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王太子とプレスティ侯爵家の双子

 プレスティ侯爵家のアマートとディーノの双子の兄弟は、同年齢の乳母子である。


 彼らの母親であるサラ・プレスティは、街の食堂の一人娘だった。それをプレスティ侯爵がまだ侯爵家を継ぐ前の若かりし日に見染め、結婚をしたのである。ずいぶんと器量良しの少女だったらしい。


 いまでは、太っ腹母さんという感じだけど。


 プレスティ家には、双子以外に男ばかり五人いる。男系家族なのである。しかも、息子たちはすべて軍の要職についている。双子も、軍の幼年学校から軍に入るつもりだった。しかし、わたしが近衛隊に入って欲しいとわがままを言ったのである。


 彼らは、幼いころからともに育ち何をするにもいっしょだったのである。気心が知れている。だからこそ、わたしの片腕として側にいてもらいたかった。


 頭脳明晰で要領のいい兄のアマート。そして、剣や体術など武に関してはこの国一番の弟のディーノ。

 

 二人が側にいてくれれば、怖いものなしである。


 現在、二人は近衛隊に属してはいる。が、実質は側近の中でももっとも近しい存在である。


 その二人に頼んだことがある。


 出来うるかぎり、アリサを見守って欲しい。


 ソフィア同様、二人もアリサのことを知っている。とくに兄のアマートは、控えめに言っても女たらしである。彼に泣かされた、あるいは喜ばされた貴族令嬢はほんとうに多い。何かの行事に王宮の大広間に集まった貴族令嬢の八割は、アマートに関りがある。もしくは、関りがあったといってもけっして過言ではない。


 それがいいか悪いかはわからない。アマートからアドバイスをされることも多い。が、彼のアドバイスはわたしにはかなりハードルが高い。


 彼のアドバイスのほとんどが、実践出来ないでいるのが実情だ。


 その日、執務室に双子と双子の父親であるユベール・プレスティに来てもらった。ユベールは、プレスティ侯爵家の現当主だ。


 プレスティ侯爵もまた、軍に所属していた。彼は、軍専属の調査官であり検察官だった。そしていまは、軍を退き検察庁を束ねている。


 正義感が強く、熱い男である。


 ユベールは、シャープな顔立ちで口髭がよく似合っている。パリッとしたスーツの色は紺で、ネクタイも同色で揃えている。


「殿下、彼女の事情は愚息どもからきいております」


 テノールの声が耳に心地いい。


 息子たち同様信頼のおける彼の声をきくと、いつでもホッとしてしまう。


 これまで、どれだけの秘密を分かち合い、助けてもらったか。


「アマート、座らぬか。檻の中の獣ではあるまいに、うろうろするのではない。ディーノ、おまえもだ。突っ立っていては、かさ高すぎる」


 ユベール・プレスティは、息子たちに注意をした。


「しかし、父上。どうにも怒りがおさまりません」

「兄さんの言う通りです。あのくそったれの……」

「ディーノ、言葉をつつしめ」

「も、申し訳ありません」


 破天荒な双子も、父親のことを尊敬し、慕っている。ユベールの前では、小さな子どものように従順なのである。


「クースコスキ伯爵には、わたしも助けてもらったことがあります。彼も奥方も人徳者です」


 ユベールは、長椅子から微笑みかけてきた。


「クースコスキ伯爵が慈善活動を普及させたようなものです。上流階級にあたえたその影響は大きい。その人徳者の実の妹夫婦があれでは、彼も奥方も浮かばれますまい」


 たしかにそうである。


 アマートとディーノから、クースコスキ家で起こったことをすべてきいた。


 アリサは、あのくそったれ・・・・・どもに虐げられ疎んじられ、財産を食いつぶされている。それだけではなく、彼女の稼ぎも食いつぶしている。


 しかも、心身ともに虐待までしている。


 アマートからアリサが殴られそうになったことをきいた瞬間、くそったれどもを殴りたくなった。いや、正直な気持ちは、殺したくなった。くそったれどもは、それだけのことをしでかしている。


 わたしは、王太子として失格である。好きな女性の為に、これほど感情的になってしまうのだから。彼女の為なら、王太子の地位など捨ててもいい。そんな身勝手なことを平気で思ってしまうのだから。


「愚息どもは、カッときたそうです。ディーノは、実際に殴ってしまうところだった。それを、アマートがかろうじて止めることが出来たらしいですが」


 わたしの心を見透かしたように、ユベールが続ける。


「殴るという行為そのものはいただけません。ですが、他人ひとの尊厳を踏みにじられる行為を見てカッとくる感情を持つことじたいは、褒めていいのでしょうな」


 アマートとディーノには、アリサへの想いを伝えている。だからこそ、彼らはアリサに感情移入してしまっている。しかし、この二人ならたとえアリサ以外の人でも、同様のシーンが眼前で展開されればカッときたに違いない。


 わたしの幼馴染である二人は、そういう男たちなのである。


 ユベール同様、わたしも彼らを褒め称えたい。


 それと同時に、心から感謝したい。



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