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驚くべき成長

 女の子たちは身分など関係なく、図書館以外でもいろいろ遊んだり学んだりしているらしい。子どもたちが仲がいいものだから、親たちも当然のごとく交流しているとか。


 たしかに、どうしても越えられないものはある。それでも、招きあったりどこかに出かけたりしているということをきいて、うれしくなった。


「やあ、みんな。しばらく会わないうちにすっかりきれいになって」


 まぁ……。


 あいかわらずだわ。国王陛下は王太子であったときと同様、国王になっても女の子たちを見て鼻の下を伸ばしている。


「国王陛下、鼻の下を伸ばしていたら王妃殿下にデコピンをされますよ」


 わたしの心の中を見透かしたように忠告したのは、ソフィアとアマートの長女のアンナである。


 授かり婚の二人が最初に授かったのが彼女である。


 外見はアマートにそっくりだけど性格はソフィアそのもので、アマートは気の毒なほど二人の尻に敷かれている。


 それでもアマートは、二年後に生まれた双子の男の子トーニオと女の子フローラともども溺愛している。


 もちろん、ソフィアのことも。二人がいつも言い合いをしているのは、あいかわらずだけど。


「陛下、可愛らしい娘が申し訳ありません」


 アマートが謝罪したけど、「可愛らしい娘」というところが彼らしいと思った。


 これには、ソフィアも苦笑している。


 彼女は、すっかりお母さんになっている。子育ては一年先輩である。だから、いつもずいぶん励ましてもらったり元気づけられている。


 彼女との付き合いは、これからもずっとかわらないでしょう。


「ほらほら、王子殿下と王女殿下。口のまわりにクリームがついていますよ」


 見ると、カーラとディーノの双子の男の子ヴィーとヴィットリオ、それから双子の女の子クレオとクラリッサが、わたしたちの子どもたちをかいがいしくお世話してくれている。


 昔、「読みきかせの会」終了後に図書館の前に敷物を敷いてスイーツを楽しんでいたけど、それはいまでも同様である。


 カーラとディーノの子どもたちは、四人ともやさしくおっとりしていて世話好きである。結婚した翌年に男の子の双子が産まれ、その翌年に女の子の双子が産まれた。合計四人。わたしたちと同じである。


 アマートにしろディーノにしろ、父親が双子だからかしら。三組も双子だなんて確率が高いわよね。


 カーラとディーノにいたっては、二組だし。


 カーラの子育てっぷりは、それはもうすごすぎる。


 わたしなんて、プレスティ侯爵夫人に任せてやっとだから、その優秀さがよくわかるわ。


 わたしたち三組で合計十名の子どもたちを交え、「読みきかせの会」は大盛況である。


「国王陛下、アリサ先生」


 そのとき、十名の軍服姿の青年や少年たちがやってきた。


「おいおい、冗談だろう?」


 国王陛下がつぶやいた。


 わたしも同感である。


 どの顔も面影が残っているのですぐにわかった。


「まさか、『王子様を守る人』がこんなに立派な少年に?」


 十人がいっせいに敬礼をした。


 答礼する国王陛下の衰えを知らぬ美貌には、苦笑が浮かんでいる。


 近衛隊長になっているプレスティ侯爵家の五番目のお兄様のジャンルカから、「読みきかせの会」の男の子たちが軍の幼年学校に入学をした、ときいていた。


 結婚式のイベントの閲兵式、それからその後の戦争ごっこで軍に興味を持った男の子たちがいた。プレスティ侯爵や五人のお兄様たちやソフィアのお父様のティーカネン侯爵が、その子たちが軍の幼年学校に入学するチャンスを作ってくれたのである。

 ティーカネン侯爵は、元将軍という経緯がある。


「はい、陛下。ニコラスです」

「まさか、あのニコラス?おしっこに行って図書館の裏でウロウロしていた?わたしを蔑ろにしまくっていたあのニコラス?」


 いやだわ。国王陛下は、十年以上前に小さなニコラスが「王子様より王子様を守る人の方がずっとカッコいい」発言をしたことを、いまだに恨みに思っているのね。


 国王陛下ったら、あいかわらず子どもっぽくって可愛いわ。


「陛下。あのときは失礼いたしました。いまは軍の学校で鍛えてもらっていますが、軍でがんばってからあなたを守る近衛隊に志願するつもりです」


 立派な少年に成長しているニコラスを見て、涙が出そうになった。


 他の男の子たちも、立派になりすぎていて驚きよりも感動で体も心も震えている。


「待っているぞ、ニコラス」

「はい、隊長」


 ニコラスは、ジャンルカにも敬礼した。


「やはり、国王より国王を守る人がカッコいいですから」


 それから、彼はにっこり笑った。


 笑うと、幼い頃の彼のままである。


「きみは、あいかわらず頑固だな。だが、楽しみだよ。どちらがカッコいいか勝負しよう。なあ、アリサ?」

「ええ、陛下。ニコラス、みんな、大変だろうしつらいこともあると思うけど、がんばってね」

「はい」


 みんなに声をかけると、また敬礼をしてくれた。


 感無量、とはこのことである。


 子どもたちが頼もしく成長していることが、こんなにうれしいなんて。


 わたしも年を取ったに違いないわね。


「今日のスイーツは何かな?おや、お祖父様には残してくれていないのかい?」


 お義父とう様が子どもたちに近づきつつ問うと、子どもたちがワッと叫んでお義父とう様に群がり抱きついた。


 わたしたちの子どもたちだけではなく、ソフィアとカーラの子どもたちもである。彼らは、ある意味では乳母子みたいなものである。お義父とう様は、分け隔てなく溺愛されている。


 それは国王陛下も同様である。だから、いつもプレスティ侯爵夫人に叱られてしまう。


「可愛がるのと甘やかすのとは違います。褒めるべきところは力いっぱい褒め、叱るべきところは力いっぱい叱って下さい。いいですね?」


 そんなふうに。


 だから、わたしも肝に銘じている。


 一方、祖父と父親はそうはいかないみたい。


 甘やかしっぷりは、アマートもディーノも同様である。彼らもまた、こちらがひくほど子どもたちを溺愛している。


 ソフィアとカーラと三人で、いつもそんな彼らの文句を言ったりやっかんでいる。


 孫たちや「読みきかせの会」の他の子どもたちに囲まれ、お義父とう様はしあわせそうである。


 国王陛下にもだけれども、お義父とう様にもいっぱいしあわせをもらっている。だから、そのお返しをいっぱいいっぱいしたい。


 そんなほっこりな様子を見ながら、つくづく思ってしまう。





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