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三人目の側近

 上の五人の息子たちは、幼い頃からそれを散々きかされ育った。だから女性に対して異常なほど敬意を払うし、大切にする。


 下の双子にも、それをどうしてきかせなかったのかはわからない。


 とくにアマートには必要だったのではないのだろうか?


 もっとも、女性に敬意を払うことに関しては、わたしもサラから叩き込まれている。 


 いずれにせよ、五人のことなら安心だ。いろんな意味で真面目すぎる彼らである。アリサがいくら美しすぎて魅力的すぎても、ちらりとでも魔がさすことはまずない。


 なぜなら、彼女はすでにわたしの婚約者だからである。しかも、すでに婚儀が決まっている。


 それは、たとえ相手が王太子わたしでなくっても同様である。


 この五人に関しては、ほかの男の婚約者に懸想するなどということはぜったいにかんがえられない。


 そう信じている。


 これがもしもアマートみたいなのが五人だったら、すぐにでも強制的にそれぞれの任地に戻らせなくてはならなかっただろう。


 そうだ。うっかりしていた。カーラもだ。彼女は、すでに五人に会っている。彼らは、彼女にも同様の挨拶をしたはずだ。


 気の毒に。カーラも戸惑いまくったことだろう。


 それはともかく、アリサにはまだ会ってもらいたい人物がいる。


 居間に移動し、その人物にも会ってもらった。


 金貸しのパトリスと、その息子のエンリコである。


 じつは、二人には先日会った。検察庁に呼びつけたような形にし、そこで会ったのである。


 そこで調査の結果をきいた。


 そのとき、エンリコが王都の大学を優秀な成績で卒業したことを知った。優秀な成績でというのは、ユベールが調べたことである。本人は、なんとか卒業出来たとしか言わなかった。


 厳密には、優秀も優秀、主席だった。入学も主席、在学中もトップの成績をおさめ続けての首席の卒業である。


 専攻は経営だが、経済論や内政論もかじっているという。


 完璧すぎる。まさしく、わたしの側近になるべくして現れてくれたかのようだ。


 アマートは、どちらかといえば軍事関係のやり取りに強い。政敵や外交となると、じゃっかん心もとない面がある。とはいえ、彼自身は頭脳明晰で臨機応変で柔軟である。近衛隊に在籍中から政敵や外交に関する知識や情報を得るなど準備している。そのアマートを補ってくれる人物がいれば心強い。


 エンリコと少し話をしただけで、彼とみょうに気が合うことがわかった。肌が合うというのだろうか。


 それは、彼も同様だったらしい。


 はじめて会ったその日に、何時間も話し込んでしまった。アマートとディーノを交え、この国の現状について意見を述べ合い、アドバイスをもらった。


 エンリコは、最初こそ遠慮していた。が、四人で熱く語り合う内に、彼はどんどん現体制の弱点を指摘し、それに対して改善策や回避方法を提案してきた。


 そのほとんどが、わたし自身頭を悩ましているものだった。そうでないものは、そうと気づかされた。


 アマートとディーノも驚いていた。


 こんな逸材が眠っている。そのことが不可思議すぎたほどだ。


 ふと、尋ねてみた。


「これだけ優秀にもかかわらず、どうして出仕しなかったのか。何でも屋に甘んじているのか?」


 そんなふうにである。


 各省に務める役人は、もちろん貴族もいるが一般の人たちも多い。まぁ、給金や出世は貴族の方が有利なことはたしかである。そういう悪しき習慣もどうにかしなければならないとはかんがえている。


 悪しき習慣はともかく、エンリコたちのような平民の人たちでも活躍はしている。けっして特権階級だけで国を動かしているわけではない。


 彼にそのことを尋ねた瞬間、自分の愚かさに気がついた。配慮のなさを恥じた。


 父親であるパトリスである。金貸しだけでなく、荒っぽいことやグレーゾーンの行為を生業にしている父親がいる以上、彼自身が出来ることはかぎられてくる。


 その配慮のない問いは、検察庁の貴賓室の控えの間で息子を待っているパトリスにきこえたはずだ。


 パトリスにも悪いことをしてしまった。


 が、エンリコはそんなわたしの失態に気を悪くしたふうもなく、ただ「この仕事が大好きなのです。だれかの役に立てるこの仕事が、自分には向いているのです」そう答えた。


 そのときの彼の笑みは心からのもので、それは彼の本心を表していた。


 父親のことがまったくない、と言えば嘘かもしれない。


 しかし、「何でも屋」という仕事がほんとうに好きで、多くの人の役に立っていることを楽しんでいるということも嘘ではない。


 その彼の回答で、わたしは決意したのである。


 エンリコを側近に迎えたい。いいや。かならずや彼を側近にする、と。



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