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クースコスキ伯爵夫妻は事故死ではない

「なるほど。その貴族夫妻というのが、クースコスキ伯爵夫妻ということだな」


 ユベールがまた代弁してくれた。


 パトリスは、一つうなずいて続ける。


 伯爵夫妻が不慮の事故で亡くなってすぐ、クースコスキ伯爵を名乗る男性とその妻らしき女性が金を用立てて欲しいと訪ねてきた。どうやら、知人か一族かの保証人になっていて、その借金の立て替えをすることになった。期限が迫っており、どうしても金を用立て出来ない為貸してほしいという。


 手下に調べさせると、その男女はクースコスキ伯爵家に出入りしているという。しかし、クースコスキ伯爵ではなく、後見人だということがわかった。


 伯爵を名乗っているということは別にしても、恩人の一族には違いない。


 パトリスは、後見人夫妻に金を融通してやった。すると、後見人たちはしょっちゅう借りに来るようになった。しかもその金は、知人や一族の借金返済の為ではなく賭け事や酒代に使っているらしい。


 さらに調べさせると、クースコスキ伯爵家の財産を食いつぶしていて、正当な後継者である娘のアリサが困窮しているということがわかった。


 その報告を受けたパトリスは、クースコスキ伯爵家にたいして自分に何が出来るかをかんがえた。


 まず、恩人である夫妻の忘れ形見である娘のアリサを守る必要がある。だから、伯爵家が頼んでいるパン屋や酒屋や雑貨屋など、あらゆる商店に金を定期的に渡した。出来うるかぎり、伯爵家に品物を届けるよう頼んだのである。

 生活面だけでも、どうにかなればというわけだ。


 もちろん、彼自身の存在は伏せてである。


 自分は、しょせん金貸しである。金貸しと関係があるとほかに知られれば、それこそ伯爵家の家名に泥を塗ることになる。そう判断してのことだ。


 後見人たちには金を貸し続けた。本来なら、貸すはずのない大金を貸しているらしい。それもひとえに、クースコスキ伯爵家とアリサを守る為のことであることはいうまでもない。


 だが、後見人たちの浪費はとどまることを知らない。金を借りるのもますます増えていく。しかも、彼らは他の金貸しや貴族たちからも借りている。


 彼は、手下に命じてクースコスキ伯爵家に様子を見に行かせているらしい。

 他の金貸しや貴族が雇った荒っぽい連中が伯爵家に近づけば、追い払うよう命じたのである。


 後見人たちを守るわけではなく、アリサを守る為に。


「あの日、伯爵家を訪れたのは、取り立てを装い後見人たちに警告をしに行ったのです」


 パトリスは、アマートとディーノを見た。


 アリサとカーラが暴力を振るわれそうになった日のことである。


「伯爵夫妻が恩人であることは、手下にも秘密にしています。だから、手下が失礼なことを……」


 彼は、すまなさそうな表情でつぶやいた。


 その彼の手下が暴力をふるいかけたきっかけをつくったバラについては、後見人たちがバラの価値に気がついて売ってしまわない内に、差し押さえておこうと思いついたらしい。


 そうだったのか……。


 クースコスキ伯爵夫妻のお蔭で、アリサは思いもかけぬところから見守ってもらっていた。


 パトリスのことを思い違いしていた自分が恥ずかしい。


「バラのことは心配ない。ユベールを代理人にし、わたしが買い取った。もちろん、管理はアリサに任せるということでね」


 そう告げると、パトリスは一つうなずいた。


 いまので、彼も気がついたかもしれない。


 わたしがアリサに肩入れしているということを。というよりかは、わたしがアリサのことを好きだということを。


「プレスティ侯爵もいらっしゃることですし、一応このことも伝えておきます」


 パトリスは、さらに声を潜めた。


「クースコスキ伯爵夫妻の死は、事故死ではありません。何者かがそう見せかけたのです。わたしの上の息子がなんでも屋のようなことをやっていましてね。いま、実行犯を調べさせています。実行犯さえ見つかれば、黒幕をひきずりだせます」


 驚きの連続である。


 ユベール親子とまた顔を見合わせてしまった。


 どうやら、この一連の流れは小説よりもよほどドラマチックでスリリングでバイオレンスなようだ。


 パトリスに別れを告げ、急ぎ王宮へと戻ることにした。



「殿下、どうか落ち着いてください」


 プレスティ侯爵家の馬車内である。二頭立ての馬車の車内は、対面の席にはなっているが男性四人ではちょっと狭い。


 ユベールが真向かいの席から注意をしてきた。そのときになってはじめて、窓の外をすぎさってゆく夜の街の灯りを目で追いつつ、爪をかんでいることに気がついた。


 爪をかむなど、子どもの頃以来である。


 その癖は、乳母のサラがけっして強制ではなく、急ぐわけでもなく、自然となおしてくれたのである。


「す、すまない」


 恥ずかしくなった。


 ユベールにたいしてではない。アマートとディーノという、幼馴染たちにたいしてである。





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