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第29話 『魔術王』VS海賊

前回のあらすじ

海賊に襲撃された

 

『魔術王』ソロモン。

 その名前は俺でも知っている。


 理論上不可能とされている魔術の無詠唱発動を唯一成功させた、生きる伝説と化している人物だった。

 それだけでも名を馳せるに足る偉業だが、かの王には世界で唯一と言っても良い魔法があった。


 その魔法は――。


「《参上せよ、バルバトス、フラウロス》」


 そう唱えると、客船に接弦していた海賊船が真っ二つにへし折れる。

 海賊船に乗っていた海賊達は次々と海の中へと飛び込むけど、不運にも船の中に残っていた海賊達は現れた二人の魔人によって次々と血祭りに上げられていた。


『魔術王』ソロモンにしか扱えない魔法、召喚魔法。

 異世界の魔人を召喚・使役するという、ウチのお嬢や旦那の魔法とは別方向で規格外な魔法だった。


 その魔法を行使している張本人はと言うと、何処かから取り出した杖を握り締め、船団の方へと目を向ける。


「なるほど……海賊相手なら、手加減は必要無いね」


 そう言うと、『魔術王』はマントをはためかせて船団の方へと飛んで行く。

 アレも無詠唱で発動させた魔術なんだろうなぁ……と思いながら、シグルドと共に客船に残った海賊達の退治を再開した―――。




 ◇◇◇◇◇




 客船から一番近くにあった海賊船の甲板に着地し、挨拶代わりに雷属性の魔術を無詠唱で発動させて、甲板にいた海賊達を一掃する。


 バルバトスとフラウロスも新たな目標に向かって移動していた。

 残ってる海賊船は……五、いや六隻か。

 その中でも一際大きいのは僕が墜とすとして、戦力があと二人は欲しい。


 だから――呼び出す。


「《参上せよ、バエル、キマリス》」


 追加で呼び出した魔人達にも海賊船の破壊をお願いし、僕は一際大きい海賊船へと飛んで行く。

 海賊船から大砲による砲撃があるけど、それらを防御魔術で防いでいく。

 そして着地と同時に、風属性の魔術で海賊達の身体を切り刻んで一掃する。


「ほぉ〜う? 随分と活きの良い女がいるじゃねえか」


 すると、黒い髭を生やした、いかにも海賊ですみたいな風貌の男が現れた。

 その男の手には、これまた海賊がよく使うカトラスが左右に握られていた。


「貴方が、この海賊達の親玉?」

「そうだ……と答えたら?」

「遠慮無く倒させてもらうだけだけど?」

「そうか……そう簡単にいくとは思うなよ!」


 黒髭の海賊はそう言うと、一瞬で僕との距離を詰めてきた。

 油断していたつもりは無いけど、完全に意表を突かれた形となってしまった。

 黒髭の海賊……面倒だな。黒髭は左右の剣を振り上げてくる。

 それを僕は、手に持った杖で防ぐ。


「うん? 何だ。良く見たら良い女じゃねえか。決めたぞ。お前は俺様の女にしてやる。光栄に思えよ」

「お断り、だっ!」


 無詠唱の風属性魔術で強制的に距離を取り、追撃に水属性の魔術を喰らわせる。

 完璧なタイミング、避けようのない攻撃だった。

 にも関わらず、水流は黒髭を避けるようにあらぬ方向へと飛んで行った。


 考えられることとすれば……。


「……貴方の魔法、今の?」

「残念だが違うな。俺様は昔から、俺様に向かって飛んできた攻撃はそっちから避けるようになってんだ」

「特異体質ってわけか……なら」


 片手で持っていた杖を両手で持ち、九十度回転させて引き抜く。

 すると中から、杖の中に隠されていた刀身が姿を現す。

 僕の杖は所謂仕込み杖で、剣を常に内包していた。


 剣を引き抜いた理由は唯一つ。

 飛び道具での攻撃が効かないなら、近接戦を仕掛けるだけだからだ。


 右手で引き抜いた剣を構え、黒髭に一直線に接近する。

 そして上段から剣を振り下ろすけど、黒髭に余裕を持って避けられてしまった。


 それは想定内。

 鞘となった左手の杖を、黒髭の喉元目掛けて槍のように突き出す。

 これは黒髭も予想外だったらしく、驚きながらも左右の剣を交差させて僕の突きを防いでいた。


 この一瞬の隙は見逃さない。

 ドガァァァン! バリバリバリ! という轟音と共に、稲妻が杖の先端を起点にして黒髭の身体を貫く。

 これだけ接近していれば、黒髭の特異体質とやらも機能しないし、これで仕留められるだろう。


 と思って少し油断していたのが災いした。

 黒髭の腕が伸びてきて、僕の首をガシッと掴み上げられてしまった。

 さすがにノーダメージというわけでもなく、黒髭の身体のあちこちから白煙が昇っていた。


「ぐっ……」

「ハァァァ……よくもここまでしてくれたな。予定変更だ。テメェはここで殺す」

「かはっ……!」


 首を掴む手に力が入り、指先の力が抜け武器を落としてしまう。

 呼吸も満足に出来ずに意識が遠退いていくのを自覚した次の瞬間――。


「はっ?」


 黒髭の胸を、人型の手が貫いていた。

 そしてその手には、血管が繋がったままの心臓が握り締められていた。


 謎の手はその手を強く握り締めると、パンッという破裂音と共に心臓が弾け飛ぶ。

 それと同時に黒髭の手から力が抜け、尻餅をつきながらも僕は拘束から解放された。


「ケホッケホッ……ありがとう、マルコシアス」


 黒髭の心臓を潰した張本人である魔人の一人、マルコシアスは黒髭の身体から手を引き抜くと、僕に一礼してから影の中へと沈んでいった。


 僕が使役する魔人達は、僕に命の危機が迫るとランダムで自動的に現れ、全力を以て迫り来る危機を排除する。

 今回の場合、黒髭の排除に当たったのがマルコシアスになったというだけだった。


「さて、と……」


 パンパンとお尻に付いた埃をはたきながら立ち上がり、落とした剣と鞘を拾う。

 そしてこの海賊船も海の藻屑に変えてから、客船の方へと戻っていった―――。






仕込み杖はロマン(偏見)。




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