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第1話 婚約破棄

新作です!

今までとは毛色の違う婚約破棄から始まる恋愛物ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです!

 

「ポルクス・デュオニクス伯爵令嬢。貴殿との婚約をこの場で破棄させてもらう」


 多くの貴族父兄が参加するパーティーの場で、わたしは一方的に婚約破棄を告げられた。


 そう告げた相手は、このオリュンポス王国を統べる王家に名を連ねる、ポセイドン・ルクスリア・オリュンポス第一王子殿下だった。

 海を連想させる深い青色の髪は綺麗に整えられており、多くの貴族子女を魅力するような顔立ち、そして王家の証である金色の瞳はわたしを睨み付けている。


 そして殿下の傍らには、アンフィトリテ・サラーキア子爵令嬢が殿下に甘えるように寄り添っていた。

 何度かパーティーの場で顔を合わせたことがあるから、彼女のこともある程度知っていた。

 彼女にも婚約者がいるという話を聞いたことがある。その相手が誰か、までは知らないけど……。


 だからこそ分からない。

 何故この場でそんなことを言われるのか、そして何故殿下の傍らにはアンフィトリテ嬢がいるのか。


「殿下、理由を説明してください。何故そのようなことを仰るのです? わたしに落ち度があったのなら修正致しましょう。ですが……それとは別に、何故殿下の傍らにアンフィトリテ嬢がいらっしゃるのですか? 彼女は婚約者がいる身ですよ?」

「理由、理由か……ならば答えてやろう。私がアンフィトリテ嬢に惚れたからだ。好いた者と生涯を添い遂げるのは普通のことだろう?」

「……わたしに愛情は無かった、と。それは認めましょう。所詮はお互いの両親同士が決めたただの婚約関係。そこに愛情が無いのは間々あること。……ですが、後半が不可解です。アンフィトリテ嬢には……」

「婚約者がいる、という話か。それは昨日までの話だ。アンフィトリテ嬢……いや、アンフィトリテも昨日の内に婚約破棄をしている。彼女の婚約者も納得していた」

「……まさかとは思いますけど、王家から圧力を掛けたのですか?」


 そう聞き返すと、殿下は肩を竦める。


「それこそまさかだ。私がアンフィトリテを好いていることを懇切丁寧に説明したら、相手の方から大人しく引き下がっただけだ。それにアンフィトリテの方も私を好いている。相思相愛の相手同士だ。何の異論も無いだろう?」


 そう言われては反論のしようも無い。

 誰か助けてくれないか辺りを見回すけど、その視線は全て憐憫と嘲笑が入り混じったモノしか無かった。


「……分かりました。殿下との婚約を破棄された以上、わたしがこの華やかな場にいるのは相応しくありませんね。それでは失礼させていただきます」


 ドレスの裾を軽く摘まみ上げ、深々とお辞儀をする。

 そして早足で、その場を後にした―――。




 ◇◇◇◇◇




「はああああああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜……」


 王城のダンスホールから抜け出した後、わたしは王城前にある噴水広場のベンチで一人黄昏ていた。夜だけど……。

 女の子一人でこんな所にいると変なことに巻き込まれる可能性が高いけど、王都は治安が良いからそんなことはほとんど起きない。


 両親にどう説明しようか? と星空を見上げながら考えていると、突然声を掛けられた。


「あれ? ポルクス?」

「うん?」


 声のした方に目を向けると、そこには金髪碧眼の青年がいた。

 彼の名前は知っている。


 カストール・ジェミニアス。

 ジェミニアス子爵家の貴族令息で、わたしと同じ日同じ病院で産まれた従兄弟で幼馴染でもあった。

 そして本人には一度も言ってないけど……わたしの初恋の相手でもあった。


 閑話休題。

 ベンチから立ち上がり、カストールの方へと近付く。


「カストールじゃない。どうしたの、こんなところで?」

「それはこっちの台詞だよ。今日って王城でポセイドン殿下主催のパーティーじゃなかった?」


 わたしの家とカストールの家は昔から親密な関係にあり、しかもわたし達の母親が実の姉妹ということもあって、お互いの家の情報はある程度共有していた。

 だからカストールが今日のパーティーのことを知っていてもおかしくはなかった。


「実はね……」


 そう前置きし、あの場で起きた出来事をカストールに伝える。

 するとカストールは怒るでも哀れむでもなく、驚いたような表情を浮かべる。


「ポルクスも?」

「も……?」

「実は僕もね、婚約破棄されてるんだ。それも昨日」

「……うん? 昨日……?」


 まさかとは思いつつ、カストールに尋ねる。


「まさかと思うけど……カストールの婚約者だったのって、サラーキア子爵令嬢だったりしない?」

「そうだよ。彼女が言ってた?」

「ううん。彼女に婚約者がいるっていう話は聞いたことがあったけど、相手が誰かまでは知らなかったよ。まさかカストールだったとはね」

「僕の方も言ってないしね」

「……あ、そうだ。殿下は「懇切丁寧に説明したら相手の方から大人しく引き下がった」って仰ってたけど、本当?」


 そう尋ねると、カストールはコクリと頷く。


「半分正解。ある意味交換条件で婚約破棄を呑んだんだ。大人しく引き下がったのは事実だけどね」

「交換条件? それって何なの?」

「殿下の方から、「婚約破棄を呑むのならば、私の権限で辺境伯に任命してやろう」って条件を出されたんだ」


 辺境伯は爵位の高さで言えば、伯爵位と同等の地位がある。

 ジェミニアス家は伯爵位の下の子爵位だから、ある意味では出世の道を提示されたことになる。


「で、カストールはその条件を呑んだ、と……」

「うん」

「婚約者……今は元婚約者か。その元婚約者に未練とかは無かったの?」

「全くね。親同士が決めた婚約だったし、彼女に好意は微塵も無かったよ。……忘れられない初恋の相手がいるしね」


 突然風が吹いて、後半何を言っているのか聞き取れなかった。

 でもたぶん、わたしには関係の無い話だろう。

 それとまだ本題の方を聞いてない。


「カストールの事情は分かったよ。でもなんでこんなところにいるの? 出歩くような時間じゃなくない?」

「さっきの条件にもある条件があるんだよ。辺境伯に就く条件が、アンフィトリテ以外の貴族令嬢を娶ることなんだよ。だからこの時間まで手当たり次第に貴族家を巡って、未婚の令嬢と結婚出来ないか交渉してたんだ。でも……あまり良い手応えは無かったね」


 あはは……と笑うカストールだけど、その笑みは疲れ切って乾いていた。

 その顔を見て、わたしは思わず言ってしまった。


 ……この時のわたしの判断は間違いじゃなく、わたしとカストールの運命を決定付けた英断だと胸を張って断言出来る。


「なら……なら、わたしと結婚して!」

「……えっ?」

「…………………………えっ???」


 ……わたし今、何て言った?






こういうのでヒロインからプロポーズするのって珍しい方では?


ちなみにモデルは双子座の英雄です。




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