表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/133

叔母様と叔父様

 裏口は厨房に通じている。


 灯りがついている。裏口の扉の窓から、そっとのぞきこんでみた。


 カーラが何かを切っている。


 帰宅した叔母様と叔父様が、お酒を飲むのに何か作るよう命じたのね。


 扉をすばやく二度ノックした。


 それは、彼女とわたしで取り決めている合図なのである。


 カーラは、すぐに裏口の扉を開けてくれた。


「カーラ、遅くなってごめんなさい。図書館で雨宿りをしていたの」

「すごく降りましたね。お嬢様、お腹がペコペコですよね。これを居間に運んだら、すぐに準備いたします」


 彼女は、カッティングボードの上にのっているチーズを指さした。


 先日、司書の一人にお裾分けしてもらったものである。


 司書だけでなく、図書館のスタッフの中には遠く故郷を離れて王都に出て来ている人も少なくない。そのほとんどが、図書館で働いて得た給金を故郷の家族に送っている。だけど、中にはただ地方から出て王都で働きたいと出て来ている人もいる。そういう人の実家は、裕福みたい。だから、郷里から送って来た物だとお裾分けしてくれるのである。


 正直なところ、すごく助かっている。


 このチーズも、そんなお裾分けというわけ。でも、結局わたしの口には入りそうにない。


 お裾分けしてくれた人には、とっても美味しいとしか伝えようがない。


 下手に感想を述べれば、わたしが食べたわけではないということがバレてしまうかもしれないからである。


 

 カーラは、サンドイッチを準備してくれていた。これもまた、頂き物のコケモモのジャムをぬったサンドイッチである。

 

 パンは、昔から懇意にしているパン屋が焼き立てのパンを届けてくれる。


 じつは、お父様が生前にパン屋のご主人に開業資金を援助したらしい。そのご恩返しということで、パンを無料で届けてくれるのである。


 どれほど助かっているか。


 お父様のやさしさに感謝しているのはもちろんのこと、義理堅いパン屋のご主人にも感謝している。


 カーラが戻って来るまでに、すでに沸いているお湯で紅茶を淹れ、カーラと二人で厨房でサンドイッチを食べた。


 その際、彼女に今日あったことを、具体的にはガブリエルに婚約を破棄されたことを伝えた。そして、彼は婚約破棄のことを、来週の舞踏会で公にするみたいだ、と付け加えた。


「お嬢様、それはようございました」


 カーラはナプキンで口許を拭いつつ、にっこり笑った。


 彼女は、カウンター越しに両手を伸ばすとわたしの肩をやさしく抱いてくれた。


「ラムサ公爵子息には、お嬢様はもったいなさすぎます」


 彼女の落ち着いた声に、少し元気づけられた。


「あんな女好きのくそったれ、失礼いたしました。ああいう勘違い野郎は、いつか痛い目をみます。正直なところ、お嬢様がはやく婚約を破棄されないだろうかと祈っておりました」

「ええ。わたしも望んでいたわ。だって、彼に悪いでしょう?こんなわたしが婚約者だなんて……」

「お嬢様、それは違います。お嬢様が気を遣ったり、うしろめたい思いをされる必要はまーったくございません。堂々とされてください。お嬢様をご存知の方は、だれだってわたしと同じようにおっしゃるはずです」


 カーラは、「フンッ」と鼻を鳴らした。


「それで、問題は叔母様と叔父様なのよね。二人とも、ラムサ公爵家からの援助を期待されているようだから。婚約を破棄されたことを告げなくてはならないと思うと、気が滅入ってしまうわ。それこそ、婚約を破棄されたことより憂鬱よ」


 たとえガブリエルとうまくいって結婚したとしても、ラムサ侯爵家から援助があるかどうかはわからない。だけど叔母様と叔父様なら、平気で金貨を無心に行くはず。


 それが、わたしのせいで出来なくなってしまったのである。


 ただではすまないに決まっている。


「援助だなんて、そもそもあの二人がのりこんでこなければ、クースコスキ家は安泰だったのです。お嬢様、放っておきなさい。わざわざ告げる必要なんてありません。二人も王宮主催の舞踏会に行くようですから、その場で知ることが出来ます」

「え?叔母様と叔父様も出席なさるの?」

「もちろんですとも。立食形式でお料理が出ますし、もちろんお酒は出るに決まっています。タダで飲んだり食べたり出来るとあったら、二人とも行きますよ。それに、貴族に取り入ったり無心したり、なんてことも出来るでしょうし」


 ああ、なるほど。


 そういえば、二人は以前の舞踏会でもお料理やお酒をみっともないほど飲んだり食べたりしていたらしい。

 参加している貴族たちから顰蹙をかっていたと、ソフィアが言っていたっけ。


 舞踏会だけではなく、貴族の集まりにはかならず出席し、あの手この手でお金を巻き上げようとしているらしい。


 そんな不作法極まりないことを繰り返している為、サロンへの出入りを禁止されてしまった。それから、お茶会にはいっさいお誘いがなくなってしまった。


 それはともかく、二人が婚約破棄のことを当日知るのだとすれば、恥をかかされたと余計に怒りをかってしまうわよね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ