軍人さんたち
ラファエロは、クースコスキ家を去った後にティーカネン侯爵家に執事として再雇用された。そして、現在はバラの管理もしてくれている。
「ラファエロ」
彼は、ある一定の距離を置いたところで立ち止まった。それから、おっかなびっくりの様子で王太子殿下に礼をとった。
「やあ、ラファエロ。バラの管理をしてくれてありがとう。それから、ずっとアリサの側にいてくれていて感謝している」
「王太子殿下、お会いできて光栄です。殿下……。あの、どうかアリサお嬢様のことをお願いいたします。アリサお嬢様は、しあわせにならなければなりません。だれよりも、その権利をお持ちです」
「ああ、わかっている。約束するよ。この王国一番のしあわせ者にする」
王太子殿下は、わたしの横で大きくうなずきつつ約束してくれた。
ラファエロの真面目な顔に笑顔が咲いた。そして、わたしと視線が合うと満足そうにうなずいた。
ラファエロ、ありがとう。
心から感謝した。
さきに到着していたプレスティ侯爵家のみなさんもエントランスで出迎えてくれた。
プレスティ侯爵と侯爵夫人も抱きしめてくれた。
そして、ついにアマートとディーノの五人のお兄さんたちに会うことに……。
すでに挨拶をすませたカーラから、いろんな意味で強烈な人たちだときいている。
恋愛小説に出てくる軍人は、強面で不愛想な人が多い。だけど、ほんとうはシャイで不器用だからヒロインは勘違いしてしまってなかなか恋に進展がなかったり、すれ違ったりする。あるいは、じれったい展開になったりというパターンが多い。
一方で、内乱とか戦争で美形の軍人がヒロインを颯爽と助け、そのまま恋に落ちたりする。強面であっても、冒頭でヒロインを敵国の兵士に殺されそうになるところを間一髪で救うから、ヒロインは一目惚れしてしまう。もちろん、助けた側の軍人もか弱いヒロインにハートをわしづかみにされてしまう。
もちろん、悪く描かれていることもある。ヒロインにとっては、だけど。
総じて軍人に対するイメージは、「強面で不愛想で堅苦しい。だけど、一途に想ってくれる」である。
そんな先入観を抱いている五人の軍人たちは、カッコいい上級将校の礼服に身を包み、ピシッと整列している。
「あー、アリサ。さきに兄たちのことを謝っておくよ」
いつの間にか、アマートが近づいてきていた。
「そうだね。アリサ、驚かせてすまない」
カーラをエスコートしているディーノまで驚かしてきた。
「おいおい、きみたちの兄さんだろう?それよりもアマート、アリサに構わずソフィアをエスコートしたらどうなんだ?」
王太子殿下がささやくように言った。
ええ、殿下。わたしも同感ですわ。
ティーカネン侯爵家に到着してからというもの、アマートはソフィアをエスコートするどころか彼女に近づきさえしていない。
「したくても出来ないのですよ、殿下」
すると、アマートはそう応じて両肩をすくめた。
「なんだって?きみはまだ、兄さんたちに許してもらって……」
王太子殿下が言い終わらないうちに、五人がすぐ目の前に立っていることに気がついた。
さすがは軍人ね。ってことはないのかもしれないけれど。とにかく、なんて素早いのかしら。
プレスティ侯爵夫妻は、わたしたちから離れてティーカネン侯爵夫妻とソフィアと話をしている。
「殿下」
一番年長っぽい人の左胸には、数えきれないほどの勲章と階級章が輝いている。
五人そろっての敬礼は、圧巻である。
まるで小説の一場面ね。
軍人とヒロインの恋愛小説なんかに、こういう場面が出てくることがある。
はじめて見たわ。
ちょっと感動してしまった。
そして、彼らの敬礼に答礼をした王太子殿下がカッコよすぎた。
す、素敵……。
二重の感動だわ。
「クースコスキ伯爵令嬢でしょうか?」
先程の男性が尋ねてきたので、ドレスの裾を持ち上げつつ名乗った。
その瞬間、五人同時にエントランスの大理石の床に片膝をついた。
「クースコスキ伯爵令嬢、いいえ、王太子妃殿下。わたしは、シルヴィオ・プレスティ。プレスティ侯爵家の長男でございます。どうかお見知りおきを」
先程の男性は片膝立ちのままわたしの前までにじりより、わたしの手を取ってその甲に口づけをしてくれた。
次男のミルコ、三男のレオナルド、四男のイザイア、五男のジャンルカと、入れ替わり立ち代わり手の甲に口づけをして挨拶をしてくれた。
すごいわ。まるで、お話に出てくる騎士だわ。
自分が王女様になったみたい。
その古風な挨拶に、感動以上のものを感じる。
こんな場面、女の子たちが見たら「キャーキャー」叫んで大騒ぎするに違いないわ。




