うれしい報告
「とりあえず、アリサはわが屋敷ですごしてもらっています。ですが、それでは彼女も気を遣いすぎて落ち着かないでしょう。叔母のところですごしてもらうのが一番いいかと判断し、すでに叔母にはお願いしております」
ユベールは、すでに叔母であるコレット・ロートレックに話をつけてくれているらしい。
コレットは、王立図書館の館長である。
アリサが一時すごす場所として、これほど最適なところはないだろう。
「それがいい。わたしも賛成だ」
ユベールにうなずいてみせると、彼はちょっとだけ困った表情になった。
「妻は、残念がっています。せっかく可愛い女性が二人も訪れてくれたのに、もう叔母のところへやるのか、と」
わたしにとって乳母にあたるサラは、男ばかり七人を育てた。わたしも含めれば、八人になる。しかも、まだ一人も結婚をしていない。
娘の年齢くらいの女性が訪れれば、彼女もうれしいに違いない。
「面倒ばかりかかる可愛げのない男子はごめんです。可愛らしい女の子の面倒をみたいですわ。殿下のお子様は、王女様を期待しております」
彼女は、以前から何度も言っていた。
そんな彼女である。事情があって突然転がり込んできたアリサを可愛がってもおかしくはない。
サラは、街の食堂の一人娘である。それをユベールが惚れこんで妻にした。その惚れこみようは、相当なものだったらしい。
それは、現在も継続中である。
サラにゾッコンのユベールには、一度たりとも浮いた話はない。
わたしも、そうありたいとつねづね思っている。
それはともかく、サラなら任せても問題ないし、アリサもサラのよさにすぐに気がつき、心やすくなるだろう。
それでもやはり、子どもの頃から親交があって事情をよく知っている図書館長の方が、アリサも気が休まるはず。
「妻はともかく、彼女には心やすいメイドもついています。ですので、いっしょに叔母のところへ行ってもらうつもりです」
「たしか、カーラという名の……。ディーノの想い人の、だったな」
アリサの様子を見守ってもらうことを二人に依頼してから、彼らはカーラと接触した。アリサを見守る為、カーラに協力を取り付ける為である。
どうやら、一目惚れだったらしい。それをアマートからきいて、心底驚いた。
女好きでつねにだれかと付き合っているアマートとは違い、ディーノは剣一筋で堅物である。その彼が顔を真っ赤にして打ち明けてきたのである。
驚くに決まっている。
とはいえ、うまくいってほしいとも思った。
ディーノは、剣や体術以外のことは不器用である。だが、父親同様一途で真面目である。カーラを大切にすることはわかりきっている。
「殿下。おれたちは、金貸しの手下が彼女たちに暴力を振るおうとしたときに止めに入ったのです。その際、カーラには初めて会ったように装いました。こいつ、どさくさに紛れて彼女に告白したんです」
「なんだって?」
「なんだと?」
アリサとカーラが、金貸しに暴力をふるわれそうになったということはきいていた。が、その話はきいていなかった。
それは、彼らの父親であるユベールも同様である。ユベールも初耳だったらしい。
思わず、ユベールと顔を見合わせてしまった。
「そ、それで?告白してどうなったのだ?」
ユベールがこれほど動揺するところを見るのは、初めてかもしれない。
が、ディーノ本人は真っ赤な顔を伏せているだけでだまっている。
「ディーノ、どうなったのだ?」
ユベールがこれほど焦っているのも初めて見るかもしれない。
「父上、どうか落ち着いてください。アリサのことが優先でしたので、報告が遅れました」
ディーノにかわり、アマートがのんびりした口調で口をはさんだ。
いや、アマート。言い訳はいいから、どうなったか早く教えてくれないか?
「アマート、御託はいいから……」
「いい返事をもらいました」
そのとき、ディーノがかぎりなく小さな声で言った。あまりにも小さな声だったので、もう少しできき逃すところだった。
「ほんとうか?よかったな、ディーノ」
そうと認識したときには、席を立って彼に近づいていた。そして、彼の筋肉質の肩をつかんで揺さぶっていた。
「あ、ありがとうございます」
ディーノは、ますます真っ赤になっている。
これがこの国一番の剣士である。
そのギャップがすごすぎて、思わず可愛いと思ってしまった。
「ディーノ、ディーノ。そんな大切なこと、報告もしないでどうしたというのだ。母さん、いや、母上が知ったら、大目玉だぞ」
「ユベール、いいではないか」
父子の間に割って入った。
いずれにしてもうれしい話である。
「ならば、カーラを迎える日もそう遠くはないな。それであれば、もっとちゃんとしておけばよかった」
「いえ、父上。それは、気が早すぎます」
つい先程、息子たちに落ち着けと注意をしていたはずのユベールは、いまは自分が執務室内を落ち着かなげに行ったり来たりしている。
「父上、一刻も早くカーラを迎えたかったら、まずは殿下に落ち着いてもらうべきかと思いますがね」
「アマート、何を言っているんだ」
とんだとばっちりである。思わず、文句を言ってしまった。
だが、アマートの言う通りかもしれない。
わたしがアリサとどうにかならなければ、アリサのメイドであるカーラも気を遣ってディーノとどうにかなりにくいはずだから。




