王子様は弱くてつまんない
「お兄さんたちはだれ?もしかして、勇者?それとも、王子様を守る人?」
肩車をしてもらい、彼はご機嫌である。頭の上から、そう尋ねてきた。
『王子様を守る人?』
勇者については、男の子だったらなりたいもの「あるある」だから理解は出来る。だが、なぜ王子様じゃないんだ?王子様を守る人、になるんだ?
フツーは守る人ではなく、王子様に憧れるものじゃないのか?
「残念だけど、勇者じゃない。だけど、王子様関係、かな?」
嘘ではない。一応、王子様関係だから。
アマートがプッとふきだした。
「わあっ!いいなあ。すごいなあ」
頭の上で、彼のテンションが上がってゆく。
キャッキャッとはしゃいでいる。子どもって、こんなに元気なんだ。男の子だからなのか?女の子もこんなに元気なのかな?
ついつい将来と照らし合わせてしまう。
「きみは、大人になったら何になりたいんだい?」
「うーん……」
彼にそう尋ねた瞬間である。
「まあっ!」
きき慣れた声にハッとした。
わたしとしたことが、彼女の気配に気がつかなかった。
アリサが、すぐ目の前に立っていたのである。
「でん……」
「殿下」と言いかけた彼女に、口の前で指を一本立てて合図を送った。
こんな小さな子に知らせる必要はない。
彼が王子様を蔑ろにしているのでその王子様とバレたらバツが悪い、というわけではけっしてない。
それはともかく、彼女がやさしく話しかけたことでこの子がニコラスという名であることがわかった。
ニコラスにかわって手早く事情を説明したけど、ちょっと違っていたかもしれない。
まあ、大筋は違わないだろう。
「それはありがとうございます。この子の母親も、館内を捜しているんです」
やさしいアリサは、ニコラスにやさしく声をかけている。
彼女は、ぜったいに素晴らしい母親になる。そして、素敵な妻になる。
「殿下、鼻の下が伸びまくっていてみっともなさすぎます」
頭の中で、将来の絵図がなんとなく浮かび上がってきた瞬間、アマートが囁いてきた。
「うるさいっ」
ったく。アマートはうるさすぎる。
「それでニコラス。きみは、大人になったら何になりたいんだったかな?」
図書館に向かって歩きはじめると、アリサと出会う前に尋ねかけたことをニコラスにもう一度尋ねてみた。
「王子様を守る人っ!」
「えっ?王子様、じゃなくって?王子様を守る人?」
そうだった。なんて迂闊だったんだ。
ニコラスは、勇者や王子様を守る人に憧れているって言っていたじゃないか。それなのにそんな質問をすれば、当然いまのように答えるに決まっている。
わたしのバカ者っ!
「なぜ?なぜ王子様じゃダメなの?」
頭ではわかっているのに、感情面ではやはり理解しがたい。
思わず、口から出てしまっていた。しかも、大人げなくも声が裏返ってしまっていた。
こんなの、彼女からすれば子どもっぽく見えているに違いない。
「だってつまないんだもん。それに、強くないし」
ニコラスの非情なまでの答えが、頭のてっぺんにあたった。
アマートだけではない。うしろからついて来ている近衛隊のメンバーも笑っている。
わたしはバカだ。自分自身をさらに追いつめてしまった。
王子様は、強くない。それに、つまんない。
いや、違う。違うぞ、ニコラス。
王子様の中には、すっごく強い人はいる。それに、つまんなくない人もいる。
大いなる誤解だ。きみの偏見だ。
どれだけ力説したいか。
ダメだ。これ以上反応すれば、彼女に軽蔑されてしまうかもしれない。
っていうよりかは、彼女も王子様は強くなくってつまんないって思っているのだろうか。
「あの、申し訳ありません。前々回の読みきかせの会で、王子様をドラゴンから救う勇者の童話を読んだのです。勇者というのは、元勇者です。ドラゴンの脅威にさらされている国の王子様に乞われ、その勇者は王子様の護衛をし、襲ってきたドラゴンを見事討ち取るという王道のお話です。そういえば、ニコラスはほかの子どもたちより興奮していました。まさか、そんな人生設計を立てていたなんて」
わたしの絶望を和らげるかのように、彼女が言ってくれた。
やさしい彼女ならではの対応である。
「諸君、きいたか?王子様は弱くてつまらない存在だそうだ。そう心に留めておいてほしい。彼の名はニコラス。将来、彼がきみたちの後輩か部下になったら、ドラゴンを討ち取れるほど強い勇者に育てあげてくれ」
ひきつった笑みを浮かべつつ、かろうじてジョークを言うことが出来た。
わたしは懐がでかくてユーモアのセンスが抜群だと、彼女に伝わっただろうか。
「承知いたしました」
近衛隊のメンバーは、笑いをこらえつつ了承した。
覚えていろ。もっと残業してもらうからな。とくにアマートは、休日なしで働いてもらう。
懐がデカくて深いわたしは、そう決心をした。
そして、勇者であり未来の近衛隊のメンバーであるニコラスを母親に返した。
彼女は、ニコラスとその母親を慈愛に満ちた表情で見送っていた。




