後見人たちの様子
「クリス。きみの領地には、そんな面白そうな場所があるのかい?」
「ああ、イザイア。ネーミングのままの森でね。一度足を踏み入れたら、二度と出ることは出来ない。なんなら、軍の演習に使ってみるかい?広大な森だ。一個大隊でも問題はないよ」
「おお、それはいいかんがえだ。わたしが現役のときには、とてもではないがリスクを冒したくはなかったからな。だが、平和に慣れ親しんでいるいまの軍ならば、そういう刺激が必要かもしれん」
クリスティアーノとコルネリオの親子二人で盛り上がっている。
「だそうですよ、シルヴィオ兄さん」
「おい、レオナルド。おれにふるなって」
「おまえたち、いいかげんにしておけ。そもそも、アマートの話ではないだろう」
ふたたびユベールが注意をすると、だれもが姿勢を正した。彼らにとって、ユベールの二度目の注意は警告に相当する。
三度目はない。
子どもの頃からのきまり事らしい。
「殿下、パトリスとその息子の調べの裏が取れました。すぐにでも逮捕して収監出来ますが、いかがいたしますか?」
ユベールの報告は、予想出来ていた。
「パトリスのお蔭で、かれらがいつどれだけ賭け金を支払ったかを、二人が通い詰めている各賭場の責任者から資料を提出させることが出来ました。もちろん、パトリス自身もどれだけ貸したかの資料を提出しています。そして、これがもっとも重要ですが、クースコスキ伯爵夫妻の事故死のことです。こちらも逮捕状がすぐにでも出ます」
続けられた報告に、一つうなずいた。
「それで、二人はどうしている?」
アリサの叔母夫婦には、謹慎を命じている。
謹慎をはじめた頃には、毎日酒を浴びるように飲んですごしていた。が、あれから日にちが経ち、すこしは事態を真剣に受け止めただろうか。反省なり後悔なりしているだろうか、とかんがえていた。
「執事のラファエロが申しますに、二人とも謹慎の理由どころか謹慎を命じられていることすらよくわかっておらぬようです。あいかわらず酒浸りで、アリサに酒代を持ってこさせろだの賭場に行くから屋敷から出せだのと、暴れているそうです。店から酒を持ってこさせては、図書館にいる姪に金をもらってくれとも言っております。ラファエロを恫喝したり暴力をふるいそうになったりして、監視兵が止めに入ったのも一度や二度ではありません。ですので、ラファエロはうちで寝泊まりをさせています。呆れ返る連中、というよりかはクズですな」
クースコスキ伯爵家とは隣同士のコルネリオは、ごつい肩をすくめた。
彼は、アリサの父や叔母と同年代である。しかし、彼自身は領地で育ち、軍の幼年学校に入るときに王都に出て来た。その為、まったく付き合いがなかったという。だからアリサの父とも軍を退役して屋敷に戻り、そこではじめて親交を持つようになったとか。
「ユベールに付き合ってもらい、二度ほど忠告に行きました。ご近所の誼というわけです。せめて神妙にしろ。これまでの非を認め、アリサに謝罪するとともに悔い改めよ。それから、後ろ暗いことがあれば、はやめに自首しろ、とも。そうでなければ断罪されることになる、と」
「が、彼らはアリサは王太子妃になる。その叔父と叔母に意見するな、とわけのわからないことをほざく、失礼、申すだけできく耳を持とうといたしません」
コルネリオに続き、ユベールもまた肩をすくめつつ言う。
「殿下もなめられたものですね」
「こらっ、クリス。殿下に対してなんだ」
「いや、コルネリオ。クリスの言う通りだ。酒でぐちゃぐちゃになっている彼らの頭でも、アリサが王太子妃になって自分たちに栄華を味あわせてくれる、というような筋書きだけは描いているわけだ」
おそらく、悪気のない言葉だったんだろう。クリスティアーノの言葉に、思わず苦笑してしまった。
「殿下。来週ですが、彼の屋敷でちょっとしたパーティーを行います」
ユベールがコルネリオを手で指し示しながら切り出した。
「愚息どもの式を控え、両家の顔合わせといいますか、懇親会といいますか、そういったものです。まぁ、ただの飲み会と言ってもいいでしょうか。そのパーティーに、ティーカネン侯爵家の隣家も招こうかと。つまり、アリサとその後見人たちをです。それから、つい最近知り合いになった金貸しのパトリスとその息子も招きます。というわけで、後見人たちの監視兵たちにもパーティーで監視をしてもらうことになります。殿下には、そのご許可をいただきたく」
監視役の兵というのは、じつは近衛隊の隊員である。
通常は司法の領域である。が、今回は王太子妃となるアリサの後見人が対象だ。だから、近衛隊が管轄することになったというわけだ。




