まさかの告白
「カーラ、お二人は王太子殿下付きの近衛兵なの」
「まぁっ、そうでしたか。それで腕っぷしが強いのですね。プレスティ侯爵家のメイド友達から、お二方の噂はきいております」
「いい噂だといいけど。どうせやんちゃばかりしてって、陰口叩かれているに違いない。なあ、ディーノ?おい、ディーノ」
兄のアマートが弟のディーノの脇腹を肘で突っついたが、ディーノはカーラのことをぼーっとした表情で見つめている。
「ディーノ、ディーノ。きいているのか?」
「えっ?あ、ああ。もちろん。でっ、なんだって?」
「きいていないじゃないか」
二人のやり取りを見て、思わず笑ってしまった。
彼らは王太子殿下を警護して図書館にやって来るときも、いつも面白いやり取りをして笑わせてくれる。
侯爵家子息なのに、ざっくばらんでとても親しみやすい人たちである。
「おいおい、ディーノ。わが弟よ。三度の飯より剣が大好きなおまえがか?まさか、一目惚れってやつ?」
「ええっ?」
アマートの言葉に驚いてしまい、思わず叫んでしまった。
カーラを見てしまった。驚くべきことに、彼女も真っ赤になって俯いている。
「なんてこった。アリサ。わが弟ディーノ・プレスティは、どうやらこの年になってはじめて恋をしてしまったみたいだ。これは、すごい。ほんとうにすごいことだ。こいつは、どんなレディがアタックしてきても、見向きどころか存在すら感じないほど女性に興味がなかったのに。兄として、それはもう心の底から心配してしまうほどだった。まぁ七男だから、結婚して後継者を残すなんて義理も義務もないけれど。それでも、人間のしあわせって愛する異性と添いとげることじゃないかと思うんだよな。それを、こいつは剣を伴侶にするだけで、生涯独り身のまま終わるとばかり思っていたのに。いやはや、神に感謝しなければ」
「兄さん、何を言っているんだ。彼女に失礼だろう」
ニヤニヤ笑いながら語るアマートの横で、ディーノは真っ赤になって怒っている。
「カーラ、こいつは剣以外は無頓着で不器用だが、他人にたいして思いやりがある。どうかな?嫌でなければチャンスをあたえてやってくれないか?」
「素敵な思いつきだわ。カーラ、わたしは自分のことはある程度出来るし、叔母様と叔父様は屋敷にほとんどいらっしゃらないから、時間をつくってデートしてみてはどう?これまで、さんざんわたしや屋敷のことに時間を使ってくれたんですもの。これからは自分の為に時間を使って」
借金取りに迫られた後は、しあわせの押し売りをしている。
今朝は、なんてめまぐるしいのかしら。
ソフィアの屋敷に行くはずなのに、まだわたしの屋敷の前にいて盛り上がっている。
「お嬢様……」
カーラは、わたしに気を遣ってくれている。だから、一歩を踏み出せないでいる。
そういえば、わたしって婚約を破棄されたんだった。
いまさらながら、それを思いだした。
やはり、それが悲しいとか口惜しいという気持ちにはまったくなれない。
彼もわたしも、おたがいを好きじゃなかった。関心すらなかった。
「カーラ。わたしに気を遣ってくれているのなら、そんなもの必要ないわ。あなたなら、素敵な奥様になれる。あなたこそ、しあわせにならなくっちゃ」
それでもまだ、彼女はわたしに気を遣っている。
モジモジとするばかりで、ディーノの顔を見ようともしない。
「ディーノさん。カーラのこと、よろしくお願いします」
こうなったら行動あるのみ。
彼女の腕をつかむと、思いっきり引っ張って彼女を強引にディーノに押し付けた。
すると、ディーノは意を決したように顔を上げた。
やんちゃな美形は、トマト系の果実よりも真っ赤になっていて、それがとても可愛らしい。
先程助けてくれたときの頼もしい彼とは、まったく違う。
こういうギャップがいいのかもしれないわね。
「カ、カーラさん。初対面でなんですが、その、おれでよければ付き合っていただけませんか?」
思い切ったように告白をしたその大声は、静かなこの界隈に響き渡ったことでしょう。
素敵だわ。初対面でってところは、まるで小説に出てくる純情系の恋愛物みたい。
「は、はい。身分がまったく違うわたしでよろしければ」
そして、カーラの返事。
そうだった。ディーノは侯爵家子息なんだったわね。
だけど、七男だからたいした問題じゃないかしら。かりに彼の身内でそのことをとやかく言う人がいても、ディーノなら彼女を守ってくれるに違いない。
っていうか、プレスティ侯爵夫妻は七人も息子がいらっしゃるってすごいわよね。
王太子殿下の乳母を任されるはずよね。




