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ソフィアと双子

「いいのよ、マリエル。わたしをバカにするからよ。いいからみんな、放っておきなさい」


 メイドたちがアマートに駆け寄って大丈夫かと心配している中、ソフィアはきれいな手をひらひらさせながら命じた。


「兄さん、自業自得だね。そもそもレディを侮辱するなんてこと、ジェントルマンの中のジェントルマンはぜったいにしないだろう?」


 ディーノは、アマートを非難してから両肩をすくめた。


「アリサ。あなたは、やはりわたしみたいに華やかな顔じゃないから、いまどきの流行のドレスを着用してもパッとしないわね。垢抜けしないっていうのかしら?」

「ソフィアお嬢様、そんなことありませんよ。アリサお嬢様は、いまはお化粧をされていないからです」


 マリエルは否定してくれたけど、ソフィアの言う通りだわ。


 彼女の美しさだと、こういうドレスは彼女自身の美しさをひきたたせてくれる。そして、ドレスそのものも、彼女の美しさによってひきたって見える。


 だけど、わたしにはまったく似合わない。


 お昼以降、何十着と着させてもらった。だけど、そのどれもがそんな調子で似合わなかった。


 自分自身が一番よくわかっている。


 マリエルは、そんなわたしにやさしい言葉をかけ続けてくれた。


「アリサ、これにしなさい。こういうことになるんじゃないかって予想していたから、わたしには地味すぎて一度も着用していないドレスを、あなた用にお直しに出していたの。それが、今日出来たのよ。地味すぎる色に控えめすぎるデザインだから、いくら地味な顔のあなたでもマシに見えるはずよ」

「ソフィアお嬢様っ!」

「わかっているわよ、マリエル。だけど、ほんとうのことだから」

「おいおい、ソフィア。きみは、あいかわらずきついことばかり言うんだな。貴族子息を口説くみたいに、やさしく言えないものかね」

「うるさいわよ、プレイボーイ。あんたがプレスティ侯爵家子息じゃなかったら、二、三発殴り飛ばしているところよ」

「おお、怖い」


 アマートは、大げさに身震いしてみせた。


 ソフィアなら、言葉どおり彼を二、三発殴り飛ばすかもしれない。


 彼女は、非礼なことや理不尽なことをけっして許さないのである。相手が男性であろうと爵位が上であろうと容赦はしない。


 元婚約者のガブリエルも、彼女には気を遣っていた。しかも、相当気遣っていた。


 だからこそ、彼が彼女と婚約するときいて、少なからず驚いてしまった。


 あんなに気を遣い、怖れている彼女をあたらしい婚約者にするなんて。


「まったくもうっ!とにかくアリサ、こっちを着てごらんなさい」

「ソフィア、ごめんなさい。もう暗くなってしまっているから、そろそろ戻らなきゃ」


 叔母様と叔父様が賭け事に行く前に夕食を召し上がるでしょう。夕食がなければ、嫌味を言われるどころか暴力を振るわれるかもしれない。


「わかったわ。じゃあ、つぎの機会にしましょう。出来れば、お父様とお母様が戻って来るまでいてほしかったんだけど。二人とも、今夜はあなたと夕食をいっしょに出来るかもしれないってよろこんでいたのよ」

「おば様とおじ様によろしく伝えてね、ソフィア。マリエルさん、クロードさん、みなさん、今日はありがとうございました。試着は大変でしたが楽しかったです」


 執事のクロードやメイド長のマリエル。メイドの人たちも、今日の午後は自分たちの仕事をそっちのけでわたしの試着にずっと付き合ってくれた。


 申し訳なさでいっぱいになっている。


 お礼を言うと、みなさん笑って「また次の機会に」と言ってくれた。


「カーラ、戻りましょう」


 カーラを促し、廊下を歩きはじめた。


「プレイボーイ、二人を送りなさい」


 ソフィアがアマートの肩を叩きながら命じた。


「大丈夫よ、ソフィア。すぐそこですもの」

「いや、アリサ。送って行くよ。昼間の連中がまたやってこないともかぎらないし」

「昼間の連中?」


 アマートの言葉に、ソフィアは眉をひそめた。


 わが家の恥である。ティーカネン家の使用人の人たちもいる前で、恥を語るのもどうかと思う。


 だけど、借金取りが来るのは今日にかぎったことではない。カーラが言うには、接触するしないは別にして、借金取りたちはしょっちゅう来ているらしい。


 しかも、昼間のパトリスだけではない。別の金貸しや、叔母様と叔父様にお金を貸した貴族たちもやって来るという。


 二人は、いろいろな人からお金を借りているのである。


 総額にするとどの位になるのか、怖すぎて想像したくないし考えたくもない。


 だからティーカネン家だけではなく、周囲の屋敷にも見られていてもおかしくない。


 ということは、どの家の使用人たちもうちの惨状は知っていることになる。






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