スイーツスイーツスイーツ
ゲストはこれだけみたい。
ほんとうに内々だけなのね。
パトリスとその息子が招待されているということがちょっと気になっている。だけど、それはわたしのことをかんがえてくれたのかもしれない。
前々からお礼を言いたい、とソフィアに言っていたから。
食事がはじまった。
半立食形式である。
ダイニングの長テーブル上の大皿に盛られている何種類もの料理の中から、自分が好きな物を好きなだけとるのである。それを、テラスに設置されているテーブル席で食べたり、立ったまま食べる。
四人掛けのテーブル席が、幾つも準備されている。
ティーカネン侯爵家の使用人や料理人たちだけでは大変なので、プレスティ侯爵家の使用人たちも手伝ってくれている。
彼らはわたしたちだけの分だけでなく、自分たちの分も作って後でゆっくり食べるらしい。
もちろん、王太子殿下の護衛の近衛兵の人たちにも振る舞われた。当然だけど、お酒は抜きらしい。
和やかな雰囲気の中、緊張もとれてきたのもあってついつい食べてしまう。
ダメよ、わたし。いまはまだ、太っちゃダメなんだから。せめて一連の式が終わるまで、この体型を維持しなくっちゃ。
どれほど言いきかせなければいけないことか。
だけど、誘惑が多すぎる。
ティーカネン侯爵家の料理長は、料理が抜群においしいのはもちろんのこと、スイーツが最高においしいのである。
どれも絶品すぎる。
正直なところ、絶品すぎて困ってしまうくらい。
テーブルの上に置いている皿の上には、その料理長の十八番桃とカスタードクリームのタルトがこれでもかというほど存在をアピールしてきている。
なぜ?なぜとって来たのよ、わたし?
すでに切り分けられて皿の上に置かれたそれを、手に取ってしまった記憶がない……。
そんなこと、言い訳になるかしら?
せっかくとって来たんだし、食べなければ廃棄されるかもしれない。そんなのダメよ。もったいない。
だけどやっぱり、この絶品タルトで太ってしまうかも。でも、でもね、たった一つで太るかしら?ドレスが入らなくなるほど太ってしまう?
そんなわけないわ、よね?だけど、だけどやっぱり、そのかんがえの甘さや認識が積み重なって太ってしまうのよ。
だけど、だけどやっぱり、料理長が腕によりをかけて作ってくれたタルトを食べないというのは、料理長に対する侮辱かもしれない。
良いアリサと悪いアリサが、頭の中で舌戦を繰り広げている。
「アリサ、どうしたんだい?そんなに深刻な表情でタルトを睨みつけて。ははん、食いすぎて腹でも痛くなったんじゃないのか?」
頭の上から声が落ちてきた。ハッと見上げると、アマートがテーブルの向こう側に立ち、不思議そうな表情でわたしを見ている。
視線が合った瞬間、彼の視線がテーブル上のタルトへと落ちた。
「ああ、やっぱり。腹がいっぱいでそのタルトを食えないんだな。それ、うまいよな。おれも大好きなんだ。せっかく楽しみしていたのに、いま取りにいったら一つも残ってなくって。そうか。腹がいっぱいだったら食えないよな。せっかくだから、おれが食うよ」
「えっ?ちょっ、ア、アマート……?」
彼の言葉を認識するまでに、彼の手がテーブル上に伸びてきて絶品タルトののっている皿をさっとさらってしまった。
「うっまそう。いっただきまーす」
「ちょちょちょっ……」
慌てて立ち上がり、手を伸ばすも彼に届くわけがない。しかも、突然の彼の凶行が衝撃的すぎて言葉がうまく出てこない。
アマートは、焦り慌てるわたしの目の前で無情にもタルトを手づかみした。
そして、大口を開けてそれを放り込んだ。




