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第100話 流星に願いを

番外編最終話です!

 

「……なるほど」


 ジャンヌから送られてきた書類をテーブルの上に放り、俺はソファーの背もたれに深く身体を預ける。


 スプリガンを殺した奴等について調べてはいたが、全くと言っていいほどに手掛かりがなかった。


 だが、十五年くらい掛けて、この大陸中を点々としていたジャンヌからその調査結果が届いていた。


 どうやら奴等は『エインヘリアル』と呼ばれる秘密組織らしく、ラグナロク家とは別にこの大陸の平和を守護するために活動しているようだ。


 だが、詳しい活動内容も、構成員も調べ上げられなかったのが心残りだとジャンヌはメモを残していた。


 俺としても、スプリガンを殺した奴等の正体が分かっただけでも僥幸だったから、ジャンヌを責めるつもりはなかった。


「邪魔するよ」


 すると、ジュリウスがリビングにやって来た。

 その脇には小包らしきモノが抱えられていた。

 テーブルの上を片付けると、ジュリウスは反対側のソファーに腰掛ける。


「今日はどうした? 何の用だ?」

「ちょっと里帰りしてたからね。コレお土産」


 そう言ってジュリウスは、小包をテーブルの上に置く。

 そのパッケージを見て、お土産の正体が分かった。


「コレは……ヒツジのクッキーか」


 ヒツジのクッキーとは言うが、単純にヒツジの形をしたクッキーなだけだった。

 羊肉やそのエキスが入っているわけじゃない。


「うん。アルマがこのクッキー好きだったってティアが言ってたからね」

「そうか。ありがたく頂く」

「今日寄ったのはお土産渡すだけだったから、僕はもう帰るよ」

「茶くらい飲んでいったらどうだ? 別に急ぐ用事でも、家が遠いわけじゃないだろう? それにどうせなら、ジュリウスからの土産話も聞きたいしな」


 事実、俺達の家とジュリウス達の家はそれほど離れてはいない。歩いて五分くらいの範囲だ。


 それとジュリウスは一応は宮仕えだからか忙しい日が多く、同じ街に住んでいて尚且つ家が近所であるにも関わらず、ゆっくりと話す時間も無かった。


 だから久しぶりに、友人との会話に講じたいという気持ちが少なからず存在した。


「まあそうだけど……そこまで言うなら、ご馳走になろうかな」

「だってよ、アルマ」

「分かったッス」


 キッチンにいるアルマに声を掛けると、そう声が返ってくる。


 それからアルマの淹れてくれた紅茶を飲み、ジュリウスからのお土産であるクッキーをつまみながら、ジュリウスの土産話に耳を傾けた―――。




 ◇◇◇◇◇




「うっ、う〜〜〜ん……」


 編み物を編んでいた手を止めて軽く伸びをすると、身体の節々からポキポキと軽い音が鳴る。


 五十代になってから身体にガタでも来たのか、たまに関節は痛むわ伸びをすると音が鳴るわが最早日常と化していた。


 身体にガタが来ているのはわたしだけじゃなくて……。


「ん……」


 対面のソファーに座って読書をしていたカストールは眼鏡を外し、目元をぐにぐにとマッサージする。


 カストールは最近視力が落ちてきたとの事なので、眼鏡を普段から掛けるようになっていた。

 もちろんわたしの創造魔法で創ったモノだった。


 それと、金髪にも所々白髪が混じり始めていた。

 わたしは元が銀髪だからか、あまり目立たなかった。


 すると、わたし達の孫の一人でジェシカの息子であるレンがリビングにやって来る。

 ウチの家督は結局ジェシカが継ぐ事になり、ジェニカはディル君と結婚してメラスレ家にお嫁に行った。


 ジェニカはディル君との間に子供を二人設けたけど、ジェシカもディル君との間に二人子供を設けている。

 ジェシカの子供達は私生児という扱いにはなってしまうけれど、ディル君はきちんと認知している。


 それに、この国では未婚の女性領主が近隣の領主からその子種を分け与えてもらう事を認めているから、ジェシカとディル君の関係は何ら不義理なモノじゃなかった。

 何なら、ジェニカが二人の関係を推し進めていたくらいだった。


「どうしたの、レン?」

「ジュリウス伯父さん達が来たよ」

「そう、ありがとう。……よっこいしょ」


 そう呟きつつ、ソファーから立ち上がる。

 それからブランケットを肩に羽織ってから、レンの案内でカストールと一緒に玄関に向かう。

 今は冬場だから、防寒具がないと寒くて暖房の効いた部屋から出たくはなかった。


 玄関ホールでは、レンの妹のリンがジュリウスの双子の娘であるシエルとノエルに抱き着いていた。

 ジュリウスはわたし達に気付き、こっちを向く。


「ただいま、父さん、母さん」

「お帰り、ジュリウス」

「お帰りなさい、ジュリウス」

「お邪魔します、おじ様、おば様」

「ようこそ、ティアちゃん。ゆっくりしてくと良いよ」

「シエルとノエルもね。短いとは思うけど、ゆっくりしてってね」

「「うん」」


 シエルとノエルはリンの頭を撫でながら、同時に声を揃えて答える。


 ジュリウスの子供は双子だし、わたしもジェシカとジェニカを産んだし、何ならわたしのお母さんとカストールのお母さんも双子の姉妹だったから、もしかしたら双子が産まれやすい血筋なのかもしれない。


「それにしても……シエルとノエルも去年から随分と綺麗になったわね。そんなに綺麗だと男の子にモテるんじゃないの?」

「綺麗だなんてそんな……全然そんな事無いよ」

「あれ? でもシーちゃん、この間告白されてなかった?」

「確かにそうだけど……でも、全然タイプじゃなかったから普通に振ったけどね」

「あらあら、うふふ……シエルとノエルもお年頃ね。ジュリウス、気が気じゃないんじゃないの?」

「全然? 変な男に引っ掛からなければ、誰と付き合っても、何なら結婚しても口は出さないよ」


 たまには息子をからかおうと思ってそう言ったけど、ジュリウスは予想に反した答えを返してきた。


 カストールも昔似たような事を言っていたし、ある意味では親子らしいと言えばらしい。


「こんな所で立ち話もなんだ。ジュリウス達は部屋に荷物を置いてきて、リビングにおいでよ。外寒かったでしょ? リビングなら暖房が効いてるし、暖かいよ?」

「うん、分かった」

「お祖父ちゃん。わたしとノエちゃんは客室を使えば良いの?」

「そうだね」

「あたしが案内してあげるよ、シエル姉、ノエル姉」

「じゃあお願いね、リンちゃん」

「うん!」


 リンはシエルとノエルの腕を掴み、今にもスキップでもしそうな軽い足取りで客室へと案内する。

 ジュリウスもティアちゃんを連れて、かつて自分が使っていた部屋へと向かって行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 夕方にはジェニカ達―ちなみにジェニカの子供は娘のエリスと息子のウィルだった―家族もやって来て、この日は去年振りに孫達も交えた豪華な夕食を共にした。


 その日の夜。

 わたし達は屋敷の二階のバルコニーへとやって来ていて、夜空を見上げていた。


 この時期は流星群が現れる時期で、子供達は昔からこの流星群を見る事を楽しみにしていた。


 それは今でも変わっておらず、ジュリウスとジェニカが家族を連れて帰省するのもそれが理由だった。


 わたしとカストールも、普段中々会えない孫達と会える機会だから、実は今日という日を密かに楽しみにしていた。


 子供達と孫達はバルコニーの欄干に集まり夜空を見上げている。

 わたしとカストールは並んで椅子に座り、夜空を見上げる。

 コートを着ていても、やっぱり冬の夜は寒い。


「あ、流れた!」


 すると、真っ先に流れ星を見つけたらしいエリスが声を上げる。

 だけどみんながエリスが指差した方向に目を向けた時には、すでにその姿は無かった。


「本当に流れたの、姉さん?」

「本当だってば。ウィルはあたしの事疑うの?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」

「あ、流れたよ!」


 今度はリンが見つけたらしい。

 わたしもなんとか、消えかけの所を目にする事が出来た。


 それから三つ四つ、一つ二つと断続的に流れ星が夜空を駆け抜ける。

 孫達は必死になって流れ星を探し、子供達は自分の子供を穏やかに見守りつつ自分達も夜空を見上げる。


 わたしはその様子をそっと見守り、自然とカストールの肩に頭を乗せる。

 カストールも自分の手をわたしの足に置いて、その手をそっと握り返す。


 ……子供や孫達がこれからも、元気に穏やかに、そして健やかな日々を過ごせますように。


 ……そして――愛する夫であるカストールと、一日でも長く一緒に過ごせますように。


 夜空を駆け抜ける流れ星に、そう、わたしの心からの願いを込めた―――。






【番外編製作秘話】

新章を始めるに当たって、「どうせならキリの良い話数 (第101話)から始めたいなぁ〜。でも本編は97話で終わってるし……せや! 番外編載せたろ!」と思い立って投稿しました。


それに、本編で回収し切れなかった伏線の回収や、舞台が一新される新章のためにカストール&ポルクス、そしてジュリウスが主人公の物語を綺麗に終わらせたかったっていうのもあります。


一応新章のコンセプトでも発表しておきましょうか。

たぶん王道だとは思うんですけど、コンセプトは「身分差」です。

楽しみに待っていてくれると大変嬉しく思います。




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