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初夜、なのに雷……

 焦るあまり、なぜかわからないが上掛けを頭からすっぽりかぶってしまっていた。


 乳母のサラが乳母としての役目を終えたばかりの頃、夜中に雷鳴が鳴り響いたことがあった。しかも、そうと認識したと思ったら、王宮の練兵場のフラッグポールにそれが落ちたのである。


 こんなに怖いのは、あのとき以来である。


 あのときは、上掛けと枕とクッションを頭からかぶって何時間もブルブル震えていた。


 そのときのトラウマなのだろうか。いまだに雷は好きではない。


 ああ、なぜいまこのタイミングでそんな関係のないことを思い出すんだ?


 上掛けの下で、舌打ちしたくなった。


 そういえば、アマートとディーノと子どものときの癖のことを話したっけ。アマートの鼻クソをほじるのは別にして、ディーノはぬいぐるみを抱きしめなければ眠れないという癖がいまだに続いているらしい。わたしも、人のことは言えないというわけだ。


 すると、また水の流れる音がしはじめた。


 アリサ、きみはどれだけ身を清めたら気がすむんだ?


 と苦笑しそうになったが、その音が浴室ではなくテラスへと続くガラス扉の方からしていることに気がついた。


 雨?


 どうやら雨らしい。


『ゴロゴロゴロ』


 嘘だろう?雷だって?


 あんなこと、思い出すのではなかった。


 遠雷のようだ。


 どうか遠くの方だけですんでくれ。


 心から祈らずにはいられない。


 が、その祈りが神に届くことはなかった。


 この日、アリサをしあわせにすると誓った神とはまた違う神のいたずらか何かだろうか。


 とにかく、雷鳴がどんどん近づいてくる。


 上掛けをめくり、おそるおそるガラス扉の方を見てみた。


 なんてことだ……。


 ついさっきまで灯っていた灯りが消えてしまっていて、室内は暗くなっている。


 それでも、大粒の雨がこれでもかというほどガラス扉にぶつかっているのがわかる。


 雷鳴は、ますます近くなっている。


 そうだ。このままだと、アリサが浴室から出てきたら怖がるかもしれない。


 いいや。もしかすると、わたしがわざと灯りを消して待ちかまえているみたいに誤解されるかもしれない。


 蝋燭だ。蝋燭を灯そう。


 雷鳴に怯えつつ、上掛けをどけると寝台から飛び降りた。それから、室内履きは履かずに素足で机へと向かった。


 って、待てよ。


 くそっ!蝋燭は洗面台だ。つい先日、浴室の室内灯の調子が悪く、蝋燭をそこで使って洗面台に置きっぱなしにしてしまっている。しかも、ご丁寧に侍女に片付けないでくれとお願いしてしまった。


 何もかもがタイミングが悪すぎるじゃないか。


 仕方なしに浴室へと続く扉の前へ行ってみた。


 そして、扉に耳をあててみた。


 扉の向こうは、雷鳴鳴り響くこちらとは違って不気味なほどシンと静まり返っている。


 どうしたんだろう。まさか、アリサは倒れているとか?


 さらに扉に耳を押し付けてみた。


 冷静にかんがえれば、これだけ耳を押し付けてしまえばきこえなくなるのに……。


 すっかり冷静でなくなっているわたしには、そんなことすらわからなくなっていた。


 それはともかく、扉の向こうが静まり返っているのとは裏腹に、雷鳴はますます近くなっている。


 ダメだ。これ以上、近くなったら冗談抜きでヤバい。


 アリサを連れ、とりあえず布団に潜り込みたい。


 焦るなと自分に言いきかせつつ、控えめにノックしてみた。が、「ゴロゴロゴロ」とことさら大きな音がし、ノックの音がかき消されてしまった。


 うわああああ。


 パニックに襲われそうになった瞬間、「ドカーン」と大爆発した。


 すくなくとも、わたしには大爆発したように感じられた。


 無我夢中だった。正直、このときのことは思い出せない。いいや。記憶にないというよりかは行動そのものがわからない。


 かろうじて、浴室へと続く扉を開け、驚き顔のアリサが立っていたのでその腕をつかんでひっぱり、寝台まで走って二人して上掛けに潜り込んだかもしれない。


 訂正。彼女を無理矢理布団に押し込んだのかも。


 その瞬間、さらなる大爆発。さらにさらに大爆発。


 記念すべき初夜、驚くべきことに雷が三度も落ちたのである。


 情けないことに、上掛けやらシーツやらにくるまり、彼女に抱きついてブルブル震えてしまった。


 アリサは、そんなダメダメなわたしを抱きしめ、ずっとやさしく声をかけ続けてくれた。


 わたしたちの初夜は、いろんな意味で思い出深いものになった。


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