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ガマンの舞踏会

 王宮付きの楽団が奏でる調べに合わせ、多くの人々が優雅に踊っている。


 そのきらびやかな様子を、ついつい羨望の眼差しで見てしまう。だけど、やはり気おくれしてしまう。


 ガブリエルは、どこかのご令嬢と踊っている。まだわたしとの婚約破棄を公にしていないし、ソフィアとの婚約を発表していないとはいえ、ソフィアではないご令嬢と踊るのはどうかと思うのだけど。


 でも、ソフィアもソフィアで、どこかのご子息と楽しそうに踊っている。


 ソフィアは、ほんとうにガブリエルと婚約したのかしら?


 なぜかわからないけれど、アマートのことが頭に浮かんだ。


 顔さえ見合わせればケンカばかりしているソフィアとアマートだけど、わたし的には二人はけっこういい雰囲気だと思う。


 彼女には、ガブリエルなどよりアマートの方がよほどお似合いじゃないかしら。


 二人とも素直じゃないところがあるから、じつは惹かれ合っているのにそれを認めたくないとか意地をはっているとか、そんな関係の思えるのだけど。


 ダメダメ。わたしったら、つい小説のストーリーにありそうなことをかんがえてしまう。


 結局、あの二人はただの犬猿の仲ってこともあるのに。


 同じ侯爵家だけど、アマートは六男だからティーカネン侯爵家のご令嬢と結婚してもまったく問題はないわよね。


 ダメダメ。わたしってば、しつこいわ。


 妄想を振り払ってから、本格的に身を隠そうとテラス席へと続くガラス扉へ向かった。そして、ビロードのカーテンに隠れるようにして立った。


 ここなら目立たない。


 すこしだけホッとした。


 あらためて大広間内を観察してみた。


 社交の場で決まった相手のいない若い貴族子女たちは、相手を探したり求めたりする。中にははっきりそうとわかるほど積極的に動いている人もいる。


 カップルで来ている人たちは、自分の顔や名を知ってもらおうとより上位の貴族たちと交流を求めたり、爵位が上の人たちは周囲の場をまとめたり紹介の労を担ったりしている。


 叔母様と叔父様の姿はまだ見えない。先日言っていたように、どこかで大きな賭け事をしているのね。


 わたし一人、こんなところで何をしているんだろう。


 ずいぶんと時間が経った気がする。

 じっと大広間内の様子を見ている内に、来たことを後悔しはじめた。


 そのとき、曲の調べがかわった。


 国王陛下がおみえになったのである。


 人々の称讃や感嘆のざわめきが曲の調べとまじりあう。


 国王陛下の偉大さを感じずにはいられない。


 国王陛下が着席されたタイミングでまた曲の調べがかわり、踊りが再開された。


 王太子殿下はどうされているだろう。たしか、ソフィアに出席するよう言われて困っていた。


 どこかにいるのだろうか。


 人々が優雅に踊るのを見ていると、王太子殿下が躍っている光景が急に頭に浮かんできた。


 顔が火照っている。それがはっきりと自覚できる。


 その相手が、なぜか自分だった。その妄想に、恥ずかしくなってしまったのである。


 失礼なんてものじゃないわ。


 王太子殿下には、意中の方がいるのに……。


 そんな妄想をしてしまったこともあり、ここに立っていること、居ることじたいが耐えられなくなってしまった。


 いったい、いつまで居なければならないの?


 つらくなってきた。


 踊っている人の中には、疲れて来たのか壁際に退いて談笑している人もいる。


「おそれながら、この場をお借りして、めでたき発表をさせていただきたく」


 そのとき、国王陛下に直訴する叫びが上がった。


 そのねっとりしていて自信満々の声は、元婚約者ガブリエル・ラムサのものである。


 いよいよ、である。


 いよいよ公にされるのである。


 ハッとしてもう一度人々を見回すと、驚き顔で叫び声の主を探している人々の中に叔母様と叔父様の顔があることに気がついた。


 なんてこと……。


 間に合わないかと期待していたのに。


 これはもう仕方がないわ。諦めるしかない。


 それにしても、王族主催の舞踏会で、しかも国王陛下に申し出るなんて愚かすぎるわ。


 あらためてガブリエルの非常識さと愚かさを思い知らされてしまった。


 人々がざわめいているだけで、しばらくの間何も起こらない。


 国王陛下側で検討しているのかもしれない。


 そのとき、また直訴する声が上がった。


「陛下。わがティーカネン侯爵家にもかかわることでございます。どうかラムサ公爵家子息の願いをおきき届けください」


 ソフィアのお父様、つまりティーカネン侯爵の声である。


 ティーカネン侯爵家は名門中の名門である。そのティーカネン侯爵家当主の申し出なら、国王陛下もむげにはできないはず。


 案の定、すぐに許可が出てしまった。


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