頼むよ」
「はい」
「畏まりました」
そうしてわたしとカストールは、領主代行の所へと向かった―――。
◇◇◇◇◇
領主代行は、先々代の領主の時に執事として働いていた人らしい。
だから領主の仕事も、ある程度出来ていたみたいだった。
「これからこの街を治めることになった、カストール・ディオスクロイです。こちらは私の妻のポルクスです」
「ケイローン・サジタリウスです。遠路はるばるようこそお越しくださいました」
カストールの紹介にわたしは無言でお辞儀をし、カストールとケイローンさんは握手を交わす。
ケイローンさんは老年に差し掛かっているのか、白髪の目立つ茶髪で、眼鏡を掛けているから聡明な顔付きにさらに磨きが掛かっている。
それにしても、「私の妻」かぁ……。
結婚したとはいえそう呼ばれるのはまだ慣れなくて、嬉しさと恥ずかしさがない交ぜになった感情が支配する。
顔には出てない、よね……?
ケイローンさんに促され、カストールと並んでソファーに座る。
トリスタンとイゾルデはソファーの後ろに控える形で立っている。
「ではまずは謝辞から。本日まで領主代行の務め、ご苦労様でした」
「こんな老体でも役に立てたのなら何よりです」
「それで物は相談なんですが……執事として再び働いて貰えませんか?」
「理由を聞いても?」
「お恥ずかしい話ですが、使用人とも言える人間が後ろにいる護衛含めて、王都から連れてきた従騎士しかいないのです。なのである程度使用人が集まるまで、ケイローンさんの力をお借りしたいのです」
「そういうことでしたら喜んで」
「ありがとうございます」
カストールが頭を下げ、わたしも彼に倣ってお辞儀をする。
こうして、ケイローンさんがウチで執事として働くことになった―――。
ジジイの執事はだいたい強キャラ(偏見)。
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