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怒涛の試着会

「アリサ、なにを言っているの。これは、わたしたち年寄りの道楽よ、道楽。若いあなたは、まずは自分のことをかんがえればいいの」

「そうだよ、アリサ。妻は、自分のことをかんがえなくってもいい年齢だからね。任せておきたまえ」

「ちょっと、あなた。それはどういう意味なの?あなたも、でしょう?あなた、ずいぶんと老け込んでしまったわよ。それにくらべて、わたしはまだまだよ。どこかのご子息が見染めてくれるかもしれないじゃない」

「はあ?孫くらいの年齢の子息がきみを見染めるというのなら、それはきみ自身ではなくティーカネン侯爵家にだろう?」

「失礼ね、まったくもう。アリサ、気をつけなさい。殿方は、年をとるとこんなにひがみっぽくなるのよ」


 お二人の言い合いは、わたしの気分を明るくしてくれる。


 いつだってそう。


 お二人のお気遣いに感謝してしまう。


「アリサ、ゆっくりしていってちょうだいね」

「アリサ、またゆっくり話をしよう。クロード、彼女を頼むよ」

「承知いたしました」


 侯爵夫妻は、もう一度わたしを抱きしめてから馬車に乗り込んだ。


 馬車が門の向こうに消えるまで見送った。



「アリサお嬢様、お待ちしておりました。ソフィアお嬢様からドレスの試着をと承っています。その前に、テラスにお茶の準備をしています。どうぞこちらへ」


 執事のクロードの案内で屋敷内に入ると、ティーカネン家のメイドの人たちが総出で出迎えてくれたので驚いてしまった。


 メイド長のマリエルに会うのもひさしぶりである。


 彼女には、子どもの頃からずいぶんとお世話になっている。それから、いっぱい叱られたり褒められたりした。


 いつも親身になってくれた。


 彼女にも不義理をしているので、歓待してくれて心苦しくなってしまった。


 彼女は、わたしの謝罪の言葉をただやわらかい笑みで受け流してしまった。それから、カーラとわたしをテラスへと連れて行ってくれた。


 子どもの頃、いつもこの気持ちのいいテラスでお茶をよばれた。


 あのときは、三人だった。


 ソフィアと元婚約者のガブリエルとわたし……。


 サンドイッチやクッキーやケーキを、お腹がいっぱいになるまで食べた。ソフィアとガブリエルは、どちらがどれだけたくさん食べるか、競争をしていた。


 そして、ガブリエルがきまって負けるのである。


 彼は食べすぎて動けなくなり、泣いてしまうのだ。


 そのことを思い出し、思わず笑ってしまった。


 お茶とともに出て来たのは、読みきかせの会のときのスイーツのお店の木苺のタルトだった。


 心の中で快哉を叫びつつ、一応は冷静を保った。


 そして、はやる気持ちをおさえつつ上品にいただいた。


 美味しすぎて、何度も溜息がでてしまった。


 カーラも満足そうに食べていた。


 それからが、苦行であった。


 地獄の試着会だったのである。


 最後のドレスを着用したときには、夕方になっていた。


 それはちょうど、ソフィアが帰宅したタイミングだった。



「まあっ、アマートさん、ディーノさん」


 試着をしていたソフィアの部屋の前の廊下に、ソフィアといっしょに立っている双子の兄弟を見て驚いてしまった。


「やあ、アリサ」

「やあ、カーラ」


 兄のアマートはわたしに、弟のディーノはカーラに、それぞれ手を上げて挨拶をしてくれた。


「さきほどはありがとうございました」


 二人は、こんなところで何をしているのかしら?という疑問は飲みこんだ。とりあえずは、金貸しのパトリスさんとその執事か従者かに助けてもらったお礼を言った。


「いやいや、いいんだ。へー、すごくイケているじゃないか」


 アマートがからかってきた。


 やっと最後のドレスを着ている。それを見てからかいかお世辞か、とにかくそんなふうに言われてしまった。


「ちょっと、アマート。いつもの調子でヘラヘラ言わないでちょうだい。まったくもう、これだから女好きのプレイボーイは嫌なのよ。ガラが悪すぎるわ」

「おいおい、ソフィア。おれは、いたって真面目だぞ。女好きのプレイボーイだって?このおれが?女性にたいしてつねに真摯に向き合うこのおれが?おれこそが、ジェントルマンの中のジェントルマンだ。そういうきみこそ、いつだって貴族子息たちを周囲に侍らせて逆ハーレムを楽しんでいるだろう?イタッ!何をするんだ?」


 アマートは、頬に思いっきり平手打ちされた。


 驚くべきことに、ソフィアが手をひらめかせたのである。


「だれか、このバカを屋敷から放り出してちょうだい」

「お嬢様っ、いけませんよ」


 マナーに厳しいメイド長のマリエルは、仰天している。


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