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愛する人が婚約を破棄された

 今朝は目覚めたときからずっと心が浮き立っている。

 うれしいというかこそばゆいというか、少しの不安と緊張感も……。


 この気持ちは、毎度のことである。いまでは、それもすっかり慣れてしまっている。


 心の高揚が表情に出ていたらしい。


 隣国との折衝を控えての閣僚たちとの話し合いの間に「何かいいことがおありなのですか」とか、「ご機嫌なようですな」とか、閣僚たちに尋ねられたり言われたりした。


 彼女に会えることが、これほど心を浮き立たせてくれるのか。これほど恋い焦がさせてくれるのか。


 待ち遠しくてならない。出来れば、もっと頻繁に会いに行きたい。が、彼女には婚約者がいる。そして、わたしには外交という職務がある。


 だから、どれほどがんばっても週に一度、幸運なときには二度が限度である。


 その一度一度を大切にしたい。これまで、その想いを実践してきた。


 そして、今日もまた……。


「殿下、ティーカネン侯爵令嬢が至急お話ししたいことがあると……」


 会議が終わったタイミングで、側近に耳うちされた。


「ソフィアが?わかった。すぐに会おう。彼女は、執務室で待ってくれているんだろう?」


 一瞬、彼女に何かあったのか、と心臓が飛び跳ねた。側近にそう尋ねたときには、すでに会議を行っていた部屋を飛び出していた。


 廊下を急ぎ足で執務室へと向かう。ありがたいことに、あれこれ言ってくる貴族や閣僚に会わずにすんだ。


 足を動かしながら、どうしても悪い方悪い方へと想像を張り巡らせてしまう。


 ソフィアが約束もなしに訪れてくることはめったにない。


 ということは、彼女のことで何かあったに違いない。


 心が急く。急ぎ足ではなく、思いっきり走りたい。


 王太子など、こういうことですら自由に出来ない。


 不便きわまりない。


 そうしてやっと、自分の執務室に戻って来ることが出来た。


「ソフィア、彼女に何かあったのか?」


 焦っているあまり、執務室の扉を開けながら尋ねてしまった。


「で、殿下」


 執務室の長椅子に腰かけていたソフィアは、その勢いに驚いたらしい。文字通り飛び上がった。


「どうか落ち着いてください。まったく、驚かされました。とりあえず、扉を閉めて下さい」

「あ、ああ。すまない」


 叱られてしまった。いつものことである。


「殿下、ご挨拶申し上げます」


 扉を閉めて彼女に近づくと、彼女はドレスの裾を少し上げて挨拶をしてくれた。


 いつものように派手でセクシーなデザインのドレスである。こういうドレスが、最近王都で流行っているらしい。派手な顔立ちのソフィアにはよく似合っているが、彼女にはもっと落ち着いた色とデザインのドレスの方がっぜったいに似合うはずだ。


「ソフィア、あいかわらず美しいね」

「殿下、お世辞でもうれしいですわ。ですが、そういうことは本命におっしゃるべき言葉です」

「まいったな。さあ、座ってくれ。お茶を……」

「殿下、どうかお気遣いなく。これから、図書館にいらっしゃるのでしょう?」

「よく知っているね」

「女の勘、というものです。殿下にとっては、図書館でのひとときは貴重でしょう?すこしでもいっしょにすごされたいでしょうから、用件をさっさとすませます」


 一つうなずくと、ソフィアはさっそく語ってくれた。


 今朝、彼女が婚約を破棄されたこと。婚約者のラムサ公爵子息は、つぎの婚約者としてソフィアを選んだこと。ラムサ公爵子息は、来週行われる王家主催の舞踏会で婚約破棄とあたらしい婚約者の発表を行うであろうこと。


 ソフィアは、これらのことを淡々と語ってくれた。


「あのバカは……」


 ソフィアは、そう言いかけて肩をすくめた。


「失礼いたしました。ラムサ公爵子息は、王家の承認もなく婚約破棄をするつもりです。そして、やはり承認を得ることなくわたしに婚約を申し出ました」

「なんと愚かなことを。もちろん、わたしにとってこれは朗報だ。最大最高のチャンスだ。だが、ラムサ公爵子息は、王家を蔑ろにしたことになる。しかも、王家主催の舞踏会で公にするなどとは、王家を侮辱するに等しい。残念だが、その愚かさが彼の命運を絶つことになる。それだけではない。ラムサ公爵も咎めざるを得ない。ソフィア、その暴挙を止めることは出来ないだろうか」


 このままでは、ラムサ公爵子息は毒杯を賜ることになる。王家を侮辱すれば大罪。即断罪される。


「もちろん、諫めました」


 ソフィアは、溜息をついた。



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