やはり王子様より王子様を守る人が強くて面白いんだ
「ニコラス、そうだよ。きみの言う通りだ。王子様より王子様を守ってくれる人の方がずっと強いし面白い。だけど、王子様も好きな女性の為に強くならなきゃならない。カッコいいところを見せなきゃならないからね。だから、わたしもそう出来るよう努力している。きみは、お母さんやアリサ先生のことが大好きだろう?守ってあげたいよな?」
寛大な王子の言葉に、ニコラスは小さくうなずいた。
「わたしも同じだ。きみに笑われたりバカにされたりしないよう、がんばってアリサ先生を守るよ」
「ごめんなさい。つまんなくって弱いって言って、ごめんなさい」
おお、なんてことだ。わたしの思いが彼に通じたようだ。
「謝ることはないさ。実際、ここにいる近衛隊の隊員たちは、わたしや国王を守ってくれている。最強の男たちなんだ」
「ええっ?」
彼の涙は、まるで嘘泣きだったみたいにあっという間にかわいてしまった。って認識するまでに、彼の顔に笑顔がひろがった。
女の子たちがわたしをキラキラした瞳で見るのと同じように、彼は近衛隊のメンバーをキラキラした瞳で見ている。
ちぇっ!やはりきみは、王子を守る側の者か。
そのとき、ニコラスの視線の先にアマートがいないことに気がついた。さっきまで立っていた場所から忽然と消えている。
何の気なしに、ニコラス越しに母親たちの方を見てみた。
「って、アマートッ!」
思わず、大声で彼を呼んでしまった。
あろうことか、彼はニコラスの母親を口説いている。
どうせわたしをだしに、うまいことやろうと画策したんだろう。
おいおい、人妻だぞ。
「ったく、兄さんは最強は最強でも女性限定ってわけだ」
ディーノのつぶやきがきこえてきた。
アリサも、わたしの横で苦笑いしている。
すぐに注意をしたが、アマートには困ったものだ。
それもこれも、彼が落ち着こうとしないからに違いない。
もしかすると、彼のこともわたしのせいなのかもしれない。
アマートの女癖の悪さについて考察していると、館長が紅茶とクッキーを持って来てくれた。
子どもたちと母親たちは、白馬の王子様のことで盛り上がっている。
そんなみんなの様子を見ていてふと思いついた。
「決めた。図書館でちょっとした式を挙げよう。子どもたちやそのご両親、ここの常連さんを招いてね。おっと、わたしたちのキューピッドのソフィアを忘れてはいけないな」
「素敵ですね。では、殿下。白馬の準備もお忘れなく」
ほんとうに思いつきだったけど、アリサの笑顔がまぶしすぎる。
彼女がよろこんでくれている。
それだけで、わたしは満足だ。
「アリサ、それは心配はいらないよ。わたしの愛馬は白馬だから」
そう。いまのは嘘ではない。いまの「サンダー」で三頭目の愛馬だが、三頭とも白馬なのだ。
「ほんとうさ。アリサ、覚えているかい?きみは、小説の白馬の王子様のくだりを読んでうっとりしながら言ったんだ。『白馬の王子様にお姫様抱っこをされて馬に乗せてもらい、大好きな本を読みながら野原を駆けるの』ってね」
そう言ってから彼女に笑いかけた。
いまも素敵だが、少女だったころの彼女も素敵だった。
両手を口にあてて驚いている彼女に、その彼女の願いをかなえるために自分がやってきたことを語ってきかせた。
アマートとディーノといっしょに、彼らの兄さんの一人に剣を習ったのである。彼女の体重がどれだけ重くなってもいいように、剣を振りまくって腕に筋力をつけた。
すると、ついさっきまでニコラスの母親の横で愛想をふりまいていたアマートが口をはさんできた。
アリサだからお姫様抱っこが出来るが、自分たちの父親、つまりユベールだったらどれだけ力をつけようとも彼の妻であるサラをぜったいにお姫様抱っこ出来るわけがない。
彼は母親への感謝の念を忘れ、堂々と言ってのけた。
そのすぐ後ろに、その母親のサラが立っているとも気がつかずに。
当然、アマートは制裁を食らった。
サラに後頭部を思いっきり殴られたのだ。
ふふんっ。ざまぁみろ。母親のことを悪く言うからだ。
その後サラは、母親たちには「男の子を育てることのむなしさ」らしきことを伝え、男の子たちには「お母さんを愛しなさい」と忠告をした。
彼女の言う通りだ。
母親たちも男の子たちも生真面目にきいていた。
それから、アマートがかわいそうなので間に入ってやった。




