口づけの感想
とくに「口づけはどうだったの?」には、困ったというよりかは絶望的な気持ちになった。
どうだったか?って、いったいどう答えればいいの?
みんなはきっと「甘くてしあわせな味がした」、なんて小説によく出てくるような表現を期待しているわよね。
だけど実際はなんの味もしなかった、ような気がした。それこそ、甘いとかすっぱいとか、そんなものは感じられなかった。
婚儀のときがはじめてで、今回で二度目である。そういう味を感じることが出来るようになるには、さらに口づけをしないといけないのかしら?
期待に満ちた瞳で見上げる女の子たちを見回しながら、そんなはしたないことをかんがえている自分が恥ずかしくなった。
結局、「甘くてしあわせな味がした」とよくある小説の表現を借りてしまった。
彼女たちの夢を壊してしまってはかわいそうだから。
男の子たちは、軍の兵士や近衛隊の隊員に馬に乗せてもらったり、剣を持たせてもらったりしている。兵士や隊員たちも、機嫌よく子どもたちの相手をしてくれている。
「王太子殿下、あの、アリサ先生のように抱っこして馬に乗せて下さい」
「わたしも」
「わたしもお願いします」
一人が言いだすと、みんなが言いだした。
王太子殿下は、鼻の下を伸ばして上機嫌である。
そんな彼に、ちょっと腹が立ってしまった。
すると、彼がこちらを見た。
まさか、わたしの嫉妬の炎が見えたとか?
ヒヤリとしてしまった。
よかった。どうやら、女の子たちの要望に応えていいか、アイコンタクトで許可を求めてきただけみたい。
ここで拒否をすれば、子ども相手なのになんて嫉妬深く大人げない女なんだと思われてしまう。
心の広いふりをしなくっちゃ。
ニッコリ笑ってうなずいてみせた。
すると、王太子殿下は一瞬だけハッとなったみたいだけど、すぐに女の子たちに愛想をふりまきに戻った。
アマートとディーノも加わり、三人で女の子たちを順番にお姫様抱っこをしたり、馬に乗せたりしはじめた。
男の子たちは、プレスティ侯爵家の上のお兄様たちや兵士たちと戦争ごっこをはじめたみたい。
子どもの頃によくやるような陣地を守ったり攻めこんだり、という簡単な戦争ごっこである。
とはいえ、士官や兵士たちも参加するみたいで、作戦会議までやっている。
ずいぶんと本格的なのね。
ケガ人とかでないといいのだけれど。
男の子たちも敵味方に分かれて、ずいぶんと真剣に、それでいて楽しそうにしている。
そうなのよね。子どもの頃って、ああいうのが楽しいのよね。
わたしも火傷を負う前は、ガブリエルとソフィアにくっついて他の貴族子息やご令嬢たちと戦争ごっこをしたわ。とはいえ、二人にくっついてまわっているだけだったけど。
そういえば、ソフィアはたいてい参謀役で、男の子たちに命令をだしていたわ。たいてい勝っていたっけ。
懐かしいわ。
「懐かしいわね。覚えている?よくやったわよね」
ソフィアも思い出したのね。そう声をかけてきた。
「ええ。あなたは名参謀だったわ」
「当然よ。だって、軍の幼年学校に入っていたシルヴィオお兄様たちから教えてもらっていたんだから」
ソフィアは、そう答えて笑った。
濃いピンク色のウエディングドレスは、彼女にぴったり合っている。お腹はまだ目立ってはいないものの、ついついそちらに目がいってしまう。
「わたしも参加したくなったわ」
「ダメよ、ソフィア。ウエディングドレス姿だし、それに……」
お腹の赤ちゃんがと言いかけたところで、彼女は笑い声をあげた。
「ほんと不自由よね。子どもの頃のように何でも自由に出来ればいいんだけど。もうすこししたら、もっと不自由になるわ。だって、赤ん坊が二人よ、二人。忙しくって大変なことになるわ」
一瞬、お腹の赤ちゃんが双子なのかと思った。だけど、すぐに気がついた。
彼女は、お腹の赤ちゃんとアマートのことを言っているのだということに。
思わず苦笑してしまった。
結局、王太子殿下とアマートとディーノも戦争ごっこに参加し、女性陣は応援にまわった。
というよりかは、ソフィアや女の子たちは野次を飛ばした。
そして、戦争ごっこが終わったとき、大人も男の子たちもボロボロどろどろになっていた。
ほんっと男の人って子どもよね。
この理論は、不変みたい。




