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事終事始―始まりは死から―

 無念としか言いようがない。


 子供の頃から必死に磨いた剣の腕。

大人に勝ち、兄弟子に勝ち、免許皆伝の達人に勝ち、そして京では苦戦するほどの敵はいなかった。

 しかしここぞという所でその剣を振るうことはできず、大事な人を守るどころか弾除けにも、そして意志を継ぐことも叶わなかった。


 労咳(ろうがい)。(肺結核)


 どれだけこの病気を、この体を憎んだ事か。

 自信に満ち溢れ、京に上ったあの頃の面影はすでに無く、苛立ち嘆き、自分の不甲斐なさから近藤さん(あの人)の前では子供のように泣いてしまった。


 その日からは涙も枯れ果て、心を覆っていたあらゆる感情は日を追うごとに遠いものとなっていく。


 小さな空を見上げては便りと死をただただ待つ身――。

 だがそれも終わりそうだ。

 もはや猫すら切れないこの身体。

 やり残したことは山程あるがしょうがない。


「さや……」


 ゆっくりと光が見えなくなっていく。

 腕も上がらない。

 息が止まる。

 抗えない。

 暗い。

 闇。


 死の闇――。





 いつの間にか息苦しさも体のだるさも、そして手足の感覚もない。


『死……そんなに悪いもんじゃないな』


 呟いたつもりだったが口の感覚もない。


「ほぉ。此度は伝説の人切りが転生するのか」


 女の声が聞こえてきた。


「しかし人を切るしか能の無い奴が果たしてどこまで出来るのかのう?」

『俺の事を言っているのか?』


 口に出そうとしたが声がでない。


「そうだ。お前の事を言ってるのだよ沖田総司」


 伝わっているようだ。

 姿は見えない。


『俺は人斬りではない。佐幕派の武士だ』

「んー? 武士? お前がか? ただの人切りの道具だろう?」

『……切るぞ』

「ははは! 剣どころか姿形何一つ持たぬ思念体のお前に何ができる」


 本当に殺意が込み上げてきた。


「ふん。流石は伝説の人斬り、プレッシャーはなかなかのものよ。まぁよい。そんな事よりも沖田、お前は転生する」

『……転生? 輪廻転生の事か?』

「違う。とある異世界に飛ばされるのだ。魂や記憶はそのまま、似て異なる身体を与えられてな。転移と呼ぶ者もおるが……まぁよい。お前はそこで戦う事となる」

『世迷い言を』

「信じぬのか?」

『当たり前だ。俺は労咳で死んだ。そして魂が滅ぶまで、こうして下らない夢を見ているだけだ』

「夢、だと?」

『それしかないだろう?』

「夢か。まぁどう思おうと勝手だがの。真実はすぐにわかる。ただ我の言葉を真実とするなら、お前は運がいいとは思わんか? もう一度人を切れる機会が出来たのだから」

『……』

「どうした? 少しは興味が湧いたか? 佐幕派のお侍様よ」

『お前を切れるのかと思うと疼くんだよ』

「あははは! よいよい! その無知で傲慢な所も若さゆえに輝いて見えるわ。それに此度お前が選ばれたのには何かしらの訳があるはず」


 この女の話ぶり、あながち嘘では無いような気もしてきた。

 それに嘘だとしても最後の夢だ。

 少しくらいは合わせてやってもいい。


『もう何でもいい。誰も知らない所で生き返って、剣の腕を自由に振るっていいのであれば望む所だ』

「切り替えの早さも若さゆえか……羨ましいな。よし! 手土産にお前に合ったバッドスキルをつけてやろう」

『何だそのバ……バど酢…キルとは?』

「バッドスキルだ。まぁ今はわからずとも良い。剣だけではなく色んなモノを学べ。そして短命により辿り着けなかった剣の頂きにたどりつけ」


 見透かされていた。

 俺は強かったが日本一、天下無双にはなれてない。

 あまりにも死ぬのが早すぎた。


「ひとつだけ助言しておく。お前がいく異世界はお前がいた幕末の世より単純ではあるが、お前より強い者などゴロゴロおる。そしてお前はバッドスキル付だ」

『最後のはよくわからないが、望む所だとさき程も言った。強い奴がゴロゴロしているなら片っ端から切って名実ともに最強の剣客になる。そしていつかお前を見つけ、犯し、切る』

「あははは! お前の青臭さが我は気に入った! よかろう。いつか我を蹂躙し、そして切ってみせよ。我も若者の身体など久しぶりだからな。考えただけでも疼いてしょうがないわ。まぁ楽しみに待っておる。せいぜい死なぬ事だ。そして若いうちに我のもとに辿り着け」


 急に何かに吸い込まれるような感覚になった。

 もう女の声も聞こえない。

 どうやら言い逃げされたようだ。


 本当にただの夢だったのか……わからない。

 でももし、もう一度剣を……振るう事が出来たなら――。





 「――い! おーい! 大丈夫かー!?」


 また声が聞こえてきた。

 しかし今度は耳に響いている。


「おーい! しっかりしろー! 大丈夫かー!!?」


 光が見え、まぶたがある。


「お!?気がついたみてーだな」


 目を開くと俺を覗き込んでいたのは……


「ぬぅおおおおわ!!とっ蜥蜴(トカゲ)!!!」


 咄嗟に起き上がり後方へ飛んだ。

 全身から汗が吹き出す。

 腰に手をやったが刀はない。


「おお!凄い身のこなしだな!」


 喋る! 服を着ている! 蜥蜴のなりして二本の足で立ち何より七尺(約2メートル)以上ある!


「それだけ動ければ心配ないようだな! 良かった良かった!」


 気遣ってくれているのか? まるで人のような……いや気を抜いては丸呑みにされかねない。


「おいおい。そんな怖い顔しなさんな。こちとらただの行商人。むしろ怖いのはこっちだぜ」

「……どうゆー事だ?」

「見た事もないボロボロの服、そこから見える鍛えられた体つき、そしてその身のこなしを見りゃー只者じゃない事ぐらい誰でもわかるさ。あんたはきっと戦える、俺は全く戦えない。怖いのはむしろ身元もわからないあんただよ」

「……たしかに」


 深く息を吸うと少し落ち着いてきた。


「何をそんなにビックリしてるのやら。ま、お互いに自己紹介でもすれば落ち着くさ! て事で人に名を尋ねる前には自分から。ってな!」


 こいつは人なのか?世界は広すぎる!


「俺は見ての通り蜥蜴人(リザード)だ! 名前はルー! 苗字はまだないけどよ、いつか超一流の商人になってカッコいい苗字と、ものすげーユニークスキルを貰うのが俺の夢さ!」


 リザードとやらは種族の名前みたいだが……ユニークスキル?ダメだ。

 全然わからない。

 流そう。


「武士以外でも苗字を名乗れるのか?」

「武士? なんだそりゃ? まぁよくわからねーが、その武士どころか、何処の誰でもその道の超一流だと国から認められれば苗字をもらえる。てかそんな簡単な事まで忘れちまうほどヤバい状態だったんだな」


 異世界。

 たしかあの女はそう言っていた。

 外国と言う事はないだろう。

 この眼の前にいる服を着た喋る大蜥蜴を見る限り、信じがたいが俺は全く知らない異世界に来てしまったとしか思えない。

 ある意味刀がなくて良かった。

 この大蜥蜴の言葉を信じるなら、こいつは普通の半人前の民だ。

 帯刀していたら話も聞かず切っていただろう。


「さぁそろそろ聞かせてくれよ! あんたの名前を! もちろん覚えていればな!」


 俺を怖いと言っておきながら妙に明るいなこいつ。

 こう言う種族なのか?


「俺は沖田総司。佐幕派の武士で新撰組一番隊の隊長、そして甲陽鎮撫隊の隊士をやっている――いや、いた。今はただの浪人だ。種族は……えーと……人?」

「だろうな!」

「じゃあ……人」

「人ってのは見りゃわかるよ! もしかしてそこも記憶なくしたのか?」

「え? あ、うん。ちょっと記憶が……」

「まぁ人は人だろーけど……森人(エルフ)にしては耳尖ってねーし、獣人(ビースト)にしては尻尾ねーし、地底人(ドワーフ)にしては華奢(きゃしゃ)だしな……わかった! お前は始人(ビーイング)だな!」

「ビーイング?」

「ああ。この星に一番古くからいる人種だと言われてるんだぜ」


 何よりもこの世界が蜥蜴だらけじゃなくてよかった。


「そう言えばよ、さっきから言ってる武士ってのは一体なんなんだよ?」

「この世界に兵士はいるのか?」

「世界にって……まぁそりゃー星の数ほどいるけどよ」

「ならばそれだ」

「やっぱり兵士だったのか! しかも隊長さんなんてすげーじゃねーか! さすが苗字持ちだぜー! どこの国の隊なんだい?」


 国か……。

 新選組も甲陽鎮撫隊も幕府所属の隊だ。

 でも異国人から国を聞かれてるからこの場合は――。


「日本だ」

「日本? 聞いたことねーな。結構地理には詳しい方なんだけどよ」

「そうか」


 当たり前だがやはり新撰組の皆はこの世界にはいない。

 近藤さん土方さん(あの人達)も、さやも。


「とりあえず自分の事はある程度覚えてそうだな。記憶がないってよりはちょっとしたパニック状態なのかもしれねーな」


 また異国語か。


「どっちにしたって早く休んだがいい。俺が街まで連れて行ってやるから一緒にいこうぜ!」


 まさかこの大蜥蜴たちがウヨウヨいるような街じゃないだろーな。


「その街に俺みたいな人種はいるのか?」

「いるなんてもんじゃねー。これから行く街は他種族入り乱れる大交易都市だからよ」


 よかった。

 それに今は情報も手に入れたい。

 人が多い街は好都合だな。


「わかった。あんたと行くよ」

「俺の事はルーでいいぜ! あんたの事は何て呼べばいい?」

「好きに呼んでくれ」

「んー。でも苗字持ちの人に偉そうな態度はとれねーしなー」

「それなら、沖田君」

「いやそれ硬すぎ! しかも君付けには抵抗あるそーゆー年頃! んじゃ総司って言うわ!」


 偉そうな態度とは?


「ここから街までそんな遠くねー。夕暮れまでには着くだろーぜ」


 暮れ六つまでか。


 そう言えば胸の苦しさも体のダルさもない。

 死ぬ前なら厠へさえ歩けなかったが、今は何処までも走っていけそうな気がする。

 京に上った頃と同じだ。

 数年ぶりに心が晴れ晴れとしてきた。


「ルー。走っていかないか?」

「え?いや、長旅終えて来た所だから無理無理!」

「なんだよ。その尻尾は飾りか?」

「尻尾がねー奴どころか、自分の人種すらわからねー奴が尻尾の何を知ってんだよ」

「ちぎれば体軽くなるかも……」

「いでででで! 引っ張るなー! それは最終手段! てか何でそんな事は覚えてんだよ!」

「武士の勘」

「勘で人の体ちぎるの!? 武士こわっ! 切れなかったどうするの!? 切れるからワンチャンいいけどさ! それに急に馴れ馴れしく――」

「しっ! ルー。殺気がする」

「さ……殺気!?」


 遊んでいてもビリビリ伝わってきた。

 ここまでの殺気は京の街でも感じた事がない。

 と言うより人はここまでの殺意は抱けない。

 憎悪、怒り、妬み、嘆き、色んな負の感情が混ざり合って純粋で巨大な殺意になっている。

 人のそれとは全くの別物だ。


「ルー。右の林からだ。何か武器になるような物はないか?」

「も、もしかして魔物!?」

「ルーいそげ。棒のような物なら何でもいい」

「わかった! えっとたしか……ここに……あった! 投げるぞ! 受け取れ総司!」


 ルーが投げた武器をその殺意に警戒しつつ掴み、そして構えた……が。


「これは!?」

「すまねぇ! 今1番長い物はその『ちょっとお得! 微妙に長いトング』しかねぇ!」


 トング? 聞いた事も見た事もない。

 だが触ってわかる。

 武器ではない。

 だから短刀より微妙に短い。


 しかしもう話している暇は無さそうだ。

 右の林……来る!


『ぐぎぎ……ガガ…………ぐ』


 その姿を見た瞬間、今までに無いほど強く心臓が胸を叩いた。


「っっっ!!!! しゃっ髑髏(しゃれこうべ)が……!!!!」


 腰が抜けかけてしまった。

 息が詰まって言葉も出ない。


「まままじかよ! こんな真っ昼間にスケルトンなんかでやがった!!」


 ルーが何か言っているが全く聞こえない。

 手足の震え……初めての恐怖。


「おい総司! お前元兵士で元隊長さんだったんだろ? だったらこんな魔物一匹ぐらい……って聞いてるのか! 総司!」


 死体なら何ともない。

 内蔵も切り口も大量の血も生首も幾度となく見てきた。

 転がってるのは常にもう二度と動くことの無い死体だ。

 でも目の前にいるあれは……死体の先……骨が動いている。


「おい! 大丈夫かよ! ……メチャクチャ震えてるじゃねーか総司! おい! 総司! しっかりしろ! 逃げるぞ! おい!!」


 何なのだこのおぞましい姿は。

 俺が今まで切ってきた奴らの怨念とでも言うのか。

 骨だけで動くなど……刀があっても無理だ。

 足腰に力が入らない。

 顎が自分のものじゃ無いように動いて歯がガチガチ響く。


「くそ! 駄目だ! 総司すまねぇ!!」


 頭に響く衝撃と共に不意に目の前が暗くなった。





 いつの間にか横たわっていた。

 当たりはすっかり日も落ちている。

 ルーの姿は見当たらないが焚き火のそばに行商用の大きな荷物が置いてある。

 夢では無かったようだ。


「あれがガシャドクロ」


 妖怪だ。

 初めて見てしまった。


 京の街で鬼と恐れられた俺も、妖怪には手も足も出なかった。

 いや、そればかりか立っている事すらままならず、息もできなかった。

 今思い返しても背筋に冷たいものが走る。


「お! 気がついたか?」


 ルーだ。

 薪を集めていたようだ。


「しっかし焦ったなー。まさかあんな所であんな時間にスケルトンが出てくるなんてよ」

「ルーが助けてくれたのか?」

「ああ。でも悪かったな。咄嗟の事とは言え気絶させちまってよ」

「いや、ああでもしなければ俺はただ震えたまま死んでいた。かたじけない」

「か……かたじ、けない?」

「ありがとうと言う意味だ」

「あ! そう言う意味か! なぁに。良いって事よ。それよりほら、昼の余りだけどパンでも食えよ」


 そう言うとルーはパンを投げた。


「パン?異国人が食べると聞いたことはあるが初めてだな」


 一口食べて気づいた。

 噛みごたえがある食べ物などいつぶりなのだろう。

 うまい。


 「パンも初めてなのか? しかもそんな味もないパン美味そうに食べてよ。あはは。総司は本当変わった奴だな」


 この世界では俺の方が異人なんだな。


「ところでルー、ちょっと聞きたい。さっきのガシャドクロ、あの妖怪は一体何だ? ルーはスケルトンとか言っていたが……」

「そっか……魔物の事も忘れちまってるのか。……よしわかった! 何でも答えるから分からない事があったらその都度聞いてくれよ! 俺がわかる範囲なら何でも答えるから! とりあえずスケルトンな!」


 ルーの見かけに完全に慣れたわけではないが、この世界に来て初めてあったのがこのルーで本当に良かった。


「さっき林の中から出てきたのはスケルトンって魔物さ」

「魔物?」

「そう。魔物って言うのはこの世界の何処にでもいて小型の魔物から大型の魔物まで数え切れねーほどいる。そして無差別に人を襲う」

「あんなのが無差別に人を……」

「そうさ。そして魔物は何処から来て何の目的で存在しているのかわからねー。聞いてみたくても殆どの魔物は獣並みの知能しか持ってねー。だから話もできねーのさ」

「まるで災害だな」

「お! 鋭いねー。そう。奴らは一種の災害みたいなもんだからよ、数千年に一度訪れると言われる大厄災と何か関係してるんじゃねーかっても言われてるな」

「大厄災?」

「まぁあんまり大厄災については詳しくはないんだけどよ、この世界の子供たちは必ず親とか村の爺様婆様たちからおとぎ話のように聞かされる、とーっても怖い話しさ」


 話せば話すほど分からない事が増えていく。


「色々聞きたいが一度には無理そうだ。とりあえずスケルトンって奴の事を知りたい」

「わかった。と言っても魔物に詳しい訳じゃねーから深い所まではわからねーぜ?」

「それでいい。ただひとつだけ。スケルトンを倒す事は可能なのか?」

「倒すって……まさかあいつとやり合うつもりなのか?」

「ああ。と言ってもまた腰が抜けて何もできないかもしれないが……」

「おいおい! またお前を担いで逃げるのは勘弁だぜ! スケルトンも足が遅いわけじゃねーんだからよー」

「わかってる。今度はどうにかする」

「どうにかするって言ったってよー」

「頼む。この通り」


 そう言えばあの人達にもよく頼み事していたな。

 あまり聞いてはくれなかったけど。


「うーん……わ、わかったよ! さっきはかなり震えてはいたけどよ、総司も苗字持ちの武士とか言う兵士ならやってやれねー事もねーだろーしな」

「すまない」

「良いって事よ。そんな事よりあのスケルトンってのは魔物の中でも特殊な奴らでよ、あいつらは不死身なんだ」

「不死身? 倒せないのか?」

「普通の攻撃、例えば砕いたり折ったりしても数秒で元に戻っちまう」

「本当に妖怪のようだな……」

「ただ粉々にすればするだけ再生される時間も僅かながら遅くなる、とも聞いたことがある」

「なるほど。ただし時間がたてば完璧に再生される」

「そうさ。だから普通の攻撃以外の攻撃をする」

「普通の攻撃以外? 他に何かあるのか?」

「ああ。王道なら浄化の上級魔法ピュアリフィケーション、強引に倒すなら炎系魔法で灰にする、もしくは氷系魔法で永遠に閉じ込めるとかな」


 何となくだが浄化する方法と火で灰にする方法、そして氷の中に閉じ込める方法があるらしい。

 当たり前だがお祓いなど出来るはずも無く、火で燃やすにしても灰になるまで待ってはくれないだろう。氷漬けにする方法なんて思いもつかない。


 魔法と言うものがそれを可能にするのだろうか。


「俺には打つ手無しなのか?」

「いや、ひとつだけ今の総司でも奴を倒せる方法がある」

「それは何だ? 教えてくれ」

「実はここにファイヤーボムと言われるアイテムがある。これは初級の火柱魔法バーンが込められてる魔法アイテムなのさ」


 どうやら道具の事をアイテムと言うらしい。


「そのファイヤーボムとやらを使えば火が出るのか?」

「火が出るなんてもんじゃねー。初級とは言え魔法だぜ?あの林の木の四〜五本は一瞬で燃えちまうさ。ただ……」

「どうした?」

「いやーこれ売りもんなんだよなー。そこそこ高値で売れる……」

「金なら俺がいくらでも払ってやる」

「おお! 金もってるのか?」

「いや、全く無い」

「あ! 家に帰れば金があるんだな!」

「帰る家など無い」

「なら矛盾! 『いくらでも払う』と『全く無い』は1番遠い言葉それ! リザードとワニ革バッグぐらい遠いわ!」

「いつか金が手に入ったら返す。付けにしといてくれ」

「……まぁ商売やってりゃーそんな事もあるけどよー……くぅ〜。せっかく次の街で売るアテがあったのに」

「次の街に行くまでにスケルトンにやられたら元も子もないだろ?」

「いや、迂回すれば戦わずして街に――」

「作戦はこうだ」

「ダメな奴だ! こいつ隊長とかにしたら絶対ダメな奴だ!」

「まず俺がお前から貰った『ちょっとお得! 微妙に長いトング』とやらでトング共々粉々に砕く。そして間髪入れずにお前がそのファイヤーボムとやらを使って灰にさせてくれ」

「ちょっちょっと待て! ツッコミどころか四つあるぞ!」

「ツッコミ? その言葉を知らん」

「五つに増えた!?」

「ルー……助けてもらって本当に感謝している」

「……な、何だよ急に」

「俺は記憶が曖昧でアイテムとやらの使い方すらわからない。それどころかまた腰を抜かして戦えなかったら再度お前に担いでもらう事になる。……わかってるよ。さっきからお前が隠してる尻尾の事も。逃げる為に切ってくれたんだろ?」

「あ、ああ! これ? あははは! まぁ自分の為でもあるし、また生えてくるしよ」

「ありがとう。自分の体を切ってまで助けてくれて」

「なんだよ、照れくせーじゃねーか! ははは」

「でも俺は武士だ。逃げたままでは命は助かっても心が死ぬ。心が死ぬと……本当にツラい」

「総司……」

「だから相手がどんなにおぞましい姿であろうと、どうしても戦いたいんだ。このトングが武器であろうと無かろうとどっちだっていい。お前から貰った大切な物だ。それに戦えるこの身体が……この気の有り様が、今はどうしようもないくらいに心地がいいんだ。ルー。お前のおかげだよ」

「トングあげて無いけどな……でもまぁ……わかった。わかったよ。お前と出会っちまったのが俺の運の尽きだ! 運が尽きちまったってんなら、迂回してもきっと他の魔物に出会っておっ死んじまうさ! だったらそのキラキラしてるお前の目に賭けてみるぜ! それが青春ってもんだよな!」

「青春? その言葉を知らん」

「おいマジかよ! ちょっとは勉強しろよな!」

「ふっ」


 久しぶりに笑った気がする。







[沖田総司/始人(ビーイング)

年齢:25歳

職業:無職

得意武器:刀

固有スキル:武士の勘 見切り 無明三段突き

ユニークスキル:青鬼


[ルー/蜥蜴人(リザード)

年齢:??

職業:行商人

得意武器:なし

固有スキル:暗算 

歴史とゲームが好きなので、駄文ながら自分の中の妄想を小説にしてみようと思い書き始めました。

沖田総司以外にも歴史上の人物を転生していく予定です。

仕事をしつつなので更新遅いと思いますが、コロナな世の中、少しでも皆さんの娯楽になり得たら幸いです。

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