親友と思ってた親友が実はアイドルだった件
俺の名前は『須藤 宏樹』高校2年の17歳だ。
気分の良い俺様は、今日も朝からバリバリ行くぜ!!(笑)
ガラッ!
「おーっす!」
「朝からうっせーぞ宏樹! そんな大声出さなくても聞こえるってw」
扉を開けて教室に入ると同時に挨拶をかました俺に対して、そんな文句を言ってきたのは親友の『清水 渚』だ。
コツは小学校からの腐れ縁なのだが、渚は体が少し小さいためにイジメられていて、俺が助けたことが切っ掛けで仲良くなったのだ。
長年連れ添っただけ有って、お互い良いも悪いも知ってる……まぁ、親友ってよりは悪友って感じかもな。
俺はそんな渚の文句を他所に、渚の前の席に座わった。
「渚、昨日のTV見たか?」
「何だよ藪から棒に、例のアイドルの話か? 良くもまぁ、毎度毎度飽きないよな~」
渚がそう言って、ヤレヤレと言うジェスチャーと共に、わざとらしくため息をついた。
「何言ってるんだよ! ナギちゃんは俺の心のオアシスなんだぞ!!
もしナギちゃんと付き合えるんだったら死んでも良い!!」
「お、おぅ……」
俺のテンションに渚が引きつった顔をしているが、そんなの知ったこと無い。
説明しよう! ナギちゃんとは、今人気絶頂アイドルグループ『リングルスター』のメンバーの1人で、ちっこくて可愛いいのに、歌も踊りも一生懸命で、俺の一押しのアイドルなのだ。
だから他の人がどう思われようが、俺はナギちゃんに人生を掛けても良いくらいハマっているのだ。
「それにしても昨日はレアなのが見れたよな~
間奏の間のステップでタイミングを間違ったのに、旨くアレンジしてより良いステップに変化させるって流石だよな~!
普通に見たら最初っからあの感じのステップをするに見えただろうけど、アレ絶対ミスった感じだよな。」
「何で知って!」
「ん?」
「あ、いや……よくそんな細かい所まで見てるよな、ホント感心するよ。」
「あたぼーよ! ナギちゃん検定が有ったら1級とる自信有るわ!」
「へーへー、そら凄いですねぇ~」
キーン コーン カーン コーン
その時始業のチャイムが鳴り響くと同時に、先生が教室へと入ってきた。
「ほら、楽しい楽しい勉強の時間だ。お前ら席に着け~!」
「ちっ、もう来やがった。まだまだ語り足りないってのに、仕方ない。」
「ほらほら自分の席に行った行った。」
渚がシッシッと手を振った。
「へーへーまた後でな。」
仕方が無いので俺も席に着くことにした。
・・・・
お昼休みになり、俺と渚は一緒に昼飯を食べていた。
「なー宏樹~」
「んー?」
「例えばだけどさ、もし、もしも道端でナギちゃんに会ったらどうする?」
「結婚する!!」
俺がそう宣言すると、渚がズッコケた。
「けっ……コホン。は、はぁ? お前何を言ってんだ?」
「だってそうだろ? 目の前にナギちゃんが居るんだろ? だったら結婚しない方が失礼だろーが!!」
「馬鹿はお前だ~!! 常識を考えろ!!」
「俺は至って真面目だ。」
「……はぁ~ 聞いた僕が馬鹿だったよ。」
「そういう渚は、ナギちゃんに会ったらどうなんだよ。」
「僕? そうだなぁ……サインくらいは貰うかな?」
「納得した。やっぱり渚は馬鹿だったな。」
「何だと!」
「だってそうだろ? サインを貰うだけで満足? ケッ! 馬鹿も休み休み言え!」
「じゃあ、どうするのが正解なんだよ!」
「最低でもまずは脳内ナギちゃんフォルダに写真を1万枚保存はデフォで、次にクンカクンカスーハースーハーって感じに匂いを嗅ぎまくる!!
後はナギちゃんの髪の毛をこっそり抜き取って、人体錬s……」
「待て待て待てええぇぇぇぇぇ~~~~~!!」
「んだよ、うっせーな!」
「うっせーなじゃな~~~~い!! 宏樹はいったい何をするつもりなんだ!!」
「何って、人体錬成だけど?」
「それって出来る物なの?」
「もちろん! 水35ℓ、炭素20kg、アンモニア4ℓ、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g。イオウ80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素に髪の毛を混ぜれば……」
「アウトー! それ出来たとしても腕持って行かれるから!!」
「何だよ、夢が無いなぁ~」
「もういいよ、好きにしてくれ……」
・・・・
放課後になり、そろそろ帰ろうかと思ったのだが、何か騒がしいな。
「おい聞いたか?」
「何をだ?」
「何かこの街に『リングルスター』が来てるんだってよ!」
「マジで!?」
「マジマジ!」
ガタッ!!
それを聞いた俺は勢いよく立ち上がり、一目散に教室を飛び出すのだった。
「お、おい、宏樹! 待てよ!」
渚が何か言っているが俺の耳には入らなかった。
・・・・
「はぁ、はぁ、はぁ、ど、何処だ! 何処に居る!!」
俺は必死に『リングルスター』を探して走り回っているのだが、一向に見当たらない。
「こうなったら仕方がない、このナギちゃんのストッキングの匂いを辿っ……」
スパーン!!
俺がカバンから厳重にジッ〇ロックしている袋を取り出そうとしたところ、頭を思いっきり叩かれてしまった。
「痛ってぇ!! 誰だ!!」
後ろを振り向くと、カバンを振り切った姿勢の渚がそこに居た。
「渚! いくらお前でもやって良いことと悪いことがな……」
「宏樹! それをどこで手に入れた!!」
渚がジッ〇ロックに入っている黒いストッキングを指差して驚愕している。
「これか? へへっ、良いだろ~! これ手に入れるの物凄く苦労したんだぜ?」
「良いからどうやって手に入れたのか教えろ!!」
「何だよ、渚も欲しかったのか? でもこれは俺の物だ、親友の渚だでもコレばっかりはやらね~よ!」
「違う! それはそもそもお前のじゃない! じゃなくて、それより何処で手に入れたんだよ!!
あの時いつの間にか……じゃなくて、まさか盗んだのって……いやあそこは関係者以外は……ブツブツ……」
「何言ってんだかか分からねーが、知りたいんだったら教えてやろう!
このお宝はな、伝手の伝手を使って闇売買人と接触できてな。そこから10万円で買った。」
「10万!?」
「まぁ多少高かったが、ナギちゃんの物と思えば安い安い♪」
「そんなのに10万って馬鹿かお前は! 偽物だったらどうすんだよ!!」
「俺の勘では本物だと言っている。」
「……まぁ、本物だけどさ。
後でマ……ャーに言っておかなきゃ(ボソッ)」
「あ? 何だって?」
「いや何でも無い。こっちの話だ。
それで宏樹はこれからどうするんだ。」
「もちろんナギちゃんの匂いを辿って探すつもりだ。」
「はぁ?」
俺はジッ〇ロックを少しだけ開き、出来るだけ匂いを飛ばさないようにして匂いを嗅いだ。
「クンカクンカスーハースーハー、これがナギちゃんの匂いか、良い匂いだ……こりゃたまんねぇ~~~!!」
「や、やめろ~! やめてくれ~!!」
何か渚が悶えているな。もしかして渚も嗅ぎたいのか?
「渚、いくら親友のお前でもナギちゃんの匂いは嗅がせないぞ?」
「嗅ぐか~!!」
「そうか。まぁ嗅がせないけどな。
よし、ナギちゃんを探すか!!」
渚のことは放っておいて、俺はナギちゃん探しに向かうことにした。
「クンクン……ん? 匂いが強ってことは近い!? 何処だ!!」
「なっ!」
渚が驚いているが今は後だ、ナギちゃんは何処だ?
俺は匂いを辿って……
「何で渚からナギちゃんの匂いがするんだ?」
「な、な、な……」
「まさかとは思うんだが、まさか渚は……」
「えっと、その、ち、違っ……」
「もう片っぽのストッキングの持ち主はお前だったのかあああぁぁぁぁぁ~~~~~!!」
俺はこんな身近にライバルが居たことに憤りを感じて叫んだ。
「ひ、宏樹の馬鹿やろおおおおぉぉぉ~~~!!」
渚はブルブルと震えると、そんなことを叫びながら走り去って行ってしまった。
「お、おい待てよ! 行くならストッキングを置いてけよ……って行っちまった。
まあ良い、今はナギちゃんを探さねば……」
渚が居なくなったことで匂いが薄くなってしまったってことは、やっぱり渚がストッキングを持って居るで間違いなさそうだ。
後で拝み倒して譲ってもらうことにしよう。
・・・・
次の日、俺が教室に入るとすでに渚が居た。他の生徒はまだ来てないみたいで見当たらない。
「お~っす。」
「宏樹か、おはよう。
何か元気無いな。どうしたんだ?」
「いや『リングルスター』の他のメンバーは見つけたんだけどさ、肝心のナギちゃんには会えなかったからな。」
「そりゃご愁傷様だな。
でも他のメンバーには会えたんだろ? だったらそれで良いじゃんかよ。」
「はぁ? ナギちゃんの居ない『リングルスター』なんて、カラメルの無いプリンや、シロップの掛かってないかき氷と一緒だ! 俺には何の価値もない!!」
「へ、へぇ、そうなんだ。」
「何で渚がニヤケてるんだ? キモいぞ?」
「う、うっせ~!!」
「と言う訳で、俺は今から不貞寝する。じゃあな。」
俺はそう言って机に伏せるのだった。
視覚情報がカットされたことで、聴覚と嗅覚が強化される。
すると、俺の鼻にナギちゃんの匂いが漂ってきた。
ガバッ!
「い、いきなりどうしたんだ?」
「今、ナギちゃんの匂いがした。何処だ!?」
「な、何を言ってるんだよ。そ、そんな訳ないじゃんか。」
「い~や、俺の嗅覚は誤魔化せない。こっちの方から……って渚からか?」
「!!」
渚が俺を見てビビっている。これはひょっとして……
「渚! やっぱり片っぽのストッキングを持ってるだろ! 俺に寄越せえぇぇぇ~~~~~!!」
俺がそういうと、渚がズッコケた。
「んな訳あるかあああぁぁぁ~~~~!!」
「いや、騙されねーぞ! 実は履いているんだろ。脱げ!!」
俺は渚のズボンを掴む。
「は、離せよ馬鹿!! 僕はそんなの履いてないって!」
「うっせ~!! 良いから脱げよ!!」
「や、辞め!」
スポーン!
俺は渚のズボンを脱がせることに成功した。
「ん?」
渚はストッキングを履いていなかった。
それにしてもお尻にネコさんの絵が描いてあるパンツって……ぷぷっ!
「お前、何てパンツ履いてるんだよ。」
「良いからズボンを返せ!!」
「へいへい。」
俺はズボンを渚へ返してあげた。
「……ったく。」
渚が向こうを向いて恥ずかしそうにズボンを履いている。
それにしても丸みを帯びた尻だな。それに足もツルツルだし。まるで女みてーな下半身だな。
「こっちを見るな!!」
「別に野郎の尻を見たってなぁ。まぁ渚の尻は何となく女っぽいけどな。」
「い、言うな!」
ズボンを履いた渚が、こっち向いて怒っている。
「それで何か言うことは?」
「あー、そうだな疑って悪かった。」
「それだけか? 他に言うことは?」
「そうだが?」
「……もういい。」
渚はガックリと項垂れていた。何なんだ?
・・・・
授業中、退屈な先生の話をぼーっと聞いてると、ふと今朝のことを思い出した。
結局ストッキングは無かったのは残念だったが、それなら何で渚からナギちゃんの匂いがしたんだ?
……はっ! もしかして俺の持ってない他の何か、例えばハンカチとかそう言った物を持っていたのでは!?
くっそー羨ましいぜ!! あとで譲ってもらうことにしよう。もし譲ってもらうのが無理だったとしても、せめて匂いだけでも土下座すれば嗅がせて貰えるのでは無いだろうか?
くうぅぅ~~~昼休みが楽しみだぜ!!
・・・・
お昼休みになったので、俺は渚の所に向かうことにした。
「渚~」
「ひゃい! ひ、宏樹!? な、何の用だ?」
俺が渚に声を掛けると、驚いた様に飛び上がった。
別に驚かせたつもりは無かったんだが、まあいいか。
「一緒に飯食おーぜ!」
「お、おう。」
俺達は机を合わせて昼飯を食べている。
今日の俺の昼飯はジャムとマーガリンが入ったコッペパンと牛乳だ。
まぁ、可もなく不可も無い味だ。
それに比べて渚の昼飯はしっかりとしたお弁当だった。
「いつも思うんだが、渚の弁当って小さくね?」
「そうか? まぁ僕は体が小さいのも有るからね、このくらいでちょうど良いのさ。」
「ふ~ん。おっ、その卵焼き旨そうだな! もらいっ!!」
俺が卵焼きを掴んで口に放り込む。
「あっ……」
残念だったな卵焼きはすでに俺の口の中だ。それにしてもこの卵焼き旨いな。
「渚のこの卵焼き旨いな。」
「そ、そう?」
「何で渚が嬉しそうにしてるんだよ。」
「だって、その卵焼きは僕が作ったからね。」
「すげー! 渚って自分で弁当作ってるのかよ。」
「ま、まーね。これでも結構料理は得意なんだよ?」
「へぇ~」
「よ、良かったらもう1個食べるか?」
「良いのか?」
「う、うん。」
「じゃあ貰いっと♪ やっぱり旨めぇ~! ……ってなにニヤニヤしてんだよ。」
「な、何でも無い!」
「変な奴……おっと、忘れる所だった。
渚、お前ってナギちゃんの私物を何か持ってるのか?」
「な、な、な何を突然。」
「いや、ストッキングは無かったが、他にハンカチとかそういったものを持って居るのかなって思ってさ。」
「……だったらどうするんだ?」
俺はジャンピング土下座を実行した。
「譲ってください~~~~~~!!」
おでこを床に擦り付けて必死にお願いをする。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 宏樹、恥ずかしいから土下座は辞めて! 頭を上げて!!」
「上げたらくれるのか?」
「わ、分かったから、あげるから、とりあえず元に戻ってくれ。」
「らっき~♪」
俺は土下座を終了して椅子に腰かけるのだった。
「まったく宏樹は馬鹿なんだから……」
「おうよ、でも馬鹿は馬鹿でもナギちゃん馬鹿だからな。
そこんところ所間違えんなよ?」
「はいはい。」
「で、何をくれるんだ?」
「そうだなぁ……明日用意してくるから楽しみにしていてくれ。」
「よっしゃああぁぁぁ~~!! ありがとう、心の友よ!!」
こうして俺はナギちゃんの私物を貰えることになったのだ。
・・・・
俺は朝、ワクテカしながら渚がやってくるのを待っていた。
かれこれ4時間ほど待っている。えっ? 時間がおかしくないかって?
ナギちゃんの私物だぞ? 日が昇ると同時には学校に居るのは当然だろ?
あぁ楽しみだ。早く来ないかな。
ガラッ!
「待ってました!!」
「ひ、宏樹!?」
「さあさあさあ早く早く早く!!!」
「ま、待って、出すから、落ち着け!」
「はいはいはいはいはい!」
俺のテンションを見た渚は、諦めた顔をすると、カバンから一つの紙袋を取り出した。
「はい。」
「ありがとうございます!!!!」
俺は腰を90度曲げて体全体での感謝を示した。
そして賞状を受け取る様に手をだしてうやうやしく受け取るのだった。
「何が入ってるのかな~♪」
袋を開けると、中に黒いストッキングが入っていた。これって!?
「どうせ片方だけじゃ使えないしね。折角だから宏樹にあげるよ。」
「うっひょおおおぉぉぉ~~~~~!! 渚、愛してるぞおおぉぉぉぉ~~~!!」
俺は思いっきり叫ぶのだった。
「・・・・」
ふと渚が真っ赤な顔をして口をパクパクしているのに気が付いた。
「なんだ、風邪でも引いたのか?」
俺が質問してみたが、渚の反応は無かった。
「大丈夫か?」
俺は渚のおでこに手を当てて熱を確認してみることにした。
ぴとっ。
「ひゃあああぁぁぁぁ!!」
突然渚が大声を出した。
「うぉ! ビックリした。どうしたんだよ。」
「ひ。」
「ひ?」
「宏樹の馬鹿あああああぁぁぁぁぁ~~~~~~!!」
「はぁ?」
渚は大声で叫ぶと教室を走って出て行ってしまった。
「何なんだ?」
俺はそんな渚を見送ることしか出来なかったのだった。
そして、渚はその日は教室に戻ってくることは無かった……
・・・・
昨日から渚の態度がオカシイ。俺のことをチラッチラッって見ている。
俺が見返すと、明後日の方向を向いて見て無いよアピールをしているが、バレバレなんだよな。
このままも埒があかないし、話をしてみるか。
「渚よ、何か有ったのか? 俺で良いなら話聞くぞ?」
「ひ、ひ、ひ、宏樹!? な、な、な、何にも無いよ?」
「嘘だな。その態度が何か有ったって証拠だろうが。ったく何が有ったんだ?」
「だから何も無いって!」
「馬鹿かお前は。何年親友をやってると思ってるんだ? バレバレなんだよ。」
「うっ……」
「ほれほれ。」
「そ、それじゃあ聞くけどさ。」
「うん。」
「ぼ、僕の友達の女の子の話なんだけどさ、実はす、す、好きだった男の子に愛の告白をされたんだって。」
「ほぅ?」
「でね、その子は……えっと、ど、どうすれば良いのかな?」
「そんなの簡単だろうが。」
「えっ? そ、そうなの?」
「ああ、お互い好きなんだろ? だったら付き合えば良いだけじゃんかよ。」
俺がそう言うと、渚が目を輝かせた。
「そ、そうだよね!」
「お、おう。」
俺は渚の勢いに押されてビックリした。
「あ、でも、その女の子って、その男の子に好きだって態度を見せたことが無いみたいなんだけど、どうすれば良い?」
「そんなもん知るか。」
「えっ……」
「だいたい人の気持ちなんてもんは、言わなきゃ伝わらねーんだよ! 言わずに伝わったらそいつはエスパーかってんだ。」
「そ、そうだよね。」
「だから俺は自分に正直に生きることにしてるんだ。」
「あはははっ、確かに宏樹はそうかもしれないね。」
「おうよ、だから俺は言ってやる。
ナギちゃああぁぁぁ~~ん好きだあああぁぁぁぁぁ~~!!
俺と付き合ってくれええぇぇぇぇ~~~~~~~!!!」
「………はい。」
「ん?」
何か今渚が返事をした様な……気のせいか。
「ま、こんなもんだ。」
「うん、これから宜しくね♪」
「お、おう?」
今までも宜しくしてただろうに何を言ってるんだ?
まあ良いか。
・・・・
放課後になったので帰ることにした。
「渚、じゃーなー」
「あ、宏樹待ってよ、一緒に帰ろ。」
「おう良いぞ。」
いつもだったら放課後は用事が有るって別行動してたのに珍しいな。
まっ、たまには男同士の友情を深めるのも悪く無いか。
俺は渚と一緒に学校を出るのだった。
学校を出たところで、渚が手を握ってきた。
「うぉ! 突然どうした!」
「手……繋いでも良い?」
「はぁ? 何を言ってるんだ?」
「駄目?」
「ん~駄目って訳じゃ無いが、男同士で手を繋ぐって変じゃ無いか?
それにあそこを見てみろよ、スケッチブックへ必死に描いてるヤツが居るだろ?」
いわゆる腐女子と呼ばれる方々らしき人が鼻息荒くこちらを見ていた。
「そ、そうだね。」
どうやら納得してくれたらしく手を放してくれた。
「それにしても突然手を繋ぎたいってどうしたんだよ。」
「……馬鹿。」
「はぁ? 何で俺が馬鹿にされなきゃんらないんだよ!」
「だって、僕たち付き合ってるんでしょ?」
「ちょちょちょちょっと待って!! 誰と誰が付き合うって?」
「僕と宏樹。」
「何時付き合い始めたんだ?」
「お昼休みだよ。」
「……記憶に御座いませんが?」
「嘘……さっきの告白は嘘だったの!?」
渚が泣きそうな顔でそう言ってきた。
「な、泣くな! あ~!! 意味がサッパリ分からん!!」
俺がそう言うと、渚はふと思い出したような顔をした。
「あっ!」
「ど、どうした。」
「そうだったよね、言わないと分からないんだったよね。」
「確かにそんなことを言った記憶は有るが……」
すると渚が俺の耳元へ背伸びをして近づくと
「僕、ううん、私がナギだよ。ビックリした? でも、他の人には内緒だからね?」
「あぁ……って、えええぇぇぇぇ~~~~!!」
「これから宜しくね、宏樹♪」
確かによくよく見れば顔や体つきはナギちゃんにソックリだ。髪型を変えれば正に本人と言っても問題なさそうだ。何で今まで気が付かなかったんだ?
「一応確認で聞くが、渚ってナギちゃんで、女の子で良いんだよな?」
「そうだよ? 確認してみる?」
「確認ってどうや……」
チュッ♪
「えへへっ♪」
「えへへっ♪ じゃなぁ~い!! どうすんだよ!!
あそこで目が血走って一心不乱に描いてる人が居るんだぞ!! 俺達は薄い本にされちゃうんだぞ!! 分かってるのか!!」
「僕は気にしないけど?」
「俺は気にすんの! だいたいキスじゃ男か女かなんてわかんねーだろうが!!
まぁ、柔らかい唇が気持ち……何でもない!!」
俺がそう言うと、渚は顎に指を当てて考え込んでいる。
「うん、じゃあ!」
「待て待て待て、此処じゃ目立つ。とりあえず移動しよう。」
「あっ、そうだね。じゃあ僕の家に行こうよ。」
「そうだな。」
思わず了解してしまったが、俺って渚の家には行ったこと無かったな。
一応女の子だって言うのなら、俺が行っても良いのだろうか?
まぁ事実を知るためにも行くべきだろうな。
・・・・
「じゃ~ん! 此処が僕のお部屋で~す♪」
「お、おう。」
渚に案内されて入った部屋は、何とも乙女チックな部屋だった。
部屋いっぱいにナギ……いや、渚の香りがして頭がクラクラしてきた。
確かにこの匂いは俺の知っている匂いだ。
「ね、ねぇ、どうかな?」
「どうかなって、何がだよ。」
「この部屋。」
「そ、そうだな、女の子らしくて良いんじゃないか?」
「そっか♪」
「だけど、部屋が女の子らしいとと言っても女の子の証明にはならんからな。」
「あはははっ、分かってるよ~
じゃあ、準備するから座って待っててよ。」
渚がそう言ってクッションを置いてくれたので座ることにした。
そして部屋から出て行ったので待つことにするのだが、なんだか落ち着かない。
「それにしてもどうやって女の子の証明をするつもりなんだ?」
確かに女の子だって告白された後は、十中八九間違い無いと断言できるのだけどな。
「ま、まさか……」
一番簡単な方法は、男性のシンボルの有無の確認だ。
まぁ手術で取ることも可能だろうが、さすがに高校生で手術はしてくれないだろう。
と言うことは無かったら本物と言うことだろう。
ゴクリ……
思わず喉が鳴った。
もしかしたら今服を脱いでいる最中なのかもしれない……
・・・・
「……来ないな。」
渚が部屋を出て行ってから30分ほどが経過したのだがまだ戻ってくる気配は感じなかった。
服を脱ぐだけならここまで時間は掛らないだろうから、もしかして恥ずかしくて入れないのか? この照屋さんめ♪
俺はいそいそと扉を開けてみたが、そこには渚の姿は無かった。
「違ったか。」
いい加減待つのも飽きてきた俺は、渚の部屋を物色してみることにした。
「まずはこの引き出しから。」
俺はタンスの引き出しを開けると、丸められた布が綺麗に並べられていた。
「何だコレは?」
俺は一つ取り出して広げてみると、それは可愛いフリルが付いたパンツだった。
「こ、こ、こ、これは!?」
思わず動揺したのだが、疑問もわいて来た。
どう見ても体のサイズとパンツのサイズが合ってない気がする。
こんなのが捌けるのか? と左右に引っ張ると、パンツがそれに合わせて伸びた。
「おぉ!」
思わず感動してしまった。なるほど、女の子のパンツはこんな感じなんだな。
その時、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。マズイ!!
俺は急いで引き出しを閉め、パンツをパンツ……やばい仕舞い忘れた!!
足音はもう部屋のすぐ近くまで来ている。再度開けてしまうには間に合わない!
「仕方がない……」
俺は手に盛ったパンツをズボンのポケットに押し込み、クッションに慌てて座った。
ガチャ!
「お待たせ~」
そのタイミングで渚が部屋に入ってきた。ギリギリセーフだ。
「お、お、お、遅かったな。」
思いっきり動揺していたので、どもってしまった。
「? うん、待たせてごめんね。中々見つからなくてさ。」
だが渚は気が付かなかったみたいだ。ほっ……
「で、何を持って来たんだ? 俺はてっきり……」
「てっきり?」
「いや、何でも無い。」
とりあえず裸では無かったことに安心したのと残念な気持ちは有ったが、渚は何か証明になる物を持って来たみたいだ。
「はい、これ。」
何か手帳みたいな物を渡されたので確認してみる。
「母子手帳?」
中身を確認すると、生まれた年、身長、体重、血液型、そして性別が記載されていた。
「確かに女の子と書いて有るな。」
「でしょ?」
「体重は4850gか、結構重かったんだな。今はこんなにも小っちゃいけどな。」
「ぶぅ! こればっかりは伸びないんだもん、仕方ないじゃん!」
「まぁとりあえず渚が女の子だってことは分かった。でも、だったら何で普段は男の恰好をしてるんだ?」
「えっと、宏樹は私のデビューって何時だか知ってる?」
「愚問だな。5歳と4か月に子供服のキッズモデルをやったのが、ナギとして最初にした仕事だな。」
「よ、よく知ってるね。」
「まーな、俺のナギちゃんデータベースには知らないことは何も無い!」
「……私がナギって知らなかったくせに……(ぼそっ)」
「ぐはぁ!」
俺の心に23948のクリティカルダメージを受けた。
「しゃーないじゃん、ナギちゃんの個人情報は色々とトップシークレットだったしさ。」
「そうだけどさ、宏樹ってばあれだけ騒いでた割に全然気が付いてくれないんだもん!」
「そ、そ、そ、それはだな、そのーまさか渚が女の子だって知らなかったからで……
そーいや、男の恰好の理由がそのデビューに関係することなのか?」
「うん、モデルだけだったらそこまででも無かったんだろうけど、その後に子役として出たドラマがちょっとね。」
「アレは凄かったよな~俺も見てたし、それでナギちゃんのファンになったからな。
……って、もしかしてそれが原因なのか?」
「うん、人気が出た御蔭で外を歩けなくなっちゃって引っ越すことになっちゃたんだ。
目立つのが嫌になったから、男の子として過ごすことになったんだよね。
ただ、今度は違った意味でイジメられるようになっちゃったけどね。」
「なるほどな、確かに俺達が出会った時がそんな感じだったな。」
「……何で宏樹はあの時助けてくれたの?」
「おれはああいったイジメるヤツらが嫌いっての有ったからな。
それに、今思えば渚に何かを感じ取ったのかもしれないな。」
「そっか。御蔭で宏樹と出会えたんだし、あの人たちには感謝だね。」
「そうだな。でも、何で渚はイジメられてたんだ?」
「えっとね、人と関わりたくなかったから孤独で暗かったっても理由だったかもしれないけど、トイレをね……ごにょごにょ……」
「トイレ? そーいやイジメの現場もトイレだったな。……ん? 何で男子トイレに居たんだ?」
「男の子として生活してたのに女子トイレに入れないでしょ!」
「そりゃそうだ。」
「それでね、えっと、いつも個室を使ってたから……その……」
「あー、なるほどな。」
小学生の時って、男で個室で用を足すのはう●こと決まってるからな。納得だ。
「と、とにかくこの話はこれで終わり!」
「おう。」
ピトッ♪
話が終わったとばかりに渚が俺の脇に引っ付いて来た。
「な、な、な、何だ、どうした!」
「駄目?」
俺が慌てて聞くと、渚が上目遣いで聞いてきた。
「べ、べ、べ、別に駄目って訳じゃないが、突然でビックリしただけだ。」
「やった♪」
渚は嬉しそうだ。ただ、女の子だと分かってはいるが、学生服で寄り添うのはちょっと……
俺のそんな考えが顔に出ていたのか、
「宏樹、どうしたの?」
渚が聞いて来たので正直に言うことにした。
「いや、渚が女の子なのは分かったが、男の恰好でくっ付くのはちょっと違和感が有ってな。その……」
「あ、ごめんね。
じゃあ着替えるからちょっと向こうを向いて……は恥ずかしいから、一度部屋から出て貰っても良いかな?」
「お、おう、分かった。」
俺は一度渚の部屋から出ることにした。
・・・・
ガチャ!
「お待たせ~」
待つこと30分で、渚が扉から顔を出してきた。
「遅かったな。」
「宏樹に可愛い姿を見せたいと思ったら迷っちゃって。ごめんね?」
てへぺろって感じの渚はとっても可愛かった。うん許す!
俺は部屋の中に入ると、すっかりと女の子の恰好をした渚が居た。
Vネックのセーターにミニスカートで生足の可愛らしい恰好だ。
「ん? 胸が有る?」
俺のおっぱいスカウターで確認すると、間違いなくナギちゃんと同サイズのおっぱいがそこに有った。
「えっと、学校ではさらしを撒いているからね。」
「なるほど。」
「で、これを被ると……」
渚がウィッグを被ると、そこには間違いなくアイドルのナギちゃんが居たのだ。
「結婚して下さい!」
俺は速攻で結婚を申し込んだ。
「あはははっ、本当に結婚申し込むんだ。宏樹らしいね。」
「俺は嘘を付かない男だ。」
「でも、結婚は無理かな~」
「そっか……」
俺はショックのあまりガックリと項垂れた。
「ナギちゃんと結婚出来ないこの世界に未練は無い。死のう……」
俺は立ちあがり、窓を開けて……
「待て待て待て待って~~!」
「何か用か? 止めても無駄だぞ?」
「だから何で宏樹はそう短絡で融通が利かないの! 話は最後まで聞きなさい!」
「聞いたぞ、だから無理なんだろ?」
「そりゃあ無理ってしょ! 宏樹は今何歳?」
「俺? 誕生日が先月来たばっかりだから17歳だな。」
「日本で結婚出来る年齢は?」
「えっと、女性が16歳で男性が18歳……あっ!」
「そう、法律上無理なの! 分かった?」
「お、おう……って言うことは、俺が18歳になったら、その、結婚してくれるのか?」
「う、うん……いいよ……
でも、それまでは彼女にして欲しい……かな?」
「するする!! いやっほおおおおおおぉぉぉぉ~~~~~~~!!!!!」
「ちょ、ひ、宏樹、嬉しいのは私も同じだから分かるけど、声が大きい!」
「叫ばない方が変だろ? ナギちゃんが彼女で結婚だぞ?」
「ったく、仕方ないなぁ~
あ、でも、出来れば本名の渚って呼んで欲しいな。」
「悪い、渚な、おっけー」
「へへへっ、これから宜しくね♪」
「おう!」
こうして俺達は付き合うことになった。
渚は甘えたがりの性格だったらしく、学校でもべたべたと甘えるようになった。
御蔭で俺達はウホッ! の関係に見られることになってしまったが、俺的には些細なことだ。
裏では薄い本が出回っているとの噂も有ったが、見たことが無いので詳しくは知らん。
「宏樹、だ~い好き♪」
「おう、俺も渚が大好きだぞ。」
これからアイドルと付き合うと言うことで色々と苦難も有りそうだが、何とかなるさ!
親友と思ってた男友達が実はアイドルだったのは想定外だったが、まあ結果オーライだ。
おしまい
本当は連載で書こうと思ってたけど飽きたので短編になりました(笑)