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アリサがしあわせになれるのなら

「殿下、ソフィアお嬢様。街のお店のベリータルトですが、いかがでしょうか?」


 ソフィアと一緒に図書館を訪れている。


 現在の図書館の館長とは、彼女が司書時代から世話になっている。


 子どものころは、ついついうるさくしてしまたりして、よく彼女に叱られたものだ。


 おたがい、あのころからはすっかりかわってしまっている。


 かわらないのは、わたしのアリサにたいする気持ちだけだろう。


「そうか。今日は読みきかせの会の日だったね。もちろん、いただくよ」

「もちろん、わたしもいただきます。このお店のスイーツは、ご令嬢たちの間でも噂になっているんですよ」

「その噂は、ソフィアお嬢様が流していらっしゃるんでしょう?」


 館長はクスリと笑いながら、ローテブル上にベリータルトとベリーのジュースを置いてくれた。


 ジュースは、館長のお手製である。


 このベリージュースだけではない。彼女の柑橘類やリンゴやモモといった果実のジュースは、最高に美味しいのである。だから、子どものころは楽しみにしていたものだ。


「だって、美味しいものはみんなで分かち合わないと」


 ソフィアもまた、クスクス笑っている。


 女性ってほんとうにスイーツが好きなんだ。


 もっとも、わたし自身も酒よりスイーツの方が好きだけど。


「殿下、いつも援助いただきありがとうございます。こちらの店主夫妻も、恐縮しております」


 館長は、姿勢を正してから頭を下げた。


 館長に座ってもらうよう頼んだ。すると、彼女はローテーブルをはさんだ向こう側の長椅子に腰をかけた。


「美味しい。甘さ控えめで上品な味ですよね。ねぇ、殿下?」

「ほんとうだ。この前のロールケーキも絶品だったけど、このタルトも最高だね」

「子どもたちも保護者もうれしそうに食べていました。もちろん、アリサもです」

「それはそうだろうね」


 皿を手に取ってフォークで切り分けながら食べているが、手づかみで豪快に食べたいくらいである。


 アリサのしあわせそうな顔が目に浮かぶ。


 以前、たまたま読みきかせのときに図書館を訪れたことがあった。そのとき、スイーツを頬張っている彼女のしあわせそうな顔を見てしまった。


 子どもたちもしあわせそうだった。だけど、彼女のその表情は素晴らしすぎて脳裏に焼き付いてしまった。


 彼女のしあわせそうな顔は、生涯ぜったいに忘れられない。


 以降、読みきかせの会で提供されるスイーツの代金の援助をさせてもらっている。もちろん、このことは館長とそのお店の店主夫妻しか知らない。


 ほんの一瞬でも、彼女や子どもたちがしあわせな気持ちになってくれればいい。


「これだけ美味しいんですもの。だれだってしあわせになれますよね。殿下、いっそそのお店を王室御用達にされてはいかがですか?」

「ソフィア。それもいいかもしれないけれど、店は店主夫妻二人で切り盛りしているんだろう?王室御用達なんて肩書があったら、客は物珍しさも手伝って殺到するかもしれない。そうなると、てんてこまいになるだろう」

「ご夫妻は、お客様が甘いものを食べてしあわせな気持ちになってくれればいい、と願っております。ですので、利益は二の次のようです。名声は、かえって邪魔になるだけだと思います」


 館長の言う通りだろう。わたしがこっそり援助するまでは、毎月無料で提供していた。そんな善良で謙虚な店主夫妻である。王室御用達などという御大層な肩書は、彼らにとってはかえって迷惑になるだけだ。


「そうかもしれませんね。それに、これ以上あまり広く知られたくないかも。自分たちだけが知る穴場のお店、みたいな感じが一番いいのかもしれません」


 ソフィアは最後の一口を口に放り込んでから、わたしの皿上のタルトに視線を向けた。


「ダメだ。いくらきみでも、王太子の名において分け与えることは出来ない。それに、食べすぎると太って……、がはっ!」


 ソフィアは、思いっきり肘鉄を食らわしてきた。


「失礼な。殿下、アリサにでしたら、太ってもいいから食べなさいって分け与えるでしょう?」

「当然だ。彼女がひとときでもしあわせになるのなら、わたしはいらない」

「それはそれはごちそうさまでした・・・・・・・・・


 ソフィアは館長と顔を見合わせ、二人で同時に笑いだした。


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