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しあわせ

 カーラのことは、ソフィアからきいている。


 カーラはアリサのことを妹のように可愛がっているし、大切にしている。彼女は、相当な美人で器量良しらしい。その為、他家の貴族子息たちが密かに「うちで働かないか」と誘うことがあるらしい。が、彼女はそういう誘いをことごとく断っている。


 それは、ひとえにアリサのことをかんがえてのことに違いない。


 ということは、アリサがしあわせになるのを見届けないかぎり、カーラ自身が落ち着くことはない。


 ということは、わたしがアリサをしあわせにするところを見せなければならない。


 ということは、カーラとディーノの将来は、わたしにかかっているということになる。


 彼らを祝福している場合じゃない。


「殿下」


 その事実を認識したとき、眼前にユベールの渋い美形が迫っていた。


「アリサと一日でもはやく結婚なさってください」

「えええっ!そ、それは性急な」

「性急ではございません。国王陛下もそれを望まれておいでです。殿下。アリサには、一刻もはやく寄り添ってくれるだれかが必要です。彼女はたった一人で重責を担い、ガマンし、がんばりすぎています。それを妻が、『がんばらなくてもいい。もっと周りの人に頼り、甘えなさい』と諭したのです。その際、彼女は疲れきって眠ってしまうほど泣いたのです。彼女は、周囲に心配をかけるからと泣くことすらガマンしているのです」


 ユベールの言葉は衝撃的すぎる。言葉も出ない。


 わたしは、自分のことしかかんがえていない。恥ずかしいからとか、アリサにフラれるのが怖いからとか、自分の都合ばかりである。


 ほんとうに彼女のことを愛し、想っているのなら、フラれようが嫌われようが告白して側についているべきなのだ。


「殿下……」


「ユベール、わかった。わたしが臆病すぎた。自分自身が情けないよ」


 彼としっかりと視線を合わせ、うなずいた。


「それでございましたら、殿下が心おきなく彼女に告白して結婚生活を送れるよう、わたしもいろいろ調べてみましょう」


 ユベールの言葉にハッとした。


「もっとも、愚息のしあわせ云々以前に、調査はしようとかんがえていましたがね。アリサの後見人のことです。彼らは、ずいぶんとオイタがすぎます。クースコスキ伯爵家の資産の使い込みはもちろんのこと、アリサを虐待しているという事実もあります。これらは、カーラから証言を得ています。そして、妻もアリサの体に殴打の痕が残っているのを確認しています。それとは別に、クースコスキ伯爵夫妻の事故も気にかかります。じつは、すでに調査を開始しております」

「まさか、夫妻の馬車の事故は事故ではなかったというのか?」

「殿下、それはまだわかりません。ですが、事故ではなかった可能性はかぎりなく高いです。というよりかは、事故を装ってという可能性があります」


 執務机をまわり、とりあえず椅子に座り直した。


 とんだ展開は、ここにもあった。


 アリサの両親が、殺されたかもしれない。


 その事実は、わたしをしばし呆然とさせた。


「アマート、ディーノ。悪いが、もうしばらく彼女を見守ってもらえないか?」

「殿下、よろこんで。ディーノの思わぬ告白で、カーラといっしょにいたいという名目ではりついていられますし」

「アマート、申しておくが……」

「父上。いくら王都一のプレイボーイのおれといえど、他人ひとの彼女に手をだすほど愚かではありません。アリサにしろカーラにしろ、可愛いですし美しいですけどね」

「アマート」

「兄上」


 アマートの冗談とも言えぬ言葉に、ディーノと二人でムキになってしまった。


「冗談です。殿下、そんな顔をなさらないでください。ほら、この通り。手を出さないと誓います」


 彼は、片手を上げて宣言をした。


「わかったわかった。おまえのその宣言を信じよう」

「うーん……」


 一応、そう言っておいた。

 ディーノにいたっては、アマートの宣言は半信半疑のようである。


「それで、万が一にも彼女が危害を加えられるような場面になりましたら、いかがいたしますか?昨夜は、おれもかろうじて堪えて弟を制止出来ました。しかし、それがいつでも出来るとはかぎりません」

「金貸しにしろ後見人にしろ、きみらが手を出せばケガ程度ではすまなくなる。そうなれば、アリサは自分のせいだと気に病む」

「なるほど。アリサは、やさしいですものね。わかりました。彼女にケガをさせることなく、相手にもケガをさせることなく、うまくやりすごしてみます」

「頼む。ユベール、あなたには、引き続き調査のことを頼みたい。それと、クースコスキ伯爵家のことだが……」

「殿下、ご心配なく。伯爵家がどうにかなるよう、そちらもあたってみましょう」


 いろいろと問題は山積みだ。しかし、ありがたいことにわたしには味方がたくさんいる。しかも、だれもが彼女とわたしにたいして好意的である。なにより、信頼出来る。


 彼女をしあわせにする。


 王太子としては、失格だ。


 しかし、たった一度、たった一度だけ過ちを許してほしい。


 一人の女性の為に、地位を利用するという過ちを犯すことを……。


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