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アリサ、どうしたんだい?

 ティーカネン侯爵家とプレスティ侯爵家のパーティーの日がやって来た。


 両家の懇親会ではあるが、じつはアリサの後見人である叔母と叔父を弾劾するのが目的でもある。


 アリサの父親である故クースコスキ伯爵の実の妹のシンシア・ドゥメールとその夫マリユス・ドゥメールに、これまで犯してきた罪の数々を突き付けてやるのだ。


 やさしいアリサには、ガブリエルのときと同様つらい思いをさせることになる。だが、この問題を片付けないことには、彼女と二人で前進することが出来ない。


 彼女も気になり、堂々と前を見つめることが出来ないに違いない。


 ここは、腹をくくって対処しなければならない。


 彼女自身の為に。そして、わたしたちとまだ見ぬわたしたちの子どもたちの為に。


 アリサとカーラを迎えに行った。


 ディーノがプレスティ侯爵家の馬車で迎えに来てくれた。すぐに馬車に乗り込み、図書館長の屋敷へ向かった。


 近衛隊のいつものメンバーは、何の飾りもない馬車に乗り込み、ついてきた。


 カーラは、この日は王宮での研修が休みらしい。だから、彼女も館長の屋敷に戻っている。


 館長の屋敷に到着すると、アリサも館長もカーラもすでに準備を整え、待っていてくれた。


 アリサは、例の舞踏会でプレゼントした薄いピンク色のドレスを着用し、とろけるような笑顔で迎えてくれた。


 その彼女を見た瞬間、ギューッと抱きしめたい衝動に駆られてしまった。


 それを自制するのに、どれほどの努力を要したことか。


 彼女は、日に日に明るく、ますます美しく可愛らしくなってゆく。


 正直なところ、どこまで耐えられるかわからない。自分自身の想いや気持ちを、どこまで抑制出来るかわからない。


 日に日に自信がなくなってゆく。


 感情の爆発をおさえる自信が、どんどん揺らいでいく。


 とはいえ、自信をなくしているのは、もう一つ理由がある。


 彼女をうまくリードし、ちゃんとやり遂げられるかどうか、ということである。


 男心は複雑だ。つくづく実感する。


 それはともかく、アリサの美しさは当然のことであるが、カーラの美しさも際立っている。とはいえ、アリサの方が勝っているが。


 以前、ディーノとどちらが美しいかと言い合ったことがあった。たしかに、カーラも美しい。


 カーラは、ディーノが母親であるサラの実家の近くにある仕立て屋で仕立ててもらったという、菫色の控えめなドレスを着用している。


 それがまた、彼女によく合っている。


 ディーノは、そのあまりの美しさに感動しすぎて目尻に涙をためていた。


 ディーノ、その感動はよくわかるぞ。


 彼に共感しまくってしまった。


 そのディーノを横目に、アリサの肩を抱いて彼女に告げた。


 王子様わたしを永遠の敵とする小さな勇者に、はやくきみを見せびらかしたい、と。


 すると彼女が返して来た。小さなレディたちに、殿下を見せびらかしたい、と。


 先日図書館の読みきかせの会の際、小さなレディたちにチヤホヤされてつい鼻の下を伸ばしてしまった。


 彼女は、それを不愉快に思っているに違いない。わたしの失態だ。あんな機会はめったにない。だから、ついうれしくなってしまったのである。


 しかし、冷静にかんがえれば、小さなレディたちは「王子様」という存在に憧れているだけであって、わたし自身に憧れているわけではない。


 わたしは、とんだ勘違い野郎というわけだ。


 それを自分自身に思い知らせ、彼女には「子どもならともかく、大人の男性には見せびらかしたくない」、とつい本音を吐露してしまった。


 その瞬間、彼女の表情が曇ったような気がした。


 なぜ?何か気に障ったのか?デリカシーにかけることを言ってしまったのか?心ないことを伝えてしまったのか?


 頭も心も混乱してしまった。


「殿下……」


 その瞬間、彼女が何か言おうとした。


 そうだ、アリサ。何でも言ってほしい。


 が、彼女は口を閉じてしまった。


 表情は曇ったままである。


 混乱が不安にとってかわる。


 アリサ、どうしたんだい?言ってくれなければわからないじゃないか。


 だが、問い詰めることは出来ない。その勇気を持てないでいる。


 いまのこのしあわせを逃したくない。問い詰めることで、それが霧散してしまいそうな気がしてならないから。


「わたしもです。わたしも、殿下をレディたちに見せびらかしたくありません」


 不安でどうにかなりそうになっているわたしに、彼女は気弱な笑みとともに言った。


 どうしよう……。彼女を苦しめているのか?不安にさせているのか?


 勇気を持ち、彼女と話をする必要がある。



 わたしたちは、プレスティ侯爵家の馬車に乗り込みティーカネン侯爵家へと向かった。

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