王太子の舞踏会後
案の定、ガブリエル・ラムサの死はアリサを悲しませた。
クズ野郎の死を知らせたときの彼女の様子を目の当たりにし、わたしの心も痛んだ。
いくらなんでも、死者を鞭打つようなことはしてはいけないな。クズ野郎、などといってはならない。
思わず、苦笑してしまった。
それはともかく、ガブリエルのしたことは王家を侮辱したことに他ならない。蔑ろにしたのだ。
アリサを悲しませたくはなかったとはいえ、それを看過することは決して出来なかった。
彼は、毒杯を呷った。
ラムサ公爵家に罪がおよばないようにと、事前に手を回していたことは救いだった。
舞踏会が行われるすこし前に、ガブリエルの名はすでに公爵家から消されていた。
それでも、公爵家は自主的に謹慎している。
現当主、それから公爵家を継ぐガブリエルの弟は、しばらくの間社交界から姿を消すだろう。
現当主は、領地へ戻るという。そして、嗣子が公爵家を継ぐ準備が整い次第、当主の地位を譲るという。
ガブリエルの愚かさは、歴史と栄誉あるラムサ公爵家そのものの存在を脅かしたのだ。
彼の言動すべてが愚かすぎた。
そして、それを制止出来なかったわたしたちにも非はある。
出来る出来ないではない。制止しようという意志と信念の欠如が問題だ。
アリサは、しばらくの間ガブリエルの死にうちひしがれていた。が、彼女も司書の仕事がある上に、気が遠くなるような王太子妃になる為の準備がある。
思っていたよりもはやく立ち直り、充実した毎日を送っている。
そうだった。ガブリエルのこととは別に、彼女には後見人たちの問題がある。
舞踏会の後、彼女の後見人二人には謹慎を言い渡している。
ガブリエルもひどかったが、叔母夫婦はさらにひどい。彼女の身内だからこそ、余計に性質が悪い。
彼らには、これまでの非道の報いを受けさせねばならない。
それももう間もなくのことだ。調査は、順調に進んでいる。
もろもろの問題を片付け、彼女には何の気兼ねもなくわたしのもとに来てもらいたい。
そして、しあわせになってもらう。
そう。わたしが彼女をしあわせにするのだ。
じつは近衛隊を抜けて正式に側近になってもらうよう、アマートとディーノを口説いているところである。
アマートは、女性とのトラブルさえなければ近衛隊長になれるだけの実力がある。ディーノは彼を補佐する副隊長だ。
だが、わたしには心から信頼出来て有能な側近がいない。というよりかは、ついつい彼らに頼ってしまうので側近をおいていない。
いまのままでも問題はないのかもしれない。実際、わたし自身はおおいに助けてもらい、それだけの成果をあげている。彼らも、わたしを助けるだけでなく、近衛隊の職務もちゃんとこなしている。
しかし……。
個人的な問題がクリア出来たら、つぎは公のもろもろの問題に取り組まなければならない。
このラハテラ王国は、何代もの国王が平和で穏やかな治世をすごしている。戦争も内乱もなく、大きな天災や人災もなく、じつにいい時代が続いている。
しかし、そんな中でも様々な綻びは生じている。それは、小さなものから大きなものまでさまざまである。
すべてをどうにか出来るとは思ってはいない。しかし、一つでも二つでもどうにかしたい。
この王国のすべての人々が心穏やかに生活出来るように。
それを行うには、わたし一人では到底無理である。多くの人の助けが必要だ。
それに、ときにはだれかの反感や恨みを買うことになる。駆け引きや騙し合い以外に、腕っぷしの強さも必要になる。
知のアマート、武のディーノ。
この二人が常に脇を固めてくれたら、これほど心強いものはない。
だからこそ、熱心に口説いている。そして、おそらくは二人ともなびいてくれるだろう。
アリサより、よほど口説きやすいしなびかせやすい。
が、そうなると問題は近衛隊の隊長である。彼はアマートを後継者にかんがえ、そのように育てているだろう。こちらも、説得しなければならない。
王太子だから何でも思うようになる、と思ったら大間違いなのだ。
今日は読みきかせの会である。
アリサと館長には、訪れる旨を伝えている。それから、いつもの護衛のメンバーにも。
アマートとディーノが溜まっている書類仕事は手伝ってくれたので、ほとんど終えることが出来た。残りはわたし自身の署名が必要な書類ばかりで、それらは戻ってから目を通せばいい。
読みきかせの会でスイーツが振る舞われることは、みんな知っている。
近衛隊のメンバーは、強面のくせにスイーツに目のない者ばかりである。密かに楽しみにしている。だから、こちらから声をかけるまでもなく、すでにいつもの待ち合わせ場所で待ってくれていた。
そして、図書館に向かった。
到着したときには、すでに読みきかせの会が終了していた。
本日のスイーツタイムは、図書館の前のちょっとしたスペースに敷物を敷いて行われていた。




