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親不孝者!

「この親不孝者っ!」


 しゃがみこんで頭を押さえているアマートを見下ろし、そう断言したのは彼の母親であるプレスティ侯爵夫人である。


「この際だから、男の子のお母さんたちに忠告しておくわ。子どもが可愛いのは、手がはなれるまでのことよ。大きくなったら、まるで自分一人で育ったみたいになってしまう。これが、その証拠」


 侯爵夫人は、人差し指でアマートを指し示した。


「それから男の子たち、よくききなさい。お母さんは、自分を犠牲にしていっぱいいっぱいの愛を注いであなたたちを育てているの。そのことをぜったいに忘れないで。大きくなったら、お母さんにいっぱいいっぱい愛を注いでやさしくするの。ぜったいにこんなのになってはダメ」


 彼女は、もう一度人差し指でアマートを指し示した。


「ひ、ひどい。母上、ひどすぎます」

「何がひどいの。母親を悪く言う方が、よほどひどいわ」


 彼女を見上げて訴えるアマート。だけど、だれも彼に賛同しない。


 彼の負けよね。


「まったくもう」


 プレスティ侯爵夫人はプリプリ怒っている。


「まぁまぁ、サラ。アマートにはわたしから注意をしておくよ」

「殿下、お久しぶりですね」


 プレスティ侯爵夫人は、王太子殿下の乳母である。


 会うのは久しぶりらしく、王太子殿下も侯爵夫人もうれしそう。


 侯爵夫人は、今日が読みきかせの会であることを思い出し、図書館に本を返却しに来てくれたらしい。


 図書館の常連である侯爵夫人が、じつはプレスティ侯爵家の夫人で、しかも王太子殿下の乳母であると知った母親たちは一様に驚いた。


 どうやら侯爵夫人は、子どもたちともその母親たちとも図書館で会ったら雑談をしたりしているらしい。


 そして、あとで知ったことだけど、侯爵夫人はこうして知り合った母親や子どもたちの中で生活が困窮していたりすると、自分の実家の食堂に招いてごちそうしているとか。



 プレスティ侯爵夫人に、図書館でのちょっとした結婚式のことを話してみた。すると、彼女も大賛成してくれた。


 こうして、にぎやかすぎる読みきかせの会は終了し、子どもたちと母親たちは帰って行った。


 帰り際、子どもたちは結婚式を楽しみにしている、と何度も言ってくれた。



 みんなを見送ってから、場所を貴賓室に移してお茶会の続きをすることになった。


 王太子殿下がプレスティ侯爵夫人と久しぶりに会い、あらためてわたしたちの報告をしたいということになったからである。


 当然、侯爵夫人はすでに知っている。プレスティ侯爵や双子の息子たちからきいているから。


「殿下、アリサ、ほんとうにおめでとうございます。これほどうれしいことはありませんわ。お二人なら、ぜったいにしあわせになれます。うふふっ、お二人のお子様たちの誕生がいまから待ち遠しいですわ」


 なんてことかしら。


 はやくもプレッシャーをかけられてしまった。


 というよりか、王太子殿下との子ども?


 なぜか顔が上気してしまった。


 侯爵夫人の言う「お子様たち」というのは、具体的に浮かんで来ない。だけど、「お子様たち」にいたるまでのことが浮かんで来た。


 どうしましょう……。


 急に意識してしまう。


 そのタイミングで、隣に座っている王太子殿下がこちらを見ていることに気がついた。


 当然、視線が合ってしまった。


 彼の顔も真っ赤になっている。思わず、視線をそらしてしまった。


 これまでも、彼から散々視線をそらしてしまっていた。それは、火傷の跡を見せたくなかったというのが主な理由だった。


 だけど、いまは違う。


 気恥ずかしすぎて、彼の瞳を見ていられなかったからである。


 彼も視線を伏せた。


 たぶん、わたしと同じ理由からだと思う。




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