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決意

「あの、お嬢様……」


 食堂に行こうと扉のノブに手をかけたとき、カーラが呼びかけてきた。


「執事のラファエロが辞めるそうです」

「なんですって?」


 彼女の方に向き直り、思わず声を大きくしてしまった。


 だけど、じつはそんな気がしていた。


「その、いまの旦那様と奥様には仕えたくない、と。あっでも、お嬢様。わたしは辞めません。お嬢様に『カーラ、あなたにはうんざりよ。顔も見たくないわ。出て行ってちょうだい』と言われないかぎり、ずっとお嬢様のお側にいます」

「カーラ……」


 泣いてはダメ。涙を見せれば、周囲の人に心配をかけてしまう。


 わたしは、そのことを子どものときのある出来事で学んだ。


 だから、いまも必死に我慢した。


「でも、このままではお給金を払えないかもしれないわよ」


 それから、自分自身の気をそらすために現実的な話題を持ち出した。


「大丈夫ですよ。どうせ、わたしはこの屋敷で暮らしているのですから。ですが、ラファエロは家族がいますので、そうはいきませんよね」


 後見人である叔母様と叔父様は、クースコスキ家の財産を確実になくしていっている。


 彼女たちがこの屋敷に来ると、まず会計士と管理人をクビにした。そして、財産を食いつぶしはじめた。


 クースコスキ家は領地を有していない宮廷貴族の家系である。それでも、クースコスキ家所有の土地があり、その領地内にある山で鉱物が採取出来た。もうずいぶんと前のことだけど。

 

 そのお蔭で、クースコスキ家はそこそこ裕福になった。


 だけど、鉱物は無限に採取できるわけではない。いつか尽きてしまう。


 お父様のお父様、つまりお祖父様がクースコスキ家を継ぐころには、尽きてしまったらしい。


 その頃までの財産と、お祖父様やお父様が投資などで増やしてくれた財産が残っていたはずなのである。


 その財産を、後見人であるはずの叔母と叔父が食いつぶしている。


 使用人たちは、お給金をもらえないからと次々に辞めてしまった。


 みんな、それぞれの家庭がある。それは、当然のことである。


 それに、叔母様と叔父様の態度にも問題がある。


 気に入らないことがあれば、すぐに暴力を振るう。わたしも、ときおり叩かれたりする。


 お酒が入るとさらにひどくなる。


 そんな最悪な環境の中で働いてくれているのは、カーラと執事のラファエロだけである。


 そのラファエロも辞めてしまう。


 先日、彼に気づかれてしまった。


 彼のお給金の出所を。


 わたしは、王宮内の図書館で司書をやらせてもらっている。そこで得たお給金をずっと貯めていた。


 ラファエロとカーラに、その貯金をお給金として渡していた。


 ラファエロは、そうと気がついた。


 だから、辞めてしまうのである。


 彼だけでなく、カーラやこれまで辞めていった使用人たちに申し訳が立たない。


 わたしがもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに。


 こうなったら、せめてカーラだけでも不自由なく働いてもらえるようにしなくては。


 部屋を出て廊下をあるきながら、あらためて決意した。


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