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1話 婚約解消

「ライアンとは婚約解消したいんだが」


 准男爵家の跡取りである婚約者のオズマからこの言葉を聞いた瞬間、今まで背負っていた重荷から一気に解放された気分だった。


「理由をお伺いしても?」

「元々小さい頃から政略的な婚約として男爵家のライアンとそういう運命になることは幼い頃から決まっていただろう? 初めは俺はそれでも良いと思っていた。だがな、ライアン家の稼ぎは凄まじくなっただろ?」

「五年前くらいですね。お父様が有名なシェフになって王宮に毎日出来立ての料理を提供するようになったのは」


 その前まではごくごく普通の男爵家で、お金に余裕などなかった。

 だが、お父様が心機一転、覚悟を決めて料理人をやり始めたら物凄い評判になる。

 ついに王族の方々にまでその評判は広まり、今では多額の報酬と引き換えに王宮で毎日シェフをしてから自分のレストラン運営をやっているのだ。

 私もお父様に憧れて未熟ではあるが料理にハマっている。


「それなのに、我々の家に資金援助すらしてくれないではないか。そういう平等性がないところが気に入らないんだ。と、父上も母上も言っているんだが」

「お父様の稼ぎは私たちの結婚には関係ありません。それとも財産目当てに変わったのですか?」

「それも一理ある。何故ならば、俺たちの幼馴染であるミーナから声がかかっているのだからな」

「あぁ、ミーナの家も男爵家ではあるものの、かなり稼いでいますからね」


 我が家とは違う職種だが、ミーナ一家も注目を浴びるくらいに稼ぎがある家だ。

 そっちに婚約を乗り換えたいというわけか。

 家族揃って。


 私としては大歓迎だ。

 私たちの家族揃って。


「わかりました。私は構いませんが」

「そうか。話がわかりやすくて助かる。もちろん婚約解消だから慰謝料などもナシだぞ!?」

「ご自由にどうぞ。手続きは明日にでも済ませておきましょうか」

「あぁ」


 私が勝手に物事を進めているのにも理由があった。

 何故ならば、私たち一家揃ってオズマとの婚約に関して後悔していたからである。

 だからこそ、お父様からは『もしも幸運にも婚約をなかったことにしたいと申し出があれば、即決断して構わない。慰謝料や細かいことなども多額な請求がない限りには相手の意向を尊重して構わん』と、言われていたのだ。

 しかも、この日が来ることを願ってお父様と何回も婚約解消シミュレーション会話を訓練させられていたくらいだ。


 オズマ家から帰ってこのことを話したら、お父様もお母様も泣いて喜んでくれることだろう。

 幸い、オズマも多少なりとも非があると思っているようで、婚約破棄とは言わずに婚約解消したいと言ってくれたので想定していたよりもスンナリと話を進められた。

 もしも婚約破棄したいと言われた場合はかなり面倒なシミュレーション展開をしなければならなかったのだから。


 早速家に帰り、今日はお休みで家にいるお父様たちに、このことを報告した。



「おおぉーーー!! ついに婚約解消を言われたのか!! 今日はお祝いだな」

「あの家のことだから、きっといつか言ってくると思ってましたよ。あなた、これでライアンも幸せになれるかもしれませんわ!」

「全くだ。俺がシェフをやり始めるまでは家族ぐるみで仲良く接していた家だというのに……。何故こうも人が変わってしまうものなのか」


 言いたい放題の両親に聞いていた使用人も私自身も、何も文句をいうことはなかった。

 それだけオズマ一家がおかしくなってしまっているのだから。

 ミーナと結婚したいとか言っていたけれども、大丈夫なのだろうか。


 確かに今まではひと財産稼いでいたようだけれど、今は……。


「ミーナの家って今も安泰なのでしょうか?」

「いや、確かあの家、不正を働いて現在裁判中だったと聞いたが。表向きには公表されていないから、あいつらも知らないのだろう。おそらくミーナにもこのことはまだ話していないのだろうな」


 それを聞いて、明日手続きを完了させてしまう流れにしておいて本当に良かったと思っている。

 オズマのことだから婚約解消を破棄したいとか絶対に言ってくるはずだ。


 つまり、私にはあまり時間がない。

 明日婚約解消をした上で、新しい嫁ぎ先を見つけなければいけないのだ。


「ライアンよ、今嫁ぎ先はどうしようと考えていないか?」

「さすが。よくわかりましたね」

「安心したまえ。実は今まで黙っていたんだが、もしも婚約が白紙になることがあれば、すぐにでも、アポ無しでも構わないから会いたいと言っているお方がいるのだよ」


 お父様は何歩も先のことを考えているからなぁ。

 順序はめちゃくちゃだが、私がいずれ婚約解消されることもコッソリとその人に話していたのだろう。


「私としてはお父様の推薦に従って構いませんが、どちら様ですか?」


 恋愛もしてみたかったが、もう私は十九。

 同年代の貴族家の女の子ならば結婚しているのが普通な年齢でもある。

 嫁ぎ先を優先して、そのお方と共に過ごす方が大事なのだ。


「聞いて驚け」

 この焦らしはなんなのだろう。

 お父様がニヤニヤとしているし、楽しんでいるようだ。

 そんなことは良いから、早く教えてください。


「侯爵家の跡取り息子、サバス様だ」

「「はいーーーーー!?」」


 この名前を聞いて、私だけでなくお母様まで一緒に大声で叫んでしまった。

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