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結婚式からの……

 アリサの叔母と叔父の件を片付けた後、婚儀と結婚式を行った。


 それだけではない。三カ国会談など、外交官としてフル活動した。


 これほど忙しかった時期はない。それでも、愛するアリサが側にいてくれている。いっしょに時間や感情を共有できる。


 忙しくとも充実した毎日をすごすことが出来た。


 そして婚儀を終え、結婚式を迎えた。


 いろいろ驚きや面白いことがあったが、なにより父上のサプライズプレゼントが強烈だった。


 なんと、隣国の大作家ラドルフ・カーンを招いてくれていたのである。


 ラドルフは、アリサの一番好きな作家である。そして、それはそのままわたしにもいえる。つまり、彼女の影響でいま現在は彼がわたしの一番好きな作家になっている。


 父上とラドルフが知己だったとは知らなかった。そのときにはじめて知った。


 父上がまだ王太子だった頃、ラドルフは一冊の本も出版出来ていない作家だったらしい。その彼が、隣国から流れてきて、たまたま父上と出会った。その出会いの詳細は教えてはもらえなかったが。


 父上も無類の読書好きである。話が盛り上がり、出来る範囲で援助するということになった。つまり、パトロンというわけである。


 そして、ラドルフはしばらくこの国に滞在し、隣国に戻って行った。隣国に戻ってからも、父上は何かしらの援助を続けたという。


 そして月日が流れ、ラドルフは大作家になった。父上は、自分がパトロンになっていたこともあり、あまり彼の本に興味を持ったり触れたりしなかったらしい。


 彼に引け目を負わせたくない。気を遣わせたくないという思いからである。


 しかし、今回は違った。


 アリサの大好きな作家だと知った父上は、即座に彼に連絡を取った。そして、結婚式に出席してもらうという約束を取り付けた。


 ラドルフは、よろこんで約束に応じてくれたらしい。


 結婚式以降、彼は新作が出るたびに出来うるかぎりの冊数を寄贈してくれるようになった。


 ありがたいことである。だから、三分の一は王宮内にある王立図書館に、残りは王都や地方の図書館に配布して、一人でも多くの人々が楽しめるようにしたようだ。


 図書館長コレット・ロートレックの代わりに図書館長に就任したアリサが、そう采配したのである。


 図書館長のコレットは、なんとラドルフと交際して結婚してしまった。そして、隣国へ行ってしまった。


 結婚式のパーティーで出会った瞬間、二人とも「ビビビッ」と来たらしい。


 パーティーでラドルフ自身が「われわれ作家が描く作り物の世界より、あなた方が日々紡ぐ物語の方がよほど素敵で価値のあるものです」と言葉を贈ってくれたが、彼自身も作品以上の物語りを紡いだわけである。


 父上が二人を結び付けたといってもいいかもしれない。


 いずれにせよ、おめでたいことにかわりはない。


 楽しみにしていた結婚式は、大成功だった。


 アリサもわたしもだが、ソフィアとアマート、それからカーラとディーノもおおいに楽しんでいた。なにより、しあわせそうだった。


 まぁたしかに、ソフィアとアマートはことあるごとに言い合いをしたりしていたが。


 だが、それが二人の愛情表現みたいだから、それはそれでいいのかもしれない。


 多くの参列者たちも、きっと楽しくすごしてくれただろう。おおいに満足してくれただろう。


 そう願わずにはいられない。


 そして、最大の難関に立ち向かわねばならなかった。


 それは初夜、である。


 パーティーの最後の方には、正直そのことで頭がいっぱいになりすぎていた。だから、だれかに何かを言われたり問われたとしても、心ここにあらずで頓珍漢な言動になっていたかもしれない。


 それは、アリサも同様である。


 大好きな作家のラドルフ・カーンに会った興奮が去った後、彼女もそれを意識しはじめたのを感じた。


 そんな彼女の落ち着かない態度を見ると、よりいっそう緊張と不安に襲われてしまった。


 情けない話だが、どうしていいのかわからなさすぎて泣きたくなった。


 ダメだダメだ。わたしはいったい、何をかんがえているんだ。わたしがしっかりしなければならないんじゃないか。


 アリサを不安にさせたり怖がらせてはならない。


 その為には、わたしが彼女をしっかりリードし、やさしく振る舞わねばならないのだ。


 それを、泣きたいなどと思ってはダメだ。悩んでもダメだ。

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