近衛隊の現隊長と未来の隊長
「『王子様を守る人』、とはきみのことか?」
「う、うん」
隊長が彼を見下ろして低い声で尋ねると、ニコラスは小さくうなずいた。
恐怖で泣きださないのはえらいわ。
もしかすると、隊長が近衛隊の礼服を着用しているからかもしれない。憧れの「王子様を守る人」を目の前にしているからかも。
「名は?」
「ニ、ニコラス。ニコラス・ヴェルキ」
「よし、ニコラス。だったら、きみも今日は王子様を守るんだ」
隊長は、そう言うなりニコラスの小さな体をひょいと抱き上げた。それから、先頭を馬で進む部下に駆け寄った。
そのままその部下の前にニコラスを乗せてやる。
「未来の近衛隊隊長だ」
隊長が宣言すると、参列者たちからさらなる歓声が起こった。
「うわあああっ!高いな。カッコいいな」
ニコラスは落馬するんじゃないかというほど興奮して暴れている。
「いいなー」
「ぼくも乗りたい」
「ぼくも」
そして、男の子たちはうらやましがっている。
「なんてことだ。ダンテは、こんなところで復讐してきた。アマートとディーノを奪った腹いせに違いない」
王太子殿下は、主役の座を奪われてしまってすっかりいじけてしまっている。
「殿下、違いますよ。隊長の行動は、そのまま王太子殿下のそれに結び付くのです」
「そ、そうかな」
「そうですよ。でも、いまの隊長の対応は素晴らしかったですね。これも、王太子殿下が日頃から思いやりのある行動をされているからです」
おべんちゃらや元気付ける為の慰めなどではない。本心である。
言葉に笑みを添えると、彼は機嫌を直したみたい。
いつものようにやさしさあふれる笑みを見せてくれた。
そうね。すべての行事が終わって落ち着いたら、図書館の絵本と児童書のチェックをした方がいいかもしれない。
そして、王子様が最強最高全肯定されている作品を推薦図書にするのよ。
密かに決意してしまった。
急遽、図書館前に祭壇を造ってもらった。バラで飾られたそれは、王太子殿下たちがみずから大工仕事をして造ってくれたのである。
そして、いまは王太子殿下付きの執事をしているラファエロが、クースコスキ家から移植したバラで飾ってくれた。
王太子殿下が先にサンダーから降り、わたしが降りるのを手伝ってくれた。そして、さっとお姫様抱っこをしてくれた。
気恥ずかしい。子どもだったころの夢であるお姫様抱っこが、こんなに照れ臭いものだとは思いもしなかった。
参列者たちの歓声が、さらに恥ずかしさを増す。
重すぎないとは思うけど、けっして軽くもない。
そんなわたしを、王太子殿下は涼しい表情で抱っこしてくれている。
あらためて頼もしさを感じる。
視線を周囲に送ると、ディーノがカーラをお姫様抱っこしているのが見えた。
これも、付き合わせてしまっている。
そして、アマートもソフィアを……。
二人とも、お姫様抱っこを嫌がっていた。
ソフィアは、そんな乙女チックなことは絶対にイヤだと主張していた。そして、アマートはソフィアが重すぎて出来ないと断言した。
当然、彼はソフィアにデコピンの刑を受けたけど。
結局、王太子殿下とディーノがお姫様抱っこをおし通した。
女の子たちに見せたい。
二人は、そう言ってくれたのである。
ソフィアとアマートは、渋々了承してくれた。
そんな二人だったけど、アマートは軽々とソフィアを抱っこしている。すくなくとも、アマートは見た目には軽々抱っこしているように見える。
そして、抱っこされているソフィアの表情が「フフフン」って感じに見えるのは、きっと気のせいね。
アマートに抱っこをさせて、優越感に浸っている?
ダメダメ。それは邪推だわ。もしかしたら、ソフィアもほんとうは憧れていたのかもしれない。彼女はちょっとだけ意地っ張りだから、それを認めたくないだけだったのかも。
だから、うれしいのかもしれないわよね。
そんなわたしの推測をよそに、王太子殿下は祭壇前までお姫様抱っこで運んでくれた。
女の子たちだけではない。女性たちの黄色い声が飛び交っている。
祭壇で牧師が待ってくれている。
婚儀は、王族付きの司祭がとり行ってくれた。だけど、この結婚式では街の牧師にお願いをした。
彼も図書館の常連の一人で、ぜひともと申しでてくれたのである。
厚かましいけれど、即座にお願いをした。
そして、三組のカップルが神の祝福を受けることになった。




